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"カリカリ"

作者: 二野 二条
掲載日:2025/11/10

 「ねぇ、笹岡」


 一人、自身の席で本を読んでいたら、唐突に私は彼女に話しかけられた。


 「ねぇ、きいてる?」


 はぁ、と私は心の中でため息をついて本を閉じる。


 「えーっと、何?」


 「このプリント、後ろにまわしてくれない?」


 そう言って彼女はプリントを私に差し出す。

私は無言でそれを受け取って、自分の分を一枚とり、後ろに渡した。

 


……私は再び、本に目をおとす。


 

 「にしても、笹岡はホントに本が好きよねぇ。あんたをいつ見ても、ずっと本を読んでんだもん」


 すると彼女はまた私に対して話しかけてきた。


 「まあね」


 「休みの日でもずっとそんな感じなの?どこか遊びに行ったりしないの?」


 彼女はさらに私に質問を投げ掛ける。


……鬱陶しい。

 今、ちょうど良いところなのだ。

特に用がないなら、話しかけて来ないで欲しい。

はっきりいって邪魔だ。

 


 しかし、無視するわけにも行かない。


 

 「そうね」


 「…………ふーん、そっか」


 

 幸いにも、彼女はそれ以上話しかけてこなかった。

 

 しかし彼女に話しかけられたせいで、興が削がれてしまった。なんということだ。

 仕方がない、また少し前から読み始めようか。


 


 キーンコーンカーンコーン


 

お昼休みの終了をつげるチャイムが鳴る。

 

 

 そして、教室中に散らばっていたクラスメイト達が各々自身の席に戻っていく中、私はただ本を閉じた。


 




「よーし、それじゃぁ、授業をはじめるぞ!」


 化学の授業を担当する村岡が元気よく、教室に入ってきた。


 「せんせー、授業のプリントなくしましたーー」


 すると、クラスでもかなり陽気な部類に属する男子が村岡にそういった。


 「おぉ、どうした、安藤!?……女にでも振られたか!?」


 「ち、ちがいますよぉ!!」


 そして、クラス中にドッと笑いが起こる。

 

 村岡は化学教師であるにもかかわらず、かなり体育会系だ。

 正直言って、私は彼のような体育会系の乗りが苦手であった。

 

 クラスの皆が笑っている中、私一人だけが無表情である。

 その事実に、少しだけ疎外感と孤独感を感じてしまうのだ。


 


 



 「じゃあこの問題を……よし、笹岡、前に書きにきてくれ」


 授業の後半、私は村岡に当てられた。

 

 しかし、困った。私は化学が苦手である。特に計算系の問題なんてもっての他。


 そして、今私が当てられた問題は化学平衡の問題である。

……つまり計算の問題だ。

はっきりいって、私には、無謀である。


 

 「あー、笹岡?もし分からなかったら、周りにきいてもいいんだぞ?」


 私が呆然としていると、村岡はそう言った。


 そして私が辺りを見渡すと、先ほど私に喋りかけてきた前の席の彼女が、そっと私にノートを見せてくれた。


 「……ぁりがと」


 「いいってことよー」


 彼女は私のボソボソとした感謝の言葉に、それはもうにっこりと返事を返してくれた。

 私はそれに居たたまれなくなり、そそくさと前へ出て、答えを書き始める。


 


 「よし、笹岡!感謝するっ!」


 私が書き終わると、村岡はそれはもう元気に言った。


 「よぉしっ!この問題で大切なのはな……」


 そして、村岡は問題の解説を始める。



……私は自分自身が嫌いだ。


 

 私は前の席の彼女の名前も知らない。



皆は私を知ろうとしてくれているのに、

私は皆のことを知ろうともしないのだ。



 私はありがとうもまともに言えない。


皆は私に優しくしてくれているのに、

私は皆に冷たく接してしまうのだ。


 

 だからなのだろう、私には友達と呼べる存在はいなかった。


 


当たり前だ。私がそうしてきたのだから。


 


 しかし、それは昔からだ。

 

今さら、私が変われるとも思わない。



……私には、本さえあれば十分である。




 

 今日の授業が終わる。

 私はそそくさと荷物まとめて、教室を出た。

 

 今日は私の一推しの小説家である、斎藤先生の新刊の発売日である。

 書店の方には、念のため取り置きをしてもらっているが、この逸る気持ちは押さえられない。自然と、私の足取りがはやくなる。


 そして、私は細い裏路地を曲がった。

 

 この道は普通にいくより、10分以上も短縮できるのだ。


 なので、私は新刊が出たときだけこの道を通ることにしている。


 (……あれ?)


