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『海辺のしるし』  作者: ふぁーぷる
【プロローグ(今)】
2/7

【第1章 卵を見つけた日】

 放課後のチャーリは、いつもと違って足早だった。ベッキーの「また明日ね!」の声も聞こえないふりをして、防波堤の向こうへと駆けていく。


 潮の香りが濃くなる。

 誰も来ない入り江の奥、小さな洞窟──そこが、チャーリの誰にも教えていない秘密基地だった。


 その日は潮が大きく引いていて、いつもより深く洞窟の中へと進むことができた。


 ぬれた岩肌を手で探りながら奥へ──


 そのとき、仄暗い空間の中に、何かがぼんやり光っていた。


 チャーリは息をのんだ。

 大人の頭ほどの大きさの、青白く光る卵。

 表面はガラスのように滑らかで、雫のような光沢があった。手を当てると、ほんのりと温かい。


「……なんだろ、これ」


 不思議と怖くなかった。むしろ、大切なもののような気がして、チャーリはバスタオルでそれを包み、そっと抱えて洞窟を出た。


 それが、すべての始まりだった。


 * * *


 その日から、チャーリは毎日、放課後になると家に直帰した。


 もちろん、ベッキーは見逃さない。


「ちょっと、最近のチャーリおかしくない?」

 教室の前で腕を組み、じっと睨む。


「え? な、なんでさ」

 チャーリは目を逸らしながら鞄を閉じる。


「毎日まっすぐ帰ってるし、なんかコソコソしてるし。おばさん、病気なの?」


「そ、そんなことないよ! 元気だし!」

「じゃあ何?」

「……いや、ホントに何でもないってば!」


 ベッキーは一歩詰め寄る。

 チャーリは観念した。幼なじみの追及には、かなわない。


「わかった。見せるから、うち来てよ」


 * * *


「おばさーん、お邪魔しまーす!」


 ベッキーはずかずかと家に上がりこみ、いつものように勝手知ったる様子でチャーリの部屋へ向かう。


「で? 何があるのよ?」

 チャーリのベッドに座り、わくわく顔で待ち構える。


「ベッキー、ちょっとどいてよ」

「えー、なんで?」


「……そこ、開けたいんだ」


 渋々どいたベッキーをよそに、チャーリはベッドの下から木箱を引き出した。箱の中から、そっとタオルをめくる。


「なにこれ……卵?」


「……拾ったんだ。海の洞窟で」


「ひとりで行ったの? 危ないじゃん!」

「大丈夫だったよ。でも、これ──なんだろうなって思って……」


 ベッキーは、信じられないというような顔で卵を覗き込む。

 青白く光るその殻は、まるで生きているかのように微かに脈打っていた。


「触っていい?」

「うん……温かいよ」


 ベッキーはそっと手のひらを添える。


「……ほんとだ。これ、生きてるんだね」


 その瞬間、ふたりの間に、言葉にならない“秘密の感情”が芽生えた。


「これ、どうするの?」

「育てる。僕たちで」


 ベッキーは少し目を見開いたあと、にっこり笑ってうなずいた。


「じゃあ、私も手伝う!」


 その日から、チャーリとベッキーの部屋には、新しい命の気配が宿ることになる。


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