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【9話 護衛クエスト】

ゆっくりやってるつもりです

森の奥から響く足音は、まるで大地そのものを揺るがすようだった。

視線の先、木々を押しのけるように姿を現したのは――

黒灰色の巨躯。

血のように赤い瞳。

牙はまるで鋼鉄の刃のように鈍く光っている。


「……あれがダークウルフのアルファか」


俺が呟くと同時に、護衛兵たちの顔から血の気が引くのが見えた。


「馬鹿な……! アルファなんて、討伐隊が数十人がかりでやっと相手できる相手だぞ!」


「しかも群れを率いたまま出てくるなんて……!」


馬車の周囲に散らばっていたダークウルフたちが、まるで軍隊のように整列する。

普通の魔獣とは明らかに違う。

理性すら感じる規律だった。


「グルルル……!」

低い咆哮が地を震わせ、空気そのものが重くなる。


「イリオス様を守れ!!!」


護衛兵はイリオスを囲むように隊列を作る


「お前らは絶対にそこから動くなよ」


アルファの赤い瞳は、まるで獲物を見定めるように俺を射抜いていた。


おそらくこいつはここにくる前に倒したダークウルフの血の匂いを追ってここまで来たんだろう…

つまり俺たちを殺す気満々ってわけだ


「…動いたら死ぬぞ」


護衛兵たちの手が震えているのが分かる。

誰もが、この瞬間に自分の死を予感していた。


……ただ、一人を除いて。


「なあソロ! ソロ!!」


背後から小声で、けど全然小声になってない声が飛んできた。


「今度はどんな技で倒すんだ!? さっきの黒い槍のやつか!? それとももっとヤベェのある!? うわっ、あれ絶対ボスだよな!? あれ倒したらなんか称号つくんじゃね!?!?」


(……お前はゲーム実況でもしてんのか)


護衛兵が顔を引きつらせて振り返る。

「イリオス様!? 今はお静かに……!」


だがイリオスは興奮で尻尾をぶんぶん振りながら、俺に質問をぶち込んでくる。


「なあなあ! あの時の槍! 《セングリット》だっけ? あれもう一回見せろよ! 俺、絶対見逃さずに研究するから!」


緊張で固まる護衛兵たちと、ワクワクで目を輝かせるイリオス。

温度差がひどすぎて頭が痛くなる


だが――

恐怖に飲まれるより、ワクワクしてる方がまだマシだ。


俺は小さく息を吐き、ニヤリと笑った。


「しょうがねぇな。見せてやるから見逃すなよ」


俺がそう告げた瞬間、アルファが咆哮を上げた。


空気が震え、護衛兵たちが耳を押さえる。

だがその威圧を、俺は真正面から受け止めた。


「――来る」


ドン、と大地を蹴って巨体が突進してくる。

風圧で草木がなぎ倒され、地面が削れた。


(思ったよりも速い…)


