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9/11

 俺は栗平さんと2人で、彼女の会社に向かっていた。俺の部屋に4人が集まった日の翌日、土曜日のことである。ちなみに怜と綱島は俺の家で留守番だ。

 まあ既に帰宅しているかもしれないが。


「うわー、緊張してきたー」

「普通にしてもらって大丈夫ですよ。私がなんとかしますから」


 そろそろ到着しようかという頃になって、俺はなんだか緊張してきてしまった。やはり、見ず知らずの人たちのコミュニティに飛び込んでいくのは、大なり小なり緊張してしまう。

 これでも教師という職業も手伝って、だいぶ慣れた方だとは思うのだが。


「いや、女性のホーム(会社)に挨拶に行くなんてやっぱり緊張しますよ」

「稲城さん……その言い方は……」

「お前のような馬の骨にこの娘は渡さん! とか言われちゃったらどうしましょうか?」

「稲城さん、一体なにをしに行くつもりなんですか?」


 まあ冗談だけど。せっかくの休日につきあっているんだ。多少はいい思いをさせてもらってもいいと思う。


「部長の渋沢(しぶさわ)さんは温和な人なので、きっとすぐに打ち解けることができると思いますよ」

「まあ別に俺も、初めて会う人と話すのは苦手な方ではないので、大丈夫だと思います。

……ところで、ここまで来ておいて難なんですけど、栗平さんの会社は何をやっている会社なんですか?」

「えっ!? ええと……靴に靴ヒモを通している会社です。」

「それは会社なんですか!? 内職レベルだろっ!」



 それなりに愉快な、ただし不毛な会話を繰りひろげているうちに俺たちは目的地に到着した。

 そこは、雑居ビルと言うには綺麗すぎる、テナントビルの1階だった。看板には(株)デジタルメディア金山 と書かれている。

 看板だけでは何をやっているのか検討のつかない会社だ。というか靴ひもの会社ではなかったのか? なんでデジタルメディアなんだ?


「オフィスに入ったら、渋沢さんに稲城さんのことを軽く紹介しますね。そのあと自己紹介をお願いします」


 そう言って彼女はビルの中に入って行った。

 ここで俺がいなくなったら彼女はどういう反応をするのか? という嗜虐性をくすぐられる提案が一瞬頭をよぎったが、俺にも何のメリットもないのですぐに廃案にし、あとに続いて俺もオフィスに入った。


「渋沢さん、ただいま戻りました。遅くなってしまってごめんなさい」

「おお栗平、帰ったか。いや、お前にしたら1日で帰ってくるなんて快挙じゃないか」


 ほうれん草を購入するのに1日、で快挙なのか……。


「ん? それでそちらの方は?」

「こちらはほうれん草研究家の稲城翔さんです。スーパーで会って、少し助けてもらったんです」

「どうも、ほうれん草研究家の稲城です」


 ……いま思ったが、この説明はかなりアブナイ紹介なのではないだろうか?

 例えば、俺の前にいきなり「こんにちは。折りたたみ傘研究家です」と名乗るやつが現れたと考えたらどうだろう? とりあえずそいつが所持金1万円以上でない限り、俺はそいつのことを信用できないと思う。

 そう考えると、俺も教師という安定した職に就いていることをアピールした方がいいのだろうか? 悩ましいところだ。


「なんと!? 稲城さんはほうれん草研究家なのですかっ? あのドラゴンをほうれん草のみで倒すという、あのほうれん草研究家ですか!?」

「いえ、そのほうれん草研究家ではないです。」


 なんだ? 俺の知らないところでは、ほうれん草研究家=ドラゴンスレイヤーなのか?


「そのほうれん草研究家ではないのであれば一体どのほうれん草研究家なのですか?」

「いや、普通にほうれん草の優れている点・劣っている点について研究しているほうれん草研究家です」

「そんな方がどうしてここに?」

「いや、普通に栗平さんについてきただけですが……。俺がドラゴンを倒すほうれん草研究家だったら自然なんですか?」

 それこそ「そんな方がどうしてここに?」というべき状況だと思うのだが?


「栗平についてきただけ……ですか……。

はっ! わかりましたよ! 稲城さん、ちょっとこちらへ」

「ん? 一体なんでしょうか?」


 そう言って渋沢さんはオフィスのすみに俺を連れていった。俺は栗平さんに助けを求めようと思ったが、栗平さんもこの展開の意味がわからず頭からクエッションマークを出している。これは自分で切り抜けるしかないようだ。


 ある程度栗平さんと距離が空いたことを確かめると、渋沢さんはおもむろに切り出した。

「なあ、稲木君? ……どこの馬の骨ともわからないやつに由梨はやれないぞ?」


 本当に言われた! まさかこのセリフを言われるとは! 冗談だったのに!

 てか、あんたは何者だ! 栗平さんの保護者か!?


「いやいやいや! ちょっと待ってください! 別に俺はそんなつもりで来たんじゃないですよ!」 

「ああ、わかっているよ。最初はみんなそう言うのさ。「そんなつもりじゃなかったんだ」とね」

「いや、それはまた違う話でしょ! 逮捕的なことをしでかしてしまった人の言い訳でしょ!」


 だからあんたは何者なんだ! 刑事か!?


「だったら何をしに来たというんだ! ほれ! 言ってみろ!」

「いや、だから単に、栗平さんのつきあいで……」

「なに!? 『栗平さんと付き合うので』だって!? ほれ見たことか!」


 なんなんだあんたは! 難聴か!?

 しかもなんだか口調が荒くなってるし。


 くそう、この部下にしてこの上司ありか……。

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