【7話 稀に緊急クエストは発生する】
ゆっくりですからねー
森に足を踏み入れると、昼の光は木々の隙間から細く差し込むだけで、辺りは薄暗く湿った空気に包まれていた。
相変わらず気味が悪い森だ。
「……さて、黒牙の群れはどこにいるか」
依頼書に書かれていた場所に向かって慎重に進む。
「最後の目撃はここら辺のはずだが…」
すると――
低い唸り声と枝を踏む音が聞こえ、前方の茂みが微かに揺れた。
「……目標発見」
姿を現したのは、黒い毛並みが濃く光る狼型の魔獣たち。
数は7匹ほどだ。
全身を覆う漆黒の毛は、光を吸い込むかのように鈍く光り、赤く光る瞳が獲物を狙う獰猛さを放っていた。
牙は異様に長く尖り、角ばった爪は地面を掻くたびに小石を砕く。
群れは四足で俊敏に動き、互いに軽く体を触れ合いながら、狩りの準備をしているかのようだ。
「なるほど、名前通り“黒牙”だな……」
俺が剣を構えると、黒牙たちは低く唸り、同時に一歩前へ踏み出す。
動きは俊敏で、群れ全体がまるで一体の生き物のように連動している。
黒牙の一匹が先陣を切って飛びかかってくる。
「速いっ……!」
反射的に横へ身をひねり、振り下ろした爪を紙一重でかわす。地面に突き立った爪が土をえぐり、土煙が舞った。
その隙を狙って別の黒牙が背後から迫る。
振り返らず、足払いをかけるように剣を横に払うと、金属音にも似た嫌な衝撃が走る。
剣先が黒牙の牙に弾かれたのだ。
「こいつら、群れで連携してるな……」
息を整える暇もなく、三方向から同時に襲いかかってくる。
本能ではなく、獲物を確実に仕留めるために連動している動き――まるで訓練された兵士のようだ。
だが、俺はゲームで散々こうゆう奴らを相手にしてきた。
連携してくる相手は、逆に「群れの中心」を潰せば一気に崩れる。
これぞハンターゲームの鉄則!!!!
「……中心となる頭を潰せば良い」
俺は一瞬、視線を巡らせる。
集中しろ…
群れの中で一匹だけ違う動きのやつがいるはず…
見極めろ…見極めろ…
すると群れの中で、一匹だけ――動きがわずかに速く、他の黒牙がそいつの動きに合わせている黒牙がいた。
よく見れば赤い瞳の輝きもひときわ鋭く、牙は他よりも一回り大きい。
「……お前か」
息を吐き、地を蹴る。
飛びかかってくる黒牙二匹をあえて正面から受け流し、身体を低く沈めて滑り込むように間を抜けた。
瞬間、目の前にリーダー格が牙を剥いて迫る。
大きな口を開け、首元に喰らいつこうとするが――
俺はその動きすら読んでいた
「そこだッ!」
剣を逆手に構え、踏み込みと同時に刃を振り上げる。
黒牙の顎下を貫く鋭い一撃。
血しぶきが飛び散り、1匹の黒牙が苦悶の声をあげて崩れ落ちた。
次の瞬間、群れの動きが怒りと共に一気に乱れる。
自分たちの中心であった1匹の黒牙を失った黒牙たちは、統制をなくし、互いにぶつかり合いながら無秩序に怒りのまま飛びかかってきた。
「こうなったらもう俺のターンだ!!!」
冷静に残りの個体を迎え撃ち、次々と斬り伏せていく。
群れが連携していた時の脅威はもうない。
数分後、森に響いていた唸り声は消え、辺りには黒牙の死骸だけが残っていた。
前回の依頼と同様に依頼票が光りはじめ、
それと同時に懐の《登録書》が淡く光り、文字が浮かび上がる
討伐数:7
依頼進行度:達成
赤い【未達成】の印がゆっくりと黒く塗りつぶされ、代わりに金色の【達成済み】の刻印が浮かび上がった。
「何度見てもこの演出アツいわー!
…って、そうだ黒い石!」
俺は何か落ちてないかと期待しながら周りを探ると
キラリと光っている石を見つけた
「お!!これか?」
黒光する石のようなものを見つけて手のひらに乗せたが
あの時のように粉々に崩れたりはしない
「……あれ? これ、ただの牙の結晶じゃん…
さすがにレアドロップは引けないかぁ…
俺ゲームだとドロップ率良かったんだけどなぁ…
現実はやっぱりそんなうまくはいかないか」
俺は牙の結晶を布に包み、ため息をついた。
「まあ、依頼達成はしたし、帰るとするか……」
肩を回しながら森の出口へと歩き出した、その時。
――ズゥン。
足元の土がわずかに揺れる。
まるで大地そのものが鼓動しているかのような低い振動。
「なんか…やばそう…!!!早く帰らないと!!」
次の瞬間、奥の茂みが大きく揺れ、木の幹がなぎ倒される音が響いた。
ズシン、ズシン、と重々しい足音。
現れたのは、黒い毛並みに覆われた巨体の魔獣。
「なっ……お前は……」
――黒牙の大熊。
その体躯は軽く三メートルを超え、黒光りする毛皮は矢や剣をも弾き返すと噂される。
両腕の爪は大剣をも凌ぐ長さで、赤く輝く両目が俺を真っ直ぐに捉えていた。
この世界に降り立った時にトロールには出くわしたが…
(ドリアードめっ!!)