俺は地面に掌をつけ、砂鉄の粒を呼び寄せる。


「――《穿牙槍セングリット》」


砂鉄が一瞬で槍の群れに変わり、アルファの進行方向へと突き出す。

だが――


「ガギィィン!!」


鋼鉄のような牙で弾き飛ばされた。

槍の穂先が砕け散り、火花が散る。


「なっ……!? 槍を噛み砕いた!?」

「やはり今からでも逃げたほうが良いのでは…」

護衛兵が絶望の声を上げる。


「はは、やっぱりな。そんくらいじゃ通じねぇか。」


アルファが跳躍する。

巨体が宙を舞い、影が俺を覆う。

落ちてくるのは質量そのものの暴力。


「下がれぇぇッ!」


護衛兵の叫びを無視し、俺は一歩も退かない。

掌を突き上げる。


「――《穿牙連槍セングリット・フルスラスト》ッ!」


地面から無数の黒槍が牙のように突き出し、アルファの腹を狙う。

しかしアルファは身をひねり、わずかに急所を逸らす。

数本が深々と刺さったものの、致命傷にはならない。


「グルゥゥゥァァァァ!!!」


血飛沫を撒き散らしながらも、アルファは咆哮している。


次の瞬間アルファは怒り狂ったように牙を剥き、地を蹴った。

巨体が矢のように迫る。


普通なら――盾役が前に出て、後衛が魔法で援護する。

それがセオリーだ。

だが、俺は違う。


「ソロはパーティプレイと真逆なんだよ」


俺は仲間と足並みを揃える必要もない。

すべてのリスクを、自分ひとりで背負えばいい。

だからこそ――最短最速で殺れる。


俺はあえて真正面に立った。

護衛兵が悲鳴を上げる。

「バカな! 逃げろ!!」


巨体が目前に迫った瞬間――俺は一歩、横に踏み込む。

その瞬間、牙が俺の頬をかすめ、髪が散った。

あと数センチずれていたら頭が吹き飛んでいた。


「っぶねぇ……だけど、お前の負けだ。」


アルファの死角、首筋の下。

そこは群れで戦っていたら、誰も踏み込めない危険な位置。

だからこそ――俺だけが狙える。


「――《穿牙槍・穿心一閃セングリット・スラスト》ッ!!」


俺の手から放たれた漆黒の槍が、獣の心臓を狙い撃つ。

瞬間、アルファの赤い瞳が大きく見開かれた。

避ける暇も、防ぐ暇もなく、黒い閃光が肉を貫く。


ドシュッ!!


巨体が硬直し、そのまま横倒しに崩れ落ちた。

地面が揺れ、土煙が舞う。


……沈黙。


護衛兵は呆然と立ち尽くし、誰もが言葉を失っていた。

ただ一人を除いては。


「おおおおおッ!! 出たぁぁぁぁ!! これこれ!!!!」

イリオスが尻尾をぶんぶん振りながら大声で叫んだ。


(……だからお前はその実況やめろっての)


俺は肩で息をしながら、静かに槍を消した。

ソロだからこそ選べる戦い方

――これが、俺の戦い方だ。


「よし、もういないな」


俺がそう呟いたときには、森はすっかり静まり返っていた。

アルファを失った群れは戦意をなくし、影のように散り消えていたのだ。


「……」

一連の流れを見ていた使者と護衛兵たちは、まるで石像のように固まっていた。

言葉を発するどころか、息をするのも忘れているように。


最初に口を開いたのは、護衛兵のひとりだった。

「……い、今のを一人で……?」

声が震えていた。


別の護衛兵が青ざめた顔で俺を見た。

「アルファを……いや、群れごと……。討伐隊でも死者を出す相手を……まさか……」


使者は膝をつき、額に汗をにじませながら俺に視線を向ける。

その目には、恐怖と尊敬が入り混じっていた。


「そ、ソロ殿……あなたは一体……」


その空気をぶち壊すように――

「やっぱスッゲェな! ソロ! ソロ!!」

イリオスがバンバンと俺の背中を叩き、尻尾をぶんぶん振り回していた。


「……はぁ」

頭を抱えたくなる。


緊張で全身を硬直させていた護衛兵たちが、イリオスのテンションに押されて、ようやく現実に引き戻されたように安堵の息を漏らす。


(……まあ、こいつの無邪気さに救われてるのは、俺も同じかもしれん)


「なぁ、アルファってなかなか討伐できない魔獣なんだろ?」


「え?あ、はい。そうですね…討伐自体はあまりされないため珍しいです」


「ならコレ、手土産に持って帰ろうぜ」


「え?」


「こいつを運べば少なくとも魔獣たちに襲われる可能性も減るだろ?魔除けみたいなもんだよ」


「…なるほど…一理ありますね。

確かにアルファ討伐されたのを魔物が見れば襲ってこない可能性はあります、ですが…運べる荷台がありません」


「それは俺に任せろ。《Noa-ノア-》 」


無数の光の粒が舞い上がり、俺の周囲に浮かび始める。

視界に現れたのは、何も存在しない“空の設計図”。


「馬車を創れ」


俺は今ある荷台と同じものをイメージし

光がひとつに集まり、そこに“形”が宿る。


「っ…!!これは…」


完成された馬車が目の前に現れた瞬間――

護衛兵たちは一斉に息を呑んだ。


「な、何もないところから……!?」

「馬車を……創り出しただと……?」


目を見開く彼らの視線が、一斉に俺へと集まる。

そこにあるのは、恐怖と、信じられないものを見た驚愕。


「……まさか、伝承に語られる“創造の権能”……?」

使者が小声で呟いたのを、俺はあえて聞こえないふりをした。


その静寂をぶち壊すように――


「すげぇぇぇぇぇ!!!」

イリオスが飛び跳ねる勢いで叫んだ。


「お前、戦ってる時もカッコよかったけど! 今度は馬車まで!? もう反則だろ!? 俺もノア欲しい!!」


「やめろ、簡単にバラすな」


「いいじゃん! だって俺、ソロの仲間だし!」


「仲間になった覚えはないし、仲間になったらソロじゃないだろ…」


護衛兵たちはまだ半信半疑の顔をしているが、イリオスだけは目を輝かせて俺の周りをぐるぐる回っている。


「これでアルファ持ち帰れるんだろ!? 魔除けにもなるし、戦利品としても超カッコいい! やっぱお前最高だな!!」


(……ったく。こいつのテンションがなかったら、今頃全員ガチガチに固まって動けなかっただろうな)


