【第4話 ソロ活、本格的に始動】
ゆーっくりやっていきますからね~
道中、俺は先ほどケモ耳の子供にかけた魔術のシールドを思い返していた。
あのシールド、ノアで創ったには想像以上の出来だった。
透明で柔らかく、優しい毛布のように子供の体に沿って包み込む。
外敵の視線も、森の獣の感知も通さない。
「魔術はあると思ってたけど、あそこまで柔軟に作れるとはな……」
実際に魔術を身近で見たり感じたりしたら
俺も色んな魔術が使えるようになるかもしれない
《Noa -ノア-》――この力、やっぱり想像以上に使える。
でも今は理屈より実践だ。
まずは目の前に出てくる野獣やモンスターを狩りまくるしかない。
森を抜けて街へ向かう道中、
ありがたいことに獣やモンスターが次々と現れる。
最初に現れたのは狼の群れ
剣を構え、ノアで補助具を生成しつつ、正面から一体ずつ仕留める。
「……これで一撃」
淡々と呟きながら、風を纏わせた斬撃で数匹を倒す。
続いて熊のような魔獣
《零創断》を呼び出し、無色の刃で急所を断つ。
重量感ある手応えと同時に、巨体が崩れ落ちる。
奇妙な鳥型の魔獣も出現。
空中に舞う鳥を狙い、ノアで投射用の小型刃を生成、投げ飛ばす。
着地の衝撃と羽音が森に吸い込まれた。
小型ゴブリンや角付きの猪の群れも同様。
敵の動きを観察し、最短距離で処理する。
気づけば、道中で出会った魔獣や獣はすべて倒していた。
魔獣や獣を倒しながら進んだ数時間後、
木々の隙間から赤い屋根の街が視界に入った
「まずは街に向かう…クエストクリアだな…」
近づくにつれて、土壁と木材で作られた家々が立ち並び、煙突から白い煙が立ち昇っているのが見えた
高い外壁が街を囲み、門の周辺には荷馬車や商人らしき人影がちらほら見えた
行き交う人々の服装は簡素だが、どこか活気がある。
市場からは香ばしい匂いと、人々の声が重なって風に運ばれてきた。
「地図じゃ分からなかったけど、意外と大きな街なんだな…」
門から街へ入った瞬間、俺は圧倒された
さまざまな種族が行き交い、屋台が続いている
肉を焼く香り、甘い蜜菓子の匂い、鉄を打つ音、子供の笑い声。
門を抜けた瞬間、目に飛び込んでくるのは人と種族が入り混じった活気そのものだった。
「……こりゃ、ゲームの街よりもリアルだな」
(当たり前である。)
人混みに飲まれながらも、俺は自然と街の中央を目指した。
中心に行けば、大抵の街は機能が集まっているはずだ。依頼、商業、行政。
ゲームでもそうだった。
石畳を踏みしめながら進むと、中央に大きな噴水広場が見えてきた。
水音が涼しげに響き、人々が憩い、子供たちが走り回っている。
そこでふと、掲示板に貼られた紙が目に留まった。
羊皮紙に大きく書かれた文字——
【絆狩協会依頼募集中】
「……これが依頼所か」
どうやら、この街では「狩人協会」ではなく【絆狩協会】と呼ばれているらしい。
ただ、貼られていたのは宣伝のような張り紙で、肝心の場所は書かれていない。
「誰かに聞くか……?」
そう思って通りの人影を見回したが、すぐに頭の中で警報が鳴る。
——声をかけたら、案内料をふんだくられる。
——親切ぶってついて来られたら面倒くさい。
——最悪、詐欺の可能性だってある。
「……やめとこ」
俺は小さく呟き、再び街を探索することにした。
その途中、妙に統一感のある装備の集団を見つけた。
革鎧も手入れが行き届き、剣や槍も無駄がない。
どうやら、そこそこの実力を持ったチームのようだった。
「……あいつらなら依頼所に向かうかもしれないな」
俺は人混みに紛れて、そのグループをさりげなく追った。
着いた先は——
酒場!!!!!!!!!!!
木製の看板には酒杯のマーク。
冒険者たちの笑い声、ジョッキがぶつかり合う音、酒と油の匂い。
完全に酒場だった。
「はぁ〜…どの時代も酒は快楽ってことか?