 すると、何やら人では無さそうな不可解な形状の物体が動くのが、目の端にはいる。


 私は驚いて、ハッとそちらの方に顔を向けた。


 しかし、既に物陰に隠れてしまっていたようで、もう何も確認できない。


 (……一体、何だったのだろう?)



……私は好奇心に負けて、そこに何があるか見ることにした。


 (少しだけ、少しだけ……)


 ゆっくりと足をすすめる。

 

 距離が縮まるにつれ、未知に対する恐怖の感情も大きくなってきた。心臓の鼓動が段々とはやくなる。


……そして、ついに私は最後の一方を踏み出す。


 「あ、れ?」


 私が物陰を覗き込むと、あった。




…………扉だ。





 「……なに……これ?」


 



 不自然な程に豪華な扉。

 

 酷く、不気味だ。


……なのに、私の手は自然とドアノブに吸い付いていく。



 ガチャリ


 

…………そして、とうとう私はその扉をあけてしまった。






 「ア、お客様デスか?」


 扉の中に入って、私はそうやって話しかけられる。


 男なのか女なのかも分からない、そんな中性的な声。黒いヴェールのようなもので、隠しているせいで、顔もよくわからない。


 

 「い、いえ……」


 


「やっぱりすみません、お邪魔しました……」




 私は今さら怖くなってすぐに元の所へ戻ろうとした。


 「アー、待ってクダさい、待ってクダさい」


 私を呼び止める声が聞こえる。


 しかし、私はそれを無視して入り口に向かっていった。


 「先ほど来たお客様サマでしたら、奥の部屋でお待ちしておりマスよ?」


……その言葉に、私は足を止める。


 「これも何かの縁デス。一度お会いしてみてはいかがデスか?」


 おそらく、それが私が先ほど見た不可解な物なのであろう。しかし、これだけは聞いておかなくては。


 「……ここは一体何をする場所なのですか?」


 すると彼、もしくは彼女は、このように答えた。

 

 「ここデスか?

 ここは色んなモノ達の出会いを提供する

お店、"カリカリ"と言いマス。

……モチロン、お代は結構デス」


 「は、はぁ……」


 なんとも要領を得ない解答に私は少し戸惑った。


 「それで、どうされマスか?」


 ここはどうにも怪しい。


しかし、私の好奇心は抑えきれないようだ。


 その問いに対して私は意を決して答える。

 


「……いきます」


 

 「承知いたしマシた。……それではご案内しマスから、着いてきてクダさい」


 私は半ばどうにでもなれの精神で、

会ってみることにした。



 



 「……こちらの部屋デス」


 しばらく、店の奥を歩いて行くと、今度はかなり古びた扉の前まで案内された。


 「それでは、こちらのヴェールをあなたもしてクダさい」


 そういって、私にも同じような黒いヴェールが渡された。


 「この部屋には一つだけ決まりがありマス」


そして、こう続けた。


「それは話が終わるまで、

自分の顔を決して相手に見せてはいけないことデス。

そして、相手の顔もみてはイケマセン。

……わかりマシたか?」


 

「最後には、見てもいいんですか?」


 

 「エエ、別に構いまセンよ」



 つまり、さっき私が何を見たのかが、直ぐには分からないとういうことか……

 

 「わかりました」

 

 その事に少し残念に思いながらも、私はそう答える。



 ガチャリ



 「それでは、中にお入りクダさい」


 

 そして私は、その部屋の中に通された。


 部屋の中には、木製の背もたれ着きの椅子と、丸型の机が1個。

 あとは、蝋燭の明かりがポツポツとあるだけで薄暗く、なんとも怪しげな雰囲気であった


 「それでは、失礼いたしマス……」


 「あ、あの、すみません!!

相手はどこにいるのですか??」


 私の声が届く前に扉は閉められてしまう。

 この部屋に相手など見当たらない。

……私は騙されてしまったのであろうか?


 



 『おやー?はやかったね?』


 

 すると、私の後ろの方から声がする。


 私はビックリして、思わず躓いてしまった。


 『何やら大きな音がしたようだけど、大丈夫かい?』


 「だ、大丈夫です。……ビックリして躓いちゃっただけですので」


 良く見てみると、真ん中が薄いカーテンで仕切られているようであった。


 おそらく、向こう側に相手とやらが要るのだろう。


 『ははは、それはすまないね。僕も驚かせるつもりはなかったんだよ?』


 「い、いえ、お構い無く……」




 部屋に、静寂が流れる。




 (き、気まずい。取り敢えず、何を話せばいいんだろ……)


 (というか、そういえばなにこの状況!?

私は小説を買いにいくはずだったのにどうしてこんなことになったの……!!)


