それは
男の視線の先には ミニスカートの女性。
駅のホームには 私と 男と 女性がいる。
男は灰色のスーツを纏っている。しわひとつ無いスーツの袖を 彼は握り締めている。
夜の闇の中 光が荒く照らす。女性は その長い肢体を 多く露出している。白い肌が場に似合わない
光冠を発している。彼は 右斜め後ろ 五歩程離れている。
携帯が振動する。
「もしもし」
「ああ。ユリ?」
「うん」
「あんた 今どこ?」
「駅」
「駅?今何時だと思っているの?電車あるの?」
「うん。最終が あるよ」
「・・・・・分かった。迎えに行くから 改札の所にいなさい。駅員さんがいるところよ」
「分かった」
切る。
愉快な笑い声がする。駅沿いには 怪しげな居酒屋が立ち並んでいる。
わはははははははh
不意に 空気が揺れた。あからさまに 彼を見る。
女性が振り返り彼を見ている。
「あれ・・・・・」
彼女の声には 確信の無い 問いかけが含まれている。
「・・・・久しぶり」
彼は ちらりと彼女を見るとそのまま黙りこんだ。
「・・・・・・ええと・・・・」
「芳樹・・・・」
彼の声には 戸惑いと 喜びがある。
「どうして?スーツ?」
彼女は 真っ直ぐに彼を見つめる。
「ああ。まあ。 俺 親父の会社さ」
「引き継いだの?」
「・・・・まあ そんなところ」
「そうなんだ」
彼女の口元に 笑みが浮かんだ。
「そうか・・・・・」
男は また 袖を握り締めた。
もしかしたら 彼は 彼女を突き落とすのではないか そんな不安がよぎった。
「俺 駄目だったんだ。」
「・・・・・何が?」
女性は彼の声をきちんと聞き終えてから 間髪いれす尋ねた。
私は 急に彼女が 嫌いになった。女は今男を知ったのだ。彼が 袖を握り締め 少し先にいる自分に
なぜ直ぐに声を掛けなかったのかを。
「・・・・・俺駄目だったんだ。写真。才能無いって。」
私は 俯いた。ある同種の屈辱感を まるで共有するかのように 心が縮まった。
どうしてこの場に居合わせたのだろうと 後悔した。それなのに この場を離れられない自分がいた。
自分に向かう 気持ちと 無責任な好奇心がそれだった。
「そうか。・・・・・まあ 人生いろいろだよね」
彼女は 一人でうなづくと また真っ直ぐに彼を見た。
「・・・・・そうだな」
彼は落ち着きなく 手を組み合わせていた。
私の視線に気づいたのか 女性がちらと 見た。
「ここじゃなんだし また会おうよ。 メアドは 美智が知ってるから」
男は 慌てたように ああ とうなづいた。
携帯が鳴る。
「あんた どこにいるの?もう ついているよ」
「分かった。今行く」
「早くしなさい」
「はい」
早足で 立ち去ろうとした私の耳に入った声。
「美智」
「知ってるでしょ?」
「ああ」
「あれ 美智の番号知ってる?」
「うん。」
「じゃあ 私から言っておこうか?」
「いや いいよ。今日帰ってから直接聞くから」
「直接?」
「家でご飯作って待ってるよ」
「まったく なにやってんのあんた・・・・何笑ってるの?」
「女って馬鹿だよね」
私 こうゆうのが好きなんです。