……まぁ、冒険者の街って感じにはぴったりか」
踵を返そうとした瞬間、背後から声をかけられた。
「おい兄ちゃん、何も飲まずに出てくのかよ?」
振り向くと、桶を抱えた茶髪の少年が、不服そうな顔で俺を見上げていた。
目が完全に「タダでは返すもんか」モードだ。
「……いや、俺は酒場に入ったんじゃなくて……通りすがりで……」
「そんなわけあるか。
何が気に食わないんだよ、ここの地酒はそこそこ有名なんだぞ」
こんな俺よりも低い背格好の少年に詰められるなんて…
俺は渋々答えた。
「お金がないんだよ…」
と伝えたところ、さっきの不服そうな顔からいっきに同情するような顔に変わった
「兄ちゃん…身なりから冒険者かと思ったが…プー太郎なのか…そりゃ俺が悪かったよ。ごめんな。でも幸いにもココは経済が回って活性化している街だ!フィリアの【絆狩協会】に行けばモンスターの討伐の他にも、街の雑用依頼もあるから食っていけるぜ!安心しな!」
俺よりも背の低い少年に
背中をポンポンと慰めるように叩かれた
不甲斐ない…
「俺でもやれる仕事があるか見に行きたいんだが、その【絆狩協会】という場所はどこだ?」
「あぁ、それならあそこだよ」
少年が指さした先は少し先に見える人の石造りの大きな建物
「近くなればそれっぽいやつらがたくさんいるから分かるぜ」
「あぁ…ありがとう早速行ってみるよ」
今は俺すげえ悲しい顔してると思う。
なんとなく背中を丸めながら向かい始めると少年がさらに大きな声で見送るように言った
「もし失敗したら最悪、おれが親父に皿洗いでも頼んでやるよ!!!」
オーバーキルだろ…
なんなんだ…
心の傷の代償はあったが
それに見合う情報はもらえた
「よし、行くか」
少し歩くと、少年が言っていた通り、石造りの大きな建物が見えてきた。
建物の前には装備の整った冒険者が何人も集まり、革鎧に光を反射させながら、剣や槍を手に談笑していた。
見るだけで「ここが依頼所だ」と直感できる。
談笑している横を抜けて建物の扉を押すと、木の軋む音が響いた。
中は広く、掲示板が壁一面に貼られ、依頼内容がびっしりと書かれている。
小型魔獣の討伐、野獣討伐、森の護衛、探索依頼、荷物の運搬など討伐以外の依頼もあった
「あの少年が言ってたのは本当のことだったんだなぁ…どうりで街全体が活気あるわけだ」
種類も報酬もさまざまな依頼を見ていると
カウンターの向こうから声がかかった。
「もしかして新人さんですか?
初めてならこちらの書類に記入してもらわないと」
カウンターの職員は、うさぎのような白く長い耳をしたケモ耳の女性
書類を差し出しながら微笑んでいる
(これがリアルで見れる異世界…最高すぎだろ…)
差し出された書類には
絆狩協会 受領登録書と書かれており名前以外にも細かく情報を記入する箇所があった
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絆狩協会
受領 登録書
名前:
出身地:
性別:
所属ギルド:
パーティー名:
※代表者の場合は名前の横に★をつける
パーティ人数:
個別依頼:可 or 否
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名前はソロの人でいいだろ
出身地…この世界のだよな…わからなくね…?
チラッと横目で見ると変わらず微笑んで俺を見ている
(迷ってる時間も勿体無いな…よし…)
出身地:サイタマ
(おい、埼玉かよって思ったそこのお前、バカにしたら許さんぞ)
性別は男…
所属ギルドは、無し
パーティ名、無し
パーティー人数、0人
個別依頼は可…と
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絆狩協会
受領 登録書
名前:ソロの人
出身地:サイタマ
性別:男
所属ギルド:×
パーティー名:×
※代表者の場合は名前の横に★をつける
パーティ人数:0
個別依頼:可
------------
「よしっ!」
登録書というやらを記入し、ケモ耳の職員に渡したが
受け取った瞬間、顔が曇り始めた。
「ごめんなさい…ここら辺では見たこともない文字で…」
「あ」
そうだ。今まで会話は普通に出来ていたし、読むことは出来ていたけど、書いた文字は別物なのか…
そりゃ俺はこの世界の言語体系なんて知るはずもないからな…
(……じゃあ、なんで話は通じてるんだ?)
転生する時には服装なども変わっていた。
その時に転生の加護でもかけられたのかもしれない。
だが、文字書きまでは面倒見切れなかったってことか。
ドリアード…ありがとな…俺頑張って生きるよ…
「……すまん、ちょっと直す
《Noa -ノア-》」
俺はノアを起動し、紙の上に意識を集中させる。
頭の中で「この世界の文字で変換」と強く思い込むと——
インクがじわりと動き、俺の書いた「埼玉」の文字が、見たこともないが妙に自然な異世界文字へと書き換わっていった。
カウンターの彼女がぱちりと目を瞬く。
「……これなら大丈夫です! 読み取れました!」
(よし、ノア万能すぎるだろ……!)
