逃亡者
ガタンゴトンと列車は揺れていた。やけに振動が酷いので、数秒毎に体が少し動く。私はその揺れに合わせて、少し体と首を捻って周りを見渡す。周りを気にしているという行為を周りに悟られないように動く。その行為は自分が犯罪者だと思いたくない気持ちに反して、自分を犯罪者だとラベル付けする行為だと言う事に気付くまで続けられた。ただ、気付いた後も何となく他人から見られている気配が不思議と付き纏う。不安な気持ちに終わりは無いが、既に乗ってしまった列車であるから何か起きても逃げ場が無い。そこまで考えが至った時、私は開きなおってじっと横座席に座っていることに決めた。そして、いざとなれば、列車から飛び降りてでも逃げてやるという算段の覚悟だけを決めた。
そのように色々考えている内に列車は目的の駅の二つ前の駅に到着した。窓から見える景色は晴天で、列車を待っていた人々が荷物を抱えて、乗車する準備を整えていた。昼間の田舎駅であるために、それほど乗車する人はいない。私が一番気にしていた警官も、駅には見当たらなかった。この列車に乗って既に三十分ほど経つ。もし、乗車する際に駅員が私のことを気づいたのならば、そろそろ警官が駅で待っていてもおかしくはないと覚悟を決めていただけに、安堵の溜息が小さく漏れた。溜息をついた瞬間、やはり自分のことを犯罪者だと感じていることを悟って、また小さく溜息をついた。
窓を眺めていたら、車掌が発車の笛の音を響かせた。私はその音を聞いて目線を窓から外して少し俯いた時、突然「こちらは空いていますか?」と背後の方から声をかけられた。思わず驚いて少し腰を上げながら振り返ると、この駅で乗車したであろうブラウス姿の婦人が立っていた。少し眉を上げて、私の前の空席に座ろうとしていた。私は動揺を隠そうとできるだけ自然に「どうぞ」と答えた。しかし、声は少し上ずっていた。婦人は小さな会釈をした後、買い物後であろう野菜が詰まった袋を隣に置いて、紺のスカートの皺を気にしながら私の前に座った。
私は少し俯いて、スカートの皺を気にしている婦人の姿を上目で覗き込むように盗み見た。婦人の表情は私のことを知っている様子には見受けられなかった。
スカートを整えた婦人は「すみません、驚かせてしまいまして」と婦人は馬鹿みたいに丁寧に声をかけてきた。
「いえ、お気になさらずに」と私は流暢に答えながらも、その丁寧さに若干の訝しさを感じた。もしかすると、単純におしゃべり好きなのかもしれない、しかし…とその後に続く言葉を私は飲み込んだ。
1060字ほど。
これは半年以上前に書いて、やはりもったいなくて上げたもの。
評価は前回と変わらず。
加えて言えば、つかず離れずの書き方は未だ健在。
まさに駄作。