あの時のトロールの倍以上はある…
「さすがにピンチかも…はは」
冗談みたいなタイミングで出てくるな、
と乾いた笑いが思わず漏れる。
黒牙の群れを倒した直後の俺に、今度はボス戦が待っていたらしい。
「やっぱりクエストってのは、稀に突発強制イベントがあるんだよな……」
冗談めかした言葉とは裏腹に、背中を流れる汗は冷たい。
黒牙の大熊はゆっくりと一歩踏み出すたび、地面が震え、周囲の木々までもがざわめいているように感じた。
「……やばい、ガチもんの魔獣だ」
巨体に似合わぬ速さで爪が横薙ぎに振るわれた。
反射的に身を低くしたが、背後の大木が音を立てて裂け、崩れ落ちた。
俺はノアで創った黒い刀を構え、必殺の技を叩き込む。
「――《零創断》!」
刃が光を纏い、黒閃が一直線に大熊を切り裂く――はずだった。
だが――
「……は?」
鈍い火花を散らして、刃は毛皮の表面で弾かれた。
分厚い黒毛はまるで鋼鉄の鎧。浅い傷すら残っていない。
次の瞬間、巨腕が横薙ぎに振り抜かれた。
「ぐっ――がぁッ!!」
衝撃と共に体が宙を舞い、背中から木に叩きつけられる。
肺から息が強制的に吐き出され、視界が一瞬真っ白に染まった。
「……っはぁ……くそ、硬ぇ……」
脇腹が焼けるように痛む。まともに喰らえば即死だ。
だが大熊は容赦なく迫る。地響きを立てながら爪が振り下ろされる。
「やべッ――!!」
ノアで即席の盾を創り出す。だが巨腕に触れた瞬間、紙のように砕かれた。
かろうじて身を転がして避けるが、地面が爆ぜ、土と木片が飛び散る。
(零創断が通じない…! このままじゃ押し潰される……!)
恐怖と焦りで心臓が跳ね上がる。
逃げ場はない。森の奥に踏み込んだ以上、この化け物を倒さなければ帰れない。
「……くそ、考えろ……」
ただの武器で切りつけたりするのじゃダメだ…
ブラックベアの皮が厚くて弾き返される…
考えろ…考えろ…
剣や盾ではない、新たな「何か」を。
頭の奥でイメージを組み上げる
イメージしろ……群れを崩したあの一撃のように、核を穿つ一撃を……!
「創れ――新しい武器を!《Noa -ノア-》!!!」
掌に集中し、黒光の粒子が空間に浮かぶ。
砂鉄の粒が渦を巻き、徐々に尖った槍の形へと結晶化していく。
「――《穿牙槍》ッ!!」
槍の先端が無数の小さな刃に分かれ、まるで牙のように震える。
槍全体がうねり、振動するたびに空気を切り裂く音が響く。
ブラックベアの赤い瞳が鋭く光り、巨体が前傾する。
「来い……!今度は俺の番だ!!」
俺は一気に間合いを詰め、槍を前方に突き出す。
鋭い衝撃が掌を通じて伝わる。
槍の先端がブラックベアの厚い胸板に食い込み、内部で刃が拡散する感触――まるで牙が肉を噛み裂くように、体内をえぐる。
「グガァァァァッ!!」
巨体が揺れ、地面に膝をつく。
だが、ブラックベアはまだ完全には倒れない。
怒りに満ちた唸り声が森中に響き渡り、両前脚を振り上げて俺を薙ぎ払おうとする。
(ここで一撃で決めないと――!)
俺は槍を一度引き、先端の刃をさらに一点に集中させるイメージを描く。
《穿牙槍》――牙のように裂ける刃が、今度は生命の中枢を正確に狙う。
「――《穿牙槍・穿心一閃》!!!」
槍が光を帯び、振動が極限まで高まる。
ブラックベアの胸に突き刺さる刹那、刃が再び広がり、内側から裂けるように肉を穿つ。
振動と共に大地まで震え、まるで地鳴りが響いたかのような衝撃が森全体に伝わる。
「グオォォォォォッ!!」
巨体が大きく仰け反り、崩れ落ちる。
樹木が軋み、土が盛り上がり、倒れたブラックベアの毛皮から蒸気のように熱気が立ち上る。
息を切らし、汗で手が滑るが、握った槍はまだ消えていない。
深呼吸して全身の緊張を緩める。
(――勝った……!!)
