ドリーム・アドベンチャー(1)
1:今日の舞台は何ですか
春の夜。窓から、近くの公園に咲いている桜が見える。
私はマヤ。小学5年生。
自己紹介はさておき、私には最近悩まされていることがある。それは、『悪夢』。
単なる悪夢じゃない。同じ人が毎回出てくるんだ。
色あせたこげ茶色のコートのフードをすっぽりかぶって、顔が分からない男。
その謎男を追いかけているのが、私と同じくらいの歳の男女で、警察のような征服(にしては、水色が多いけど)を着ている。
まるで、警察と容疑者のようだ。
そして、毎度その人たちのとんでもない逮捕劇に、巻き込まれているのがこの私。お陰で、疲れて疲れて仕方がない。でも、寝なかったら余計疲れるから、仕方なく寝ている。
今日も、その調子。
寝たくないなあと思っていても、昼にテニススクールに行って来たから、体が完璧に疲れているんだ。
寝っ転がってから1分で、寝てしまった。
今日の舞台は何ですか?
2:ドリームポリス参上
今日の舞台は、どうやら舞踏会のようだ。
周りでは、たくさんのシルクハットをかぶった男の人や、きらびやかなドレスを着た女の人が踊っていた。イケメンや、美人さんもたくさんいる。私、場違いだよ・・・。美人じゃないもん。
気づくと、私も光沢のある水色のドレスに身をつつんでいた。ドレスなんて、小2のピアノの発表会以来着ていない(当たり前か)。
でも、いくらキレイなドレスを着ていても、ダンスを踊ったことなんて一回も無い。いくら誘われても、無理なものは無理だ。
おとなしく、イスに座っているのが一番マシ。えっと、イスはどこだっけ?
そのとき、ものすごい音が会場に響いた。何かが崩れ落ちるような音だった。
振り向くと、人々が二つに分かれ、奥では砂煙が上がっている。
毎度おなじみの、謎男のご登場か・・・。
砂煙が、だんだん薄くなってきた。壁が大きく崩れている。あの男だけでは無理だろう。
砂煙のむこうにいたのは、大きなクモだった。世の中での大きいは、せいぜい10cmで大きいと言うが、そんなものとはケタ外れだった。高さおよそ10mは絶対にある。ファーブルに見せてやりたい。
会場では、たくさんの悲鳴が上がり、ドアから全員逃げ延びた。ただ、私は逃げ遅れて会場に取り残された。ドアをたたいても、鍵をかけられたのかビクともしない。やばいな、これ。
クモが、口から何かを吐いた。糸だ。あれで、獲物(私)をしとめるんだろう。
巨大グモの糸ともなると、太さも違う。すごく丈夫そうで、くっついたら二度とはなれないかもしれない。しかも、電気が通っているらしく、青い小さなイナズマのような光が、チョロチョロ糸に流れていた。
ドレスだから、走るのも苦労する。男の格好でも、別にかまわないのに。
そして、とうとう足をとられてこけてしまった。クモが狙いを定めている。下手に動いたら死ぬ。動かなくても死ぬ。どっち道同じかよ・・・。
ついに、クモが糸を発射した。もう終わりだ!アーメン・・・。
そのとき、前に誰かが立ちはだかった。そして、シュシュシュッと音がしたかと思ったら、誰かの足元にクモの糸が短く切られたものがハラハラと落ちた。
「あっ、いつもの・・・」
警察さん。やっと来てくれたね、遅いよ!ああ、よかった。
その女の子は、どう見ても私と同じ歳で、栗色の脚の付け根にまで伸びている髪の毛は、さらさらと美しい。
「大丈夫だった?けがはない?」
「まあ、なんとか」
「ほら、早くたって」
こっちを見ないまま、左手を差し伸べられた。なんとか立ち上がったが、そこからどうするか分からなかった。
「早く逃げて!」
「後はおれ達に任せろ!」
どこからか、男子がやってきて言った。
逃げろと言われても、どうやって逃げろっていうんだろうか。ドアはぜ全部閉まっているし。
振り向いて、もう一度二人を見ると、クモがいなかった。ああ、二人が倒したのか。よかった。
でも、二人があわただしい。こっちを見て、女子のほうが指で上を必死に指している。男子のほうは、
ベルトをいじくってる。
上を見てみた。真っ赤な目。毛むくじゃらな脚。その瞬間から、私はクモが大嫌いになった。
デカグモが、真上にいる。狙いを定めている。怖くて、足がすくんだ。動けない。
これで、もう終わりだ。さよなら・・・。
またまたそのとき、急にお姫様抱っこをされた。えっ、と思ってその人の顔を見た。
あの男子だった。さっきまでベルトいじってたあの男子。いつの間に?あの場所からここまでは、かなりの距離がある。どんだけのスピードがあるのやら。
男子は、私を持ったまま、クモとの距離をとった。そして、ゆっくりおろしてくれた。
「ありがとう。助けてくれて」
私がお礼を言うと、男子が顔を赤くした。
「いいって。仕事だし・・・」
この歳で仕事?
