終話 ヒカリのヤミ
「ほら、一緒に帰るわよ、兄ちゃん」
その視線は冷たく。
その声は淡白で。
その姿は静閑に。
ひかりはあまりにも自然に、僕の日常に帰ってきた。
あのとき僕が選択したのは、ひかりだった。
夢菜の猟奇は選ぼうとも思わなかった。
たとえ夢菜だろうとも、僕は、ひかりの幸せを遮るやつは許さない。
夢菜はそんな僕の言葉を受け取ると、ふらりと姿を消した。
バルコニーから消えただけではない。
崖の上に転がっていた雛菊の頭部を抱えて、どこかに消え去った。
数日後、雛菊姫子が引っ越したという噂を聞いた僕は、なにも詮索しようとは思わなかった。
雛菊は死んだのだ。僕が愛した雛菊姫子は死んだ。
そして夢菜を捨てた僕には、彼女の行く先を詮索する資格もなかった。
僕はひかりと二人で生きることを、選んだのだから。
ひかりは、ひとつだけ嘘をついていた。
ひかりの頭部は、まだ残っていた。
東雲家の庭からはなにも見つからなかった。雛菊の胴体も、東雲の胴体もなかった。
どこに消えたのかは謎のままだった。
ひかりは教えてくれない。東雲はもういない。もしかしたら彼女たちの体もまた、どこかで死に永らえているのかもしれない。
あるいはどこかで、僕はその姿を目撃しているのかもしれない。
ただ、ひかりの頭部のはすぐ近くにあった。
ペンションのそばの土のなか。
そこから樹脂化した自分の頭部を掘り出したひかりは、それを体と癒着させて笑んだ。
「ただいま、兄ちゃん」
その化け物は、まぎれもなく僕の愛する妹だった。
僕はひかりの復讐のために生きる。
恋人はもういらない。
妻も子供もつくらない。
ただ、僕には妹さえいればいい。
死なない妹がそばにいる。それだけでいい。
「あたしは一生をかけて、兄ちゃんとあたしを殺し続けるの」
もしかしたら僕の知らないどこかで、夢菜が誰かの子供を産むかもしれない。
もしかしたら僕らの隣にいる誰かが、僕たちのような化け物だったと知るかもしれない。
そんなとき、小柄な化け物が向かうだろう。
首を刎ねられても死なない化け物が、研ぎ澄まされた包丁を持って向かうだろう。
昏い闇のなか、鋭い瞳を光らせて。
復讐を刻んだ心をその身に宿し、獲物を見据えて笑うのだ。
「復讐を、始めるわよ」
病んだように、嗤うのだ。
完結です。
ありがとうございました。
至らぬ部分もあったと思いましたが
ここまで読んでいただきとても感謝しております。
ほんとうにありがとうございました。
評価、感想等、忌憚なき意見を頂けると幸いです。
それでは、いつかまたどこかで。
裏山おもて




