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魔女の話  作者: よし
1/8

魔女①

タイトルは仮!!

 森には不老不死の魔女が住む。

 そんな噂がまた村に流れ始めた。

 いつもは客引きの掛け声やら、値段にケチをつけて値切ろうとする客なんかで騒がしい市場が、そのうわさが広がる頃になるといつも、ほんの少しだけおとなしくなった。

 尾ひれつき放題のでたらめな噂話を聞くたび、不機嫌そうな顔で帰ってきたじいさんの顔が浮かぶ。頑固で生真面目で、面倒なじいさんだった。

 そんなじいさんが死んで二日目の朝。

「なぁ、やっぱり行こうと思う」

 縁側に腰掛けて片肘つきながら宙を眺めていた青年は、ゆっくりと視線だけで声の主をとらえる。向こう側が透けて見えそうな灰色の瞳は半分瞼に隠されて、視線は隣に立つ男の足元に落ち着いた。

 この場所、この距離が二人の定位置。

「兄さんがそうしたいなら、俺は、かまわないけど」

 兄さんと呼ばれた男は緩慢な動作で横目に弟を見ると、小さく息をつく。

「じゃあ、すぐ帰ってくっから、家のこととか頼むな」

 それだけ言って村を後にした、彼の瞳もまた、透けるような灰色であった。

 その日からいくら待っても男が村に帰ってくることはなく、男が森で失踪したという話が知れるや否や、きっと魔女に喰われたに違いないなんて噂も出回り始めた。

 この村の人間は行方知れずの村人の安否より、尽きない噂話に花を咲かせて、原型もわからないほど膨らませることがよほど楽しいらしかった。

 不作が続けば魔女の呪い、物がなくなれば魔女に盗まれたと。

 いつの間にか全ては魔女のせい。

 これじゃあ魔女もたまったもんじゃないだろう、なんて、そんなことを思う。

 男が村を出て十日目の朝。

 いつものように縁側に腰を下ろし、目を閉じる。最後に兄と言葉を交わした日の、あの後姿を思い出す。

右手に握りしめられた一枚の紙切れ。じいさんが死ぬ前に残した、手紙と呼ぶにはあまりにも粗末な、けれど俺たちに残した、たった一言。


 魔女の森へ行け


 森に入れということではない、おそらく魔女に会いに行けという意味の言葉。

 乾いた風が吹き抜ける。

 ゆっくりと目を開ける。そして小さく、息をついた。

 それはいつかの彼の兄のように。

 そしていつものように片肘つきながら、一人で、宙を眺めるのだった。


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