表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

 私は自らの命のために ほうれん草 を手に入れなければならない……。

 ああ、君たちの言いたいことは分かる。



「ちんげん菜 ではいけないの?」ということだろう?



だがこれには理由があるのだ。順を追って話そう。聞いてくれ。


 私は栗平由梨(くりひら ゆり)という。ある組織に所属する女性メンバーの一人だ。その組織は人には言えないような仕事を請け負う、いわゆる“危ない”組織であった。はたから見れば、ただ靴に靴ひもを通しているだけの会社だ。が、その実態は危険極まりないものであった。これについて君たちに話すのは控えておこう……。


 肝心なのは、そこでの私の成績が最悪である、ということだった。


 仕事を達成できないだけなら、まだましな方だった。私は、

「鉛筆を削っておいて」と言われたらボールペンを削り、

「消しゴムをとって」と言われたら はんだごて を渡してしまう。

 そんな人間だった。


 ついに上司の堪忍袋の緒が切れたのは、その日出社して早々の午前9時であった。

 着くなり上司はこう言った。



「ほうれん草を買ってこい」



 それは苦悶の表情の中から絞り出され、その一言を発すること自体が大変な苦労であるかのようだった。

 空気がずっしりと重さを増して、私たち二人に纏わりついているようにも感じた。

 私は未だかつて、これほど重々しい「ほうれん草を買ってこい」を聞いたことはなかった……。



 まあ、そもそも「ほうれん草を買ってこい」という言葉を聞いたこともなかったが。



 ただ私は感じ取ったのだ。

 きっとこのミッションを失敗したら私はクビになる。

 私はこのミッションに失敗するわけにはいかなかった……。


 ◇◆◇◆


 やあ、こんにちは。

 俺は稲城翔(いなぎ しょう)。ほうれん草研究家だ。

 ほうれん草研究家という肩書きとはなんだ? と思われる方も多いだろう。お答えしよう。


 ほうれん草研究家とは“チンゲン菜について研究する者”のことである!


 ……ああ、わかっている。「だったら、チンゲン菜研究家と名乗れよ!」って言いたいんだろ?

 これにも事情があるんだ……。


 だが一つ言わせて頂きたい。君たちはいま、チンゲン菜研究家という存在を認めはしなかったか? 消極的であっても、俺がチンゲン菜研究家を名乗ることを勧めたはずだ。

 これが初めからちんげん菜研究家と名乗っていたらどうだろう? きっと、

「そんな変な肩書きなんか名乗るなよ!」

 と突っ込みがきていたことだろうと思う。それが初めにほうれん草研究家と名乗っておくことで

「だったら、チンゲン菜研究家と名乗れよ!」

 という声に変わるのだ。これも私がほうれん草研究家を名乗っている理由の一つである。


 さてそんな俺の物語を語らせて頂こうと思う。

ほうれん草そんなに好きじゃないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