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第1話

 薄汚れた、ボロアパートの一画。

 今日もまた、公安のホームページに目を通す。



[令和7年におけるダンジョン発生状況 取りまとめ]


『東京都』

 ・目黒区:4月2日未明、ブルーゲート観測

 ➡6月6日、PM 16:31、公安特務部隊により攻略済


 ・新宿区:4月17日、PM 15:02、ブルーゲート観測

 ➡6月24日、PM 14:36、公安特務部隊により攻略済


 ・港区:5月14日、AM 9:02、イエローゲート観測

 ➡6月28日、PM 21:02、征伐ギルドにより攻略済



 カーテンを閉め切った、薄暗い部屋の中。

 マウスをカチカチと触る音だけが、虚しくその場に響き渡る。



 ・葛飾区:5月19日、AM 5:22、ブルーゲート観測

 ➡7月22日、AM 11:31、公安特務部隊により攻略済


 ・文京区:5月21日、AM 7:44、ブルーゲート観測

 ➡8月3日、PM 22:01、公安特務部隊により攻略済


 ・世田谷区:5月26日、PM 16:41、ブルーゲート観測

 ➡5月28日、PM 22:32、龍神ギルドにより攻略済



 時折、マウスから手を離し、机の上に置かれた総菜パンへと手を伸ばす。二口ほどかじって咀嚼そしゃく。そのままパックの野菜ジュースへと持ち替え、口内を潤し、またマウスへと戻って来る。これでひとつのルーティン作業だ。



 ・品川区:6月13日、AM 7:31、レッドゲート観測(非常事態宣言発令)

 ➡同日、PM 14:07、公安特務部隊、ギルド連合軍により攻略開始

 ➡6月16日、AM 4:03、ボスモンスター討伐とゲートの完全封鎖を確認

  死者:34名、行方不明者:3名


 ・渋谷区:6月17日、PM 18:00、ブルーゲート観測(至急、対応求)


 ・新宿区:7月14日未明、イエローゲート観測

 ➡8月16日、PM 15:33、帝国ギルドにより攻略済



 惣菜パンを食い終わり、机の端に除けてある錠剤じょうざいを一粒握りしめる。口の中に放り込み、そのまま野菜ジュースで流し込んだ。


 こんな平日の真っ昼間っから公安のホームページにアクセスしてるような奴なんて、俺ぐらいの物だろう。どう考えても不審者だ。その自覚はある。


 ページの最下段まで到達すると、お馴染みの文言もんごんが目に入った。



『もしもダンジョンを発見した際は、すぐさま公安までご連絡下さい。貴方のその一報が、街の平和を守ります。国民の皆さま一人一人の安全の為、何卒ご協力の程をよろしくお願い致します。電話番号:○○-○○-○○』


「……街の平和か」


 こんな安っぽい文章ひとつで、平和を守れるのかは甚だ疑わしいが。

 まあ、どうでも良い。


 重要なのは、()()()()だけだ。

 画面を再び上にスクロールし、文字の列を睨み付ける。



 ・渋谷区:6月17日、PM 18:00、ブルーゲート観測(()()()()()()



「…………対応求。……渋谷、ね」



 パソコンの画面の右下、今日の日付に目を向ける。


『2026/09/02』


 飲み終わったパックの野菜ジュースを握り潰し、立ち上がる。目線の先には、壁に掛かった小柄なウエストポーチ。それをそのまま手に取って、部屋の奥へと向かう。


 先ずは寝室へ足を運ぶ。

 寝室と言っても、仕切りカーテンを引いただけの雑な空間だ。ベッドなんて上等なもん、ありゃしない。


 枕元にはいくつもの鉢植えがぐるりと円形に並べられ、緑のツタが伸び放題の酷い有様だ。その中から活きの良い鉢植えをひとつ選び、しゃがみ込む。


「よし……良く育ってるな」


 絡まったツタをよけ、深い緑色の【ヨプの葉】を数枚むしり取る。多くはいらない。これは現地調達が可能なアイテムだ。


 次いで向かうは、冷蔵庫。

 扉を開けると、中には野菜ジュースのパックの束。もやしの袋に、卵が数個。使いかけのハム。


 そして一番下の段には、大小さまざまなびんが収納されている。


「ブルーゲートなら、まあこの辺りか……」


 その内の一つを手に取り、ポーチの中へとねじ込んだ。


 そして最後に必要なのは……獲物だ。

 部屋の角のふすまを開け、目線を下に向ける。鎮座する黒い金庫。パスワードを入力し、扉を開けて、中から短刀を取り出した。


 短刀を腰のベルトへ括りつけ、ふうと一息。


「準備OKと」


 ポーチの小窓からライセンスが見える事をしっかりと確認。ライセンスを忘れて職質……なんてビギナーみたいな真似、御免だからな。


「さて、行くか」


 靴を履き、俺はそのままボロアパートを後にした。

 ――――用語一覧――――


【ヨプの葉】

 入手難度:★☆☆☆☆

 効果:回復、沈痛


 森系ダンジョンに群生する、最も一般的な薬草。

 傷口に塗り込んだ瞬間から治癒が開始し、軽度の沈痛作用を併せ持つ。

 ダンジョン内で受けた傷に対してのみ有効。なぜこの葉に治癒能力が備わっているのかは医学的に解明されておらず、使用に懐疑的な探索者も多数いる。

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