 今更ながら、勢いに任せた自らの行いに、私は後悔し始めていた。


 


 『ところで。

質問なんだけど、貴女は自分自身のことをどう思っているのかい?』


 すると突然、向こうから質問を投げ掛けられた。


 「は、はぁ……自分のこと、ですか」


 

 私は一度この問いに対して、考えてみる。



……いや、考えるまでもなかったか。


 

 「私は、自分のことが大嫌いです。」


 

 私は迷わずこう答える。


 


『へぇー』


 

向こうは一言だけそう答えて、さらに続けた。




『……例えば?』


 「考え無しに行動してしまう自分が大嫌いです」



『……例えば?』


 「他人を知ろうともしない自分が大嫌いです」



『……例えば?』


 「優しさを冷たさで返してしまう自分が大嫌いです」


 


 『……』

 

 「……」



 


 これまた急に質問が途切れ、部屋に再び静寂がながれる。




 (本当に、私は何をやっているのだろう……?)



 そして、ただそれだけが私の胸の中に渦巻いた。



 


 『それで?……貴女はそれで満足かい?』


 

(満足か……だって……?)



 私の中の何かが、弾けた。


 


 「そんなわけない!!」

 

 「私だって、自分のことを好きなりたいに決まっている!!」

 

 「でも……私にはもう、本しか無いの!!」



 

 私は、撒くしたてるようにそう続けた。



 


 『はぁ……実に滑稽なことだね』


 返ってきたのは、私のことを嘲笑うような、そんな言葉だった。


 まさか、馬鹿にされるなんて思いもしなかった。


 私はひどく、驚いた。


 そして、それは直ぐに怒りへと変わる。

 

 


「何ですって……!!」




 『では、そのような強い願いを持って、貴女は変わろうとしたのかい?』


 

私が言葉を続けようとすると、それを遮るように向こうからの問いかけがあった。

 

……私は……言葉につまる。


 


 『……貴女は何か行動したのかい?』




 はて、私は何かしたのだろうか?


……考えるまでもない。


 私は何もしなかったんだ。


 


 『貴女は満足していない。

だけど、貴女は何かを変えようともしない。

……それを滑稽といわずして、なんと呼べばいいんだい?』


 

 「確かに……そうですね……」


 

 私はその言葉に意気消沈としてしまう。


 

 『はは。……僕は君が羨ましいよ』


 

 「……なせですか?」


 

……一体何故、こんなどうしようもない私を羨むのか?


 

 『僕はもうこれ以上変わることは出来ないからね、絶対に。

これから先、どんな人にあっても、どんなことがあっても、それは変わらない』


 『何時も変わるのは向こうだけ。

でも、それでいいのさ。

……それが僕が生まれた意味に他ならないからね』


 「は、はぁ……」


 やっぱり、ここの人達の言うことは要領を得ない。


……しかし、私は一つ決心した。


 「……私、変わってみます。自分のことが好きになれるように。ほんの少しでもいいから、変わってやります」


 そんな私の決意に


 『そっか』


と短い返答が向こうからくる。


 





「そういえば、一つ聞きたいことがありました」


 なんだかスッキリした私は、ここに来た初めの目的を思い出す。


 


 「貴方はいったい何モノなんですか?」


 


 『あー、それは見た方が早いね』



 シャッッ!!



 すると、突然真ん中のカーテンが素早く開かれた。





 (うぅん……黒いヴェールで良く見えない……)


 


向こう側には明かりがなかった。


 

だから私はヴェールをはずした。



……そして、私は"それ"を見た。







 



 




 「ねぇ、笹岡」


 「ちょっと、きいてる?」







……私はハッと、気がついた。


 





 「あー……何?」


 「このプリント、後ろにまわしてくれない?」


 「……いいよ」


 私は意識を引き戻す。


 「大丈夫?今日は、ボーッとしてたみたいだけど……」


 「うん、大丈夫だよ……佐藤さん」


 私は佐藤さんからプリントを受け取って、自分の分を一枚取り、後ろにまわした。


 


 「……やっぱり、笹岡は本好きだなぁ」

 

 すると、佐藤さんは私の手に持っている本を指差してそういった。


 「う、うん……まあね」

 

 


 (あれ、こんな本持ってたっけ?)




……ふと、疑問に思った私は、一度タイトルを見てみることにした。


  


 

 『変わる。/斎藤 晋』

 とりあえず、おはようございます。ニ野二条です。私の初めての短編小説である『"カリカリ"』に目を通してくれて誠にありがとうございます。

 

 今回、テーマにしたものは、ずばり「本との対話」です。少しでも、伝わってくれたでしょうか?


 今後も、少しずつ短編にも手を出していくつもりなので、そのときは是非見てやって下さい。


 それでは、また!!


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