表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第2話

 東京都、渋谷区。


 晴天の中、早足で道を急ぐサラリーマン。露出の激しい若者集団、スマホで写真を撮る外国人。わいわいはしゃぐ子供達から、道端に座り込む老人まで。


 呆れるほどに、平和な光景だ。

 まさかこの光景の中に、人々の日常を脅かす恐怖が潜んでいるとは到底思えぬだろう。


 ダンジョン――


 それはモンスター共の巣窟そうくつで、この世界に突如として発生した。

 ダンジョンへの入り口はゲートと呼ばれ、異界と現実世界を結ぶ通り道としての役割を担っている。


 ゲートは世界各地に脈絡なく出現し、日常風景を侵食した。

 初めは恐怖でおののいていた人々。


 だが今やそれは人の営みの中に、あまりにも自然に溶け込んでしまっている。


「喉元過ぎれば、何とやらだな」


 ひとりごちる俺の呟きは、誰に聞かせるわけでもない。


 目的地は、もうすぐそこだ――






「……おい。ギルドからの連絡は?」


「まだ、ありません……」


 高層ビルの立ち並ぶ、とある一画。

 ビルとビルの間には、幾重にも張られた立ち入り禁止のテープ。


 テープを超えた更に奥。

 ビル路地裏からは、青いもやが滲んでいた。


 もやの前には、たたずむ二人の男の姿がある。


「ちっ、馬鹿野郎どもが……! あいつら状況分かってやがんのか? 足元見やがって、くそがっ!!」


 男の一人は大きく溜息つき、ポケットから煙草たばこを取り出すと、苛立つように口へとくわえた。唇の隙間から煙を吹かしながら、言葉を紡ぐ。


「………報酬金、今いくらだ?」


「……200万、ですね……」


 返答を聞き、男はすぐさま舌打ちする。

 煙を天に向かってフゥーと大きく吐き出すと、吸殻を地面へ投げ捨て、視界の端のもやを睨む。


「……400まで上げて、あと一週間は様子を見ろ。それで無理なら、【特隊とくたい】を動かすぞ」


「特隊って……! またうちで攻略する気なんですか!? 無謀ですよ、茂宮しげみやさん!! ここ最近立て続けじゃないですか! 予算、もうありませんよね!?」


「アホ!! んなもんはなあ、どっかしらからひり出すんだよ!! たかがブルーゲートの攻略に、これ以上の報酬は出せねぇだろうがっ!!」


「…………っつ、それは…… 確かにそうかもしれませんが……!」


 茂宮は地面でくすぶるる吸殻の火を、靴底で乱暴にもみ消す。


 苛立ちでガシガシと頭を掻く茂宮。

 そんな彼の背後に、突如5人の人影が現れた。


「ん~? これはこれは~! 公安様じゃねぇか?」


「……あん?」


 がたいの良い、武装された5人の男達。

 ある者は鎧を着込み、またある者は腰にロングソードを帯刀する。


 皆がニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら、もやに陣取る茂宮へと語り掛ける。


「公安連中が、こんな路地裏にいったい何の用だぁ? んん?」「お仕事さぼり中でちゅかぁ?」「勘弁してくれよぉ~! おめぇらの給料、どっから出てると思ってんだよ~?」


 げらげらと笑う武装集団。

 茂宮は目を細め、彼らの装備を凝視する。


「……おめぇら探索者か? ここは立ち入り禁止だ。外のテープが見えなかったのか? とっとと出てけ、仕事の邪魔だ」


 敵意を向ける茂宮に対し、武装集団の中から一人が前に躍り出る。

 体格が他の者達より一回り大きい、リーダー格の男だ。


「んだよ、ちょっと様子を見に来ただけじゃねぇか? もう結構噂になってんだぜ、コレ。ゲートが発生したの、確か6月頃だったよなぁ? で、今何月よ? ん? ん?」


 茂宮の顔に、僅かばかりだが影が差す。


「だいたい3か月……そろそろリミットだろ? スタンピードでも起こされたら、こちとらたまったもんじゃねぇからなぁ! クックック……」


「……用件はなんだ? さっさと言え」


 会話の主導権が茂宮から、リーダー格の男へと移り変わる。


「ギルドが動いてくんねぇんだろ? そりゃ当然だ!! ここ最近、ダンジョン攻略の報酬金が目減りして来てる。ギルドも反発してんだよ、あんたら公安様の対応に!」


 そう言いながら、男はスマホを取り出し、指でスクロール。画面をトントンと叩きながら、茂宮へとねちっこい視線を向ける。


「渋谷ブルーゲートの攻略金、200万ね……いやあ、世知辛い! 命懸けでダンジョンを攻略して、国から得られる報酬はたったの200万円と来たもんだ! そりゃあギルドも動かねぇって、なあお前ら!?」


 同意を求める男の声に、数人の下品な笑い声が重なる。


 笑いが収まると、リーダー格の男は声を潜めて問いかけた。


「だが、俺らなら話は別だぜ? 公安様よぉ……?」

 ――――用語一覧――――


【特隊】

 公安特務部隊こうあんとくむぶたいの略称。

 自衛隊と双璧を為す、日本の国防の要となる実力組織。人類史上初めてダンジョンが観測された、1994年に発足。自衛隊が対国際的な抑止力として機能する一方で、公安特務部隊はダンジョン攻略に特化した組織として、防衛省の傘下に置かれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