俺は深く息を吐き、アルファの死体を荷台に載せるために再び《ノア》を展開した。


「さぁ、さっさと片付けてお前の家に帰るぞ」



そこから数日の道のりは驚くほど平穏だった。


俺が想定していた通り魔除け代わりに積んだダークウルフのアルファの死骸は、まるで道を守る護符のように効力を発揮し、道中の魔獣どころか盗賊すら姿を現さなかった。


平穏な道のりをただ進み続け、

――ついに辿り着いた。


エルシオン王国:王都ルミナス


「……あれが、エルシオン王国の王都ルミナスか」


森を抜けた先に広がった光景に、思わず息を呑む。

遠くからでも見える純白の城壁。

昼間なのに光を反射して輝き、まるで聖域を囲むように街を包み込んでいた。

城壁の上には魔導灯が規則正しく並び、虹色の光がゆらめきながら街全体を飾っている。


重厚な門をくぐった瞬間――空気そのものが変わった。

賑わい、熱気、そしてきらめき。


石畳は白銀のように磨き上げられ、両脇には色鮮やかな花々が植えられている。

建物の壁は光を反射する素材で造られ、陽光を受けて街全体がきらきらと輝いていた。

空には魔導で浮遊する水晶球が漂い、昼でも星のような光を点々と落としている。


「帰ってきた……!」

思わず声を上げたのはイリオスだった。

彼の瞳が輝きを映してさらに輝き、子供のように尻尾をぶんぶん振っている。


視線を少し下ろせば、そこには多種多様な人々の姿があった。

獣人の子どもたちが人間の子と手をつないで駆け回り、エルフの女性が露店で薬草を並べ、ドワーフが煌めく武具を売り歩く。

人間の学者が抱える魔導書からは小さな光の蝶が舞い、路地の上空を飛び回っていた。


「これが……多種族共存を掲げる王国か」


俺は思わず呟く。


種族ごとに軋轢が生まれて当然の世界で…

この街はそのすべてをひとつに束ねていた。


(...フィリアよりも一貫された空気がある。)