「えっと…読めたのは良かったのですが…
ごめんなさい…ここに書いてあるサイタマとは??聞いたことがなく…」
職員が首をかしげる
俺は堂々と答えた
「彩の国と呼ばれるサイタマのことです」
「サイタマ?なんだ?魚の名前か?」
俺の後ろに並んでいたドワーフのおじさんが
大きなハンマーを抱えながらひょこっと顔出して言ってきた
「ちがうわ!!!立派な彩の国だわ!」
「…なるほど。辺境なのでしょうか…
まだまだ知らない国があるんだなぁ…
教えてくださりありがとうございます!
ちなみに…」
「他にも何か?」
「ギルドやパーティの記入がないのですが、お1人で?」
「あぁ、そうだが…何か依頼を受けるのに1人だと問題があるのか?」
「いえ、問題はありませんが、最後の個別依頼は来にくいかも知れません。個別依頼の内容は大型魔獣の討伐や、道中の警護など人数を必要とされる依頼が多いため、1人よりもギルドなどの名で選ばれたり、人数で依頼がくることが多いのです…
なので1人の場合、個別依頼が来ない可能性もありますが…その点はよろしいでしょうか?」
なるほどな…
警護するなら人数が多い方が安心だし、数が多ければ強いというのはどのゲームでもある当たり前の戦略だもんな。
1人だと力量ではないと判断されるわけね…
面白いじゃん
「あぁ、問題はない」
「良かったです!では登録いたしますね…
あ!!でも登録時は1人でも途中でギルドに入ったりはしてもらって構いませんので、ご安心ください。
そうゆう方もたくさんいらっしゃいますので…
よしっ!これで登録できました」
ニコニコした笑顔で俺にそういうと1つのカードを渡された
「証明書…?」
「こちらは正式な証明書となります。
依頼を受けて向かう際はこちらを必ずお持ちください。
依頼が成功した場合の報酬はこちらの証明書に入るようになっております。あちらの機械で報酬額の確認や引き出しが出来ますのでご確認ください。
また依頼成功数によって評価がされていきます
高いランクになると個別依頼も増えてきますので頑張ってくださいね。」
カウンターからもらった証明書を手に、俺は掲示板の前へ戻った。
いよいよ依頼を選ぶ瞬間だ。
「さて…最初は簡単そうなのにしようかな…」
手当たり次第に小さな依頼の紙を眺める。
『森の小型魔獣討伐』『街道の護衛』『荷物運搬』…。
一番安全そうな『森の小型魔獣討伐』に目を留める。
「小型…だよな? サイズの基準が異世界だから、油断は禁物だけど…」
紙に書かれた注意書きを読むと、森の中で「奇怪な動きをする」という一文が目に入った。
「…よし、決定だ」
隣で掲示板を見ていた冒険者たちがチラッと俺を見て、
「あの新人、1人で森に行くのか…?」
と小声で囁く。
「お前、1人で森に行くのか?」
先ほど俺の国、サイタマを魚の名前と間違えていた
ドワーフのおじさんが俺に話しかけた
「あぁ。初めてだから小さな依頼だけどな」
「森は危険だぞ、ここら辺は最近だとトロールも目撃されているからな。あえば命を落とすものも多い。
俺のパーティに入るか?ギルドが集まる集会所はここから近い、お前がギルドを探してるなら連れて行くことも出来る」
…トロール?ここにくる途中にやったあいつか?
にしても、優しいおじさんだな
「ありがとう、でもいいんだ。
俺は自分が出来ることをまず確認したい」
依頼書を剥がしてカウンターに持って行くと、ケモ耳の職員が笑顔で受け取った。
「では、こちらの依頼を受け付けます。
森の小型魔獣ですね…こちら受付完了いたしました。」
カウンターの女性は控えを切って笑顔で俺に返した
「ん???」
「こちらは討伐完了した際に必要になりますので無くさないようお持ちください。」
「なるほど、これが必要なのか」
俺はそのまま返された控えを腰に差し込んだ
「では…行ってらっしゃいませ、絆狩協会一同、ハンター様のご武運をお祈りいたします。」
ケモ耳のカウンター職員がそう言ってお辞儀をした
俺は胸の中で意気込む
これが異世界転生してから初めての討伐クエスト
ソロ活の本格始動だ