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みなさん、こんにちは。栗平由梨です。
さてさて私はいま、
見知らぬ男の人の部屋にいます。
◇◆◇◆
1話・2話を読んで、栗平さんが主人公だと思っていたみなさん、こんにちは。実は主人公の稲城翔です。
さてさて俺はスーパーで栗平さんという女性と出会った。そして、
部屋に連れ込んだ。
……ええと、現在皆さんの中で私の好感度は「さるかに合戦のサル」程度だと思う。
ただちょっと待ってほしい。私についての評価を地に落としてしまう前に一人の人物を紹介させていただけないだろうか?
私が紹介したいのは、綱島新太郎だ。
新太郎はいわゆるplayboyに近いやつである。プレイボーイというと“軽いやつ”というイメージがあるだろうが、新太郎はそういった性格の悪いやつな訳ではない。女性と接するときはとても真面目なやつである。
ただ、その数が圧倒的に多いだけで。
街で好みの女性を見かけようものなら、新太郎は必ず声をかける。その手腕たるや、もはやほれぼれするほどだ。
俺が一度目にしたときは、
「あ、君ってリポビタンEに似てるよね。見てると元気が出そう!」
と言っていた。さすがにそのたとえはないと思った。
せいぜい、オロナミンDだろう。
もっとよく綱島の性格を表しているエピソードとしては、
「今日は一人も女性に声をかけられなかったよ。電車の中でいい人を見かけたんだけどなぁ~。俺も女性関係が誠実になっちゃったよな~。」
と悔しがっていたことがあった。そのとき俺は思ったものだ。
「確かに君は神のように誠実な男だ。まるでゼウスのように。」と。
あまり知識がない俺にとっては、ギリシア神話で登場する全能の神ゼウスは『女神にちょっかい出すたびに子供を作る奴』程度の神様でしかない。
女性にちょっかいを出す頻度は綱島といい勝負だ。
綱島は友達としては悪いやつではないし、付き合っていて楽しい。
ただ、女性へのアタックの数が異常。ある意味純粋。
そんなやつだ。
さて、ここまでの綱島の紹介によって、勘のいい人は既に予想して頂けていると思うのだが、
俺が部屋に栗平さんを連れ込んだことは、綱島には全く関係がありません!
全部俺がやったことです!
……いや、ごめん。ちょっと待ってほしい。俺への好感度を、コンクリートで固めて海の底へ沈めてしまう前に、もう一度話を聞いてほしい。
べつに俺は、変な目的があって栗平さんを部屋に連れ込んだわけではないのだ。ただ、泣いている女性を放ってはおけないという親切心からなのだ。
信じてくれ。
ではなぜおれが綱島を紹介したかというのも当然の疑問だ。
お答えしよう。理由は至極簡単だ。
いまこの場に綱島がいるからだ。
「おい、稲城! 栗平さん、かわいいな! メアド聞いてもいいかな?」
「やめてくれ! ただでさえ、知らない男に連れてこられて不安がってるのに、余計怯えさせるだろ!」
一人で女性と話す自信がなかったので、綱島に相談したら、「だったら」と来てしまった。状況は悪化したと言っていい。
とにかくこうなった(自らこうした)以上は、栗平さんに事情をきいてみよう。
「ええと、栗平さん?」
「は、はひっ!」
……やばい。怯えている栗平さんかわいい……。もう少しいじめてみたくなってきた……。
……は! ゲスいぞ、俺! 栗平さん、すごい身構えてるじゃないか!
「この世の男性は全員、信用しません!」って目で睨んでるよ。
あと「この世の男性は、みんなオネエになってしまえばいいんです!」って意志も感じる。なぜか。
「ええと……落ち着いてください。泣いている女性に変なことするつもりはありませんから。」
「えっ! じゃあ私が泣き止んだら、変なことするんですかっ!?」
しまった! そう解釈するとはっ!
「しません! 泣き止んでも変なことするつもりはないです!」
「そんなっ! 私、そんなに魅力ないですか?」
なぜそう解釈した!?
「そういうことじゃないんです! 落ち着いてください! ……変なことされたいんですか?」
「ああっ! やっぱり変なことするつもりなんですねっ!?」
どうすりゃいいんだ!
「ああ……やっぱり変なことするんですね……。一人トマト祭りとか、一人騎馬戦とか、一人ドッジボールとかするんですねっ!?」
「俺は何者なんだっ!? しないよ! まあ、この状況、一人相撲はしてると言えるけどね!」
「あ、うまいですね。」
うまくないよっ!? 自分ではどうかと思ったよ!? それに、正しく使っているかもあやしいしね。
くそう……。自分も悪いとはいえ、話が進まない……。
「はじめまして栗平さん。俺、綱島新太郎っていいます。メアド交換しませんか?」
「はうっ! すいません!すいません!すいません!すいません!すいません!すいません!」
「綱島は黙っててくれ! 状況が手に負えなくなる!」
というより、既に俺の手には負えなかった。
◇◆◇◆
さて、栗平さん視点に戻るのか? と期待した諸君。
野郎で申し訳ない。かわらず稲城翔だ。
「何でお前なんだよ! どうせ語り部が二人いるなら、女性にしろよ!」
という意見もあるだろう。特に飢えた男性諸君は。
だが俺はそんな意見に一切耳を貸すつもりがない! あしからず。
そんな野郎どもの考えはいくら踏みにじってもいいが、女性の考えにはしっかりと配慮しなければならない。
そう。俺は綱島を呼んだ時に思ったのだ。
「あれ? 男の人数だけ増えるって、栗平さんにとって不安以外の何物でもないんじゃね?」と。
「呼んでから気づくのかよ!」とツッコミをされた方が多いのではないかと思うが、私に返すことができるのは「まことにその通りでございます。私の配慮が至りませんでした。」のみである。
現に栗平さんにとっての、この状況は『知らない男に連れられて、見知らぬ部屋に押し込まれ、面識のない男2人に見張られながら、泣いている。』である。この状況を聞いて誰が平穏な風景を想像できるであろう? 俺ですらできない。
ただ俺は気づくことができた。今の状況が芳しくないと。
そこで手を打ったのだ。みなさんにも後々ご披露できると思う。
ただ私の現在目下の悩みは、この二人だ。
「ねえねえ、栗平さん! なにか好きなものある?」
「えっ、えっと……。妹……です。」
「へ~! 妹さんがいるんだ! かわいい?」
「は、はいっ! 人間で最も可愛い人がいたとしたら、その人よりさらに可愛いと思います!」
栗平さん、それはもう人ではないです。
口調からすると、栗平さんはまだ緊張しているみたいだな。なんとか安心感を持ってもらえたらいいんだけど。
それにしても綱島のやつ、栗平さんと話しすぎだな。俺を差し置いて仲良くなるなど言語道断だ。あとで尋問だな。
ただ栗平さんに妹さんがいることを聞きだしたのはGood Jobだ。誉めて遣わそう。
「栗平さん、ごめんね。綱島は普段からこんなやつなんだ。気にしないでね。」
「あ、いえ……大丈夫です。……………稲城さんに比べたら………」
「栗平さん!? なんだか俺にきつくない!?」
さっきから俺に対しての口調がきついのも、きっと緊張しているせいだ。そうに違いない。
……ああ、一刻も早くこの状況が改善しますように。
ほうれん草よりキャベツが好きです。