その時だった。


「――イリオス様!?」

「ご無事でお戻りに!!」

「イリオス様だ! イリオス様が帰ってきたぞ!!」


街のあちこちから歓声が湧き上がった。

人々が雪崩のように押し寄せ、道の両脇に集まる。

誰もが涙を浮かべ、笑顔を輝かせて、イリオスの帰還を祝福していた。


「みんな心配かけてごめん!帰ってきたよ!!」


子どもみたいに両手を振るイリオスを見て――

ほんの少しだけ、この街の温かさに呑まれそうになっていた。



イリオスと俺を乗せた馬車は、民衆の歓声に見送られながら王都の大通りを進んでいった。

色とりどりの旗がはためき、露店からは甘い果実酒や焼き菓子の香りが漂う。

空に浮かぶ水晶球は道を導くように煌めき、俺たちの進む先を照らしていた。


やがて、街の最奥にそびえる純白の城が視界に広がる。

エルシオン城――王都ルミナスの象徴。

その姿はまるで光そのものを結晶化したかのようで、塔の先端は空に刺さるほど高く、昼の太陽すら見劣りするほどの輝きを放っていた。


「へへっ、すげぇだろ!ソロ! あれが俺の家だ」


イリオスは胸を張り、尻尾を高々と振り上げていた


「城が家って…」


思わず乾いた笑いが出る


民衆の歓声は次第に遠ざかり、やがて馬車は城門前で止められた。

白亜の大門には精緻な魔導刻印が彫り込まれ、近づくだけで清浄な気配に包まれる。

そこには既に、王国の兵と侍従たちが整列して待ち構えていた。


「イリオス様、よくぞご無事で……!」

兵士たちが一斉にひざまずき、声を揃えて叫ぶ。


涙ぐむ者、胸に手を当てる者、笑顔を浮かべる者――

誰もが、心からの安堵を隠さなかった。


イリオスは馬車から飛び降りると、大きく両手を広げる。

「ただいま! 心配かけたな!」


子どもが家に帰ってきたみたいな無邪気さに、兵士や文官たちの顔がぱっと明るくなる。


「ご無事で何よりです!」

「この日を待ち望んでおりました!」

歓声が次々とあがり、城門前が小さな祝祭のような空気に包まれていく。


白銀の髪のケモ耳の男――宰相が、静かに頭を垂れた。


「イリオス様。ご無事の帰還、国にとってこれ以上の喜びはございません。」


その隣で、ずっと護衛を務めていたアイルが控えている。

宰相は視線を向け、柔らかく口を開いた。


「アイル、よくぞ王子をここまで守り抜いた。……ご苦労であったな」


アイルは深く頭を下げる。


「……身に余るお言葉にございます。

ですが、この護衛の道中、我々の力は及びませんでした。

イリオス様、そして誰ひとり欠けることなく帰還できたのは――このお方のおかげです。」


アイルが一歩下がり、俺のほうを示す。


「……“ソロの人”。

王都にも名が届いております。

ブラックベアを討伐した冒険者……そして今度は、ダークウルフのアルファまで……」


ざわ、と兵や侍従たちがどよめいた。

視線が一斉に俺へ集まり、尊敬とも畏怖ともつかぬ眼差しが突き刺さる。


(……やりづらいな。)


思わず顔をしかめる俺を見て、イリオスがケラケラ笑った


(ここにいても目立つだけだ…)


「では、護衛の任務は果たした。これで――」


俺は短く言って背を向ける。

長居は無用だ。王城の雰囲気はどうにも性に合わない。


だが、出口へと歩き出そうとした瞬間――


「お待ちなさい」


鈴の音のように澄んだ声が、玉座の間に響いた。

振り返ると、白銀の髪に、獣の耳を頂いた若き女王が玉座に座していた。


「……イリス女王」

宰相が深々と頭を垂れる。


王としての威厳を纏いながら、その金色の瞳は驚くほど温かい。

そして頭の上の耳が、ふわりと揺れていた。

その仕草だけで、張り詰めていた空気が和らいでいく。


「弟を……イリオスを守ってくださったこと、心より感謝いたします。あなたがいなければ、この場に彼は立ってはいなかったでしょう」


耳が少し伏せられ、柔らかい笑みが浮かぶ。

それは威圧ではなく、誠実な感謝そのものだった。


「いや……俺は護衛依頼を果たしただけだ」


つい視線を逸らす。


女王は小さく首を横に振り、今度は耳をぴんと立てる。


「あなたはそう言うでしょう。けれど、民と王族にとっては“救い”なのです。ブラックベア、そしてダークウルフのアルファの討伐――民を助けることは、エルシオン王国を救ってくれたのと同じです」


(……やりづらい)


俺は思わず小さく息を吐く。

こうしてじっと温かさを向けられると、どう立ち振る舞うべきか分からなくなる。


イリスはゆっくりと立ち上がり、階段を下りてきた。

玉座から降りるというだけで、侍従たちがざわめく。

けれど彼女は意に介さず、まっすぐ俺に歩み寄ってきた。


「ぜひ、お礼をさせてください」


イリスはニコリと優しく微笑んだ。


「……お礼、ですか?」


俺は眉をひそめる。


「はい。あなたの行いは、単なる護衛の枠を超えています。王国として、イリオスの姉として、感謝を示したいのです」


俺はしばらく沈黙した。

正直、こういう場は性に合わない。

報酬は欲しくないと言えば嘘になるが、目立つのはごめんだ。


だが――


(…周りにいる王国の兵や管理職の面々…ここで断れば王女への侮辱行為で刑罰を受けそうだ…)


「分かった」


短く返すと、イリス女王は満足そうにうなずいた。


「ありがとうございます。では――明日、玉座の間でお待ちしております」


護衛任務は無事完了。

――そう思っていたのに頭の中に勝手にウィンドウが浮かぶ。


《新クエスト発生:王族対応(難易度:??)》

内容:礼儀作法ゼロの状態で女王と対面せよ。

失敗条件:失礼発言 → 即ゲームオーバー(※首が飛ぶ)


俺は小さくため息をついた。


俺は社会人経験はあるが社交性皆無

必要最低限以外の人間関係は全てしてこなかった

ただただ毎日ゲームをするゲーマーだった


そんな社交性0の俺に護衛任務以上に厄介で、緊張感に満ちた“次の任務”が始まろうとしていた。

なんか気づいたらポイント貰えてました

どなたかわからないですが

ありがとうございますm(_ _)m

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