「アストレア、[風]準備んびしとけよ」
「分かってるわよ。あんたって、ほんとに[風]がお気に入りよね」
「ふざけるなよ。はやくやれ」
アストレア?って確か、正義の女神の名前だったっけ・・・?
そして、アストレアが何か小さいものをポケットから取り出して、ベルトのへっこみに入れた。
と、そのとたん突風が吹き荒れた。私は飛ばされそうになって、あわてて柱をつかんだが、男子のほうは全く平気そうだった。この突風でもひるまないとは・・・!
突風が消えたとき、アストレアは黒目の部分が、水色に光っていた。そういえば、この男子も目が水色だ。だれだ、この人たちは?
「ペルセウス、かまいたち。よろしくね」
ペルセウス?かまいたち?ペルセウスは、ばけ鯨だったかをメドゥーサの首で倒したっていう勇者の名前で・・・。かまいたちは、妖怪の名前かなんかで、痛くはないのに、いつの間にか足首とかが切られてるって話。
アストレアがそういったとたん、ペルセウスと呼ばれた男子の手に、風が舞い上がった。
「柱の後ろに隠れてろ!」
私はさっさとペルセウスの言ったことに従い、柱の後ろに隠れて、目をぎゅっとつぶった。
ヒュンヒュンと何かが風を切る音と、その後に断末魔の叫び声があがった。こわくて、耳も閉じた。
もういいかなと思い、耳から手を離した。
「おーい。もう出て来てもいいぞ」
ペルセウスの声が聞こえた。おずおず出て行くと、クモはいなかった。前はそういうことで実は上にいたってことがあったから上も見上げたがいなかった。
「大丈夫。もういないわよ」
用心している私を見ながら、アストレアがクスクス笑った。ひどいなあ。
「さっきの化け物はなに?あんたら誰?仕事って?[風]って何?」
次々と質問した。質問と言うより、問いただすって言ったほうが正しい。
二人は、勘弁してくれよ、ただでさえ疲れてるのにって顔をした。あの力を使ったら、かなり疲れるようだ。
「さっきの化け物は、キラー。夢の中の化け物。この1ヶ月で、急に数が増えたの。他にも、いろんな種類がいるわ。ヒューマン・バッド・フロッグ・・・。エリニュスもいるし。」
「おれたちは、ドリームポリス。その名の通り、夢の中の警察だ。ああいうキラーを退治したり、夢の中の犯罪者を逮捕するための仕事。おれ達の担当は、ハイデスっていう奴。お前、名前なんていう?」
「マヤ。シラトリ・マヤ」
「えー、マヤ。次に何の説明をしろって・・・」
「[風]ってどういう意味?」
「[風]っていうのは、テクニックボールつまり、技球の種類のひとつ。岩や、水、炎なんかもあるけど、
使うごとに、かなり疲れるの。一番疲れるのは[光]。疲れないのは、この[風]。」
アストレアが先に説明してくれた。
「ま、これで質問タイムはおわりだ。いい加減に部長に報告しないと、給料下げられる」
子どもなのに給料のこと考えてる!この人たちは大人なのか子どもなのか・・・。
「大人は矛盾したり、ウソをつくけど、子どもはそんなことしないからよ。私達は、正真正銘子どもなの。」
アストレアが、背中を向けたまま見透かしたように言った。あの時は本当にギクリとしたな。
二人は、タイヤのないバイク(?)のようなものに乗って、会場の壁に青くて四角いシールを貼ったかと思うと、シールを貼った場所に穴が開き、穴の中は真っ白だった。
その中に入っていた。まず、あのタイヤなしバイクは、ドラえもんに出てきてもおかしくないような形で、浮いていた。ちゃんと操縦もできるらしく、ハンドルやボタンもついていた。かっこいい!
3:分かち合える人
私は、その夢のことを友達全員に話した。6人中、1人しか信じてくれなかった。
その人の名前は、トシキ。私の大親友で、幼稚園のころから、違うクラスになったことはない。
トシキは、その夢のいろんなことを聞いてくれて、俺もその夢が見てみたいといっていた。
トシキがその夢を見たとしたら、どんな夢を見るんだろうか。彼は、海の夢で出てきてほしいと言っていた。その二人とも、仲良くなりたいと。
仲間ができた。分かち合える。彼がこの夢を見ることに成功したら、二人でその二人に会ってみたい。
悪夢が、怖くなくなった。むしろ、楽しみななった。