倒れた黒牙の大熊の周りに、ノアの力で微かに残る黒光が揺れる。
槍を掌に戻すと、刃は粉のように散って静かに消えていった。
俺は膝をつき、森の静寂を味わう。
「まじで死ぬかと思った…」
その時、懐の《登録書》が淡く光り始めた。
――ピカッ。
文字が浮かび上がる。
緊急クエスト達成!
討伐数:1
依頼進行度:達成
「……おおっ、緊急クエストまで!?」
そこには絆狩協会フィリア・ハンターズに行くようにも記載がされていた
「すげえな…
さて……ボロボロだが、街に帰るか……」
全身の痛みを押さえつつ立ち上がる。
ふらつきながらも、森の床を蹴ってゆっくりと歩き出そうとした時に地面に何か光るものが目に入った。
かがんで拾い上げると――あの小さな布製の袋だ。
紋章が刺繍されている見慣れないデザイン
「これは初めて魔獣討伐した時に見たあれか…??」
手に取ると、小袋の中には魔法石が入っていた。
間違いない、あの時と同じだ。
俺は最後の力で《Noa -ノア-》を発動する
「この魔法石を保管する瓶を…《Noa -ノア-》」
黒光の粒子が石を包み込み、ゆっくりと形を変え、透明な瓶が創られる。
「――これで大丈夫だ。安全に持ち帰れる」
魔法石を瓶に収め、布の袋に戻す。
再び息を整えながら、街への道を進む。
◇
街に近づくと、街角から人々のざわめきが聞こえてきた。
「ねぇ、聞いた?森で黒牙の大熊が討伐されたって!」
「え?あの化け物を?誰が?!」
「おい!!黒牙の大熊を討伐した冒険者がいるらしい!!」
「それは本当か?ここずっと討伐依頼に挑んだ冒険者たちがみんな死んでいったあの黒牙の大熊だぞ?そんなバカな!」
「嘘だろ…本当だったら国全体の朗報だぞ?」
街の人々が驚きと畏怖の目で森の方向を見ていたが
街へ入るとその噂話でさらに盛り上がっていた
「黒牙の大熊が討伐されたって!」
「黒牙の大熊の話は本当なのか?」
「協会の討伐依頼が光ったやつを見た奴がいるんだ!」
まさに黒牙の大熊の話題でもちきりだ
(そんなに話題になるようなことなのか…?)
全身の痛みに耐えながら噂を横に街を進むと絆狩協会の建物が見えてきた。
入口の前には、普段は静かな職員たちがざわつき、俺の姿を見つけるや否や駆け寄ってきた。
「……お、おめでとうございますッ!!」
驚きと歓喜が入り混じった表情で、数人の職員が両手を差し伸べて迎える。
俺のボロボロになった姿を見ても、その熱狂は冷めることを知らない。
「まさか……あのブラックベアを、一人で……!?」
「いや、まさに伝説だ……!」
「登録書が光っている…!本当に討伐したんだ…」
俺はうつむき加減で息を整え、痛む体を押さえながら肩をすくめる。
その時――
「ソロさん!!!」
ケモ耳の職員が駆け寄ってきた
「黒牙の大熊の討伐依頼が光って…まさか…とは思ったんですが…本当に討伐されたんですね?!身体は大丈夫ですか?!こんなボロボロに…」
「正直……死ぬかと思った……」
その言葉に、ケモ耳の職員をはじめとした協会の職員たちは目を丸くした後、笑顔と驚きの入り混じった表情で頷く。
拍手が自然と湧き起こり、協会内の空気は祝祭のようだ。
ケモ耳の職員は安堵したのか、微笑んだ
「怪我してますよね?まずは治療をしないと…
本当にお疲れ様でした。
…医療部隊を呼んできてください!」
――そして俺は、そのまま膝から崩れ落ちた。
この時俺は崩れ落ちたときにケモ耳職員の胸元に顔を埋めるかのように倒れたことを後から知り後悔することとなる。
新技…メモメモ
なるほど〜砂鉄でできてるから色んな方に形成できるのか!メモメモ
《穿牙槍セングリット》の設定
概要
•手の中に砂鉄を集め、《穿牙槍》を形成
•槍を突き出す際、槍先端の無数の鋭刃が対象の防御を内部から裂き、体内深くまで貫通
•集中力と正確なイメージによって威力・範囲・形状を調整可能
技名①《穿牙槍・穿心一閃セングリット・スラスト
《穿牙槍せんがそう》の強化・応用版
•「穿心一閃」は名の通り、敵の心臓や核、最重要部位を狙う一撃




