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 私はスーパーにいた。時刻にして午後6時のことである。

 ……ああ、そうですよ? 会社を出発から9時間後のことですが何か?



 もう既に私は泣きそうであった。

 なぜほうれん草を買うだけでここまで時間がかかってしまうのか、自分でも不思議だった。情けなく、悔しい思いがこみ上げてきた。

 こんな失態をおかしてしまっては、きっとクビになってしまうだろう。これで会社の仲間とも別れることになってしまう……。


 ああ、ごめん。さっきの言葉を訂正する。


 私は既に泣いていた。


 ◆◇◆◇


 俺は仕事を終えて、夕食を近所のスーパーに買いに来た。


 ちなみに断っておくと、俺の仕事は、ほうれん草研究家ではない。ほうれん草研究家というのは単なる肩書きだ。ミュージシャンが“魂の伝道師"とか名乗っているのと同じようなものだと考えてもらいたい。

 それでは俺の職業はなにかというと、教師をやっている。いわゆる小学校の先生だ。公務員だ。

 俺は地に足をつけたほうれん草研究家なのである。


 さて話が逸れたが、俺はいまスーパーにいる。

 そして出会った。



 チンゲン菜を片手に泣きじゃくる、妙齢の女性に。



 どうしたんだろう……? なぜあんなにもチンゲン菜を憎めしそうに持っているのだろうか? あの表情を見ると、よっぽどチンゲン菜に対して深い恨みがあるとしか思えない。スーパーで衆人環視の状況、にも関わらず一心不乱に泣いているなんて正気の沙汰ではない。

 例えれば『生まれたばかりのチンパンジーが三点倒立をしながら「ケインこすぎとケインおすぎって似てるよね」と言葉を発する。』くらいあり得ない状況だ。

 そんな状況でなぜ彼女は泣いているのだろう? 少し考察してみよう。



 “このチンゲン菜のせいで私は大学受験に失敗したんだ!”

 みたいなことでもあったのだろうか? ……まぁ、チンゲン菜を食べたせいで腹痛になったとかなら考えられなくもないかな? まあ、チンゲン菜程度で腹痛になるなよ。と言いたくなるところだが。



 “このチンゲン菜のせいで私の仕事がうまくいかなかったんだ!”

 も年齢的にはありそうだな。 まあ、チンゲン菜のせいにするなよ。と言いたくなるとこだが。



 “このチンゲン菜のせいで私の彼氏は……っ!”

 ってことも考えられなくはないか? まあ、チンゲン菜になにができるのか。と言いたくなるところだが。




 考えてもわからないな。泣いているまま放置しても後味が悪いし、少し話を聞いてみようと思う。なんて話しかければいいかな? ええと……


「あの、チンゲン菜の所為で彼氏と別れたりしたんですか?」


 うん。おれはなにを言っているんだ?

 そんなわけないだろ! どこにチンゲン菜にやられる彼氏がいるんだよ!


「……え? 何をいっているんですか? そんな訳ないじゃないですか。」


 それ見たことか! スーパーの中心でチンゲン菜を片手に泣きじゃくる女性に「何を言っているんですか?」と言われてしまったじゃないか! なんで俺は心で考えた空想がだだ漏れになっているんだ?


 ……それにしても、さっきまで泣いてたくせにずいぶんと言ってくれるな、この人は。字面ではとてもじゃないが、さっきまで泣いていた人だとは思えないよ。


「あ、いや違うんです、そうじゃなくて、ええと……そう! チンゲン菜の所為で仕事が失敗したりとかっ!?」

「あ、実はそうなんです……。」


 そうなのかよ!? チンゲン菜の所為で仕事が失敗した!? どういうこと!?

 というか、それで合っているのなら、俺に「何を言ってるんですか?」とか言う資格はないだろっ!


 うん、話しかけたはいいものの、何一つとして情報を得られていないな。

 むしろ話しかけたことで、彼女の仕事が失敗した理由が無性に気になってしまった……。どうしたものか……。



 ……よしっ!






「それは大変でしたね……。とりあえずうちに来ませんか?」

青梗菜もあんまり好きじゃないです。

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