【23話 ソロ活は誰に頼ればいい】
ま、ま、まとまった…!!!
でもこの先はストックがないのでここからまた追われる…
ゆーっくり更新しますのでご了承ください
◇
リミュエールの森の境界は、音もなくほどけた。
枝が絡まり合っていた道が、まるで「もういい」と言うように静かに開き、
淡い光に満ちていた森の気配が、ゆっくりと背後へ薄れていく。
振り返ると――
精霊たちが、枝の上や空中に集まっていた。
「ソローー!!」
「また来てねーー!!」
リィナとカリーナが、身振り手振りで全力アピールしている。
他の精霊たちも、光の粒を散らしながら手を振っていた。
「……あぁ、また来る」
小さく手を振り返す。
少し離れた場所で、サリアが弓を持ったまま静かに立っていた。
言葉はない。
ただ、一礼。
……それだけで、十分だった。
『行きなさい、ソロの人』
風に乗って届くのは、エリルの声。
見えないはずなのに、ちゃんと“そこにいる”と分かる。
「さすがにあったかすぎるだろ……」
そう呟いて、俺はマントを羽織った。
その瞬間、空気が一段、薄くなる。
自分の輪郭が、世界から少しだけ“外れる”感覚。
(これが……観測を鈍らせるってやつか)
一歩、前へ踏み出す。
森の匂いが、ふっと途切れた。
光を含んでいた空気が消え、
足裏に伝わる感触が変わる。
――柔らかな苔ではない。
踏み慣れた、“ただの土”。
思わず振り返る。
そこに森はなかった。
……いや、正確には“在る”のに、見えない。
霧のように、光の膜のように。
「ここから先は違う」と告げる境界だけが残っている。
「……結界の外、か」
精霊の声も、あの森特有のざわめきも、もう届かない。
――ここから先は、外の世界だ。
◇
道中、何度か魔獣に襲われながらも、俺は進み続けた。
そして――
リミュエールの森を離れて、三日目。
街道を外れ、森沿いの丘陵を歩いていた。
本来なら、人の往来があるはずの街道。
だが――そこに“人が通った痕跡”が、まるで残っていなかった。
エリシオン王国のような国も存在するこの世界で、街道が放置されているとは考えにくい。
車のない世界なら、主な移動手段は荷馬車や牛車のはずだ。
ならば――
轍の跡や、踏み固められた土。
そういった“往来の痕跡”があって当然だ。
「……なのに、何もない」
あり得るか?
街道として整備されているこの道で。
しかも――
一日目、二日目には遭遇していた魔獣の気配すら、完全に消えている。
「……静かすぎる」
代わりに目につくのは――
腐り落ちた木々。
黒ずんだ土。
枯れ果てた草。
「……どっかで見たな、この感じ」
胸の奥で、蒼輝の羅針が微かに震える。
人でもない。
獣でもない。
――濁った“何か”。
(……ルグナか)
エリルの言葉が蘇る。
『森の外縁には、まだ偵察が残っている可能性があります』
マントで気配は薄められている。
だが――消えてはいない。
「バレてたら、普通に面倒だな……」
ため息が漏れる。
めんどくさいが、旅を邪魔されるのはごめんだ。
俺は足を止め、ゆっくりと周囲を見渡した。
風が、止まっている。
さっきまで感じていた微かな草の揺れも、虫の羽音も――
全部、消えていた。
「……出てこいよ」
わざと声に出す。
数秒の静寂。
――ザリッ。
背後の土が、わずかに擦れる音。
同時に、気配が“浮いた”。
「……感知しているのか」
低い声。
振り返ると、そこには――
黒いローブ。
歪んだ仮面。
そして、あの嫌な“濁り”。
「やっぱり来たな……」
黒い靄が、地面から滲み出る。
仮面の魔族――ルグナ。
「……見つけたぞ」
低い声が、耳にまとわりつく。
仮面の奥で、赤い光が揺れる。
「我々は、魔へ至る者。
貴様のような“創”に触れた存在は――見逃せない」
(……やっぱバレてるか)
マント越しでも、完全には隠せないらしい。
「で?また精霊でも攫いに来たのか?」
「違う」
即答だった。
「今回は――貴様だ」
空気が、重く沈む。
次の瞬間。
ズッ――!!
地面に、黒い紋様が走る。
「《堕環-だかん-》――顕現-けんげん-」
足元から、じわりと黒が広がる。
森の時より規模は小さいが、確実に“侵食”してくる。
「……ちっ」
後ろに跳ぶ。
同時に、黒い靄が槍のように突き出された。
バシュッ!!
「っ!!あっぶね…!」
ギリギリで躱す。
だが、地面に突き刺さったそれは、じゅわりと腐食を広げていた。
(…直撃したら普通に終わるやつだな、これ)
腐食を見る俺にルグナが続けて言った。
「逃げるか?」
「いや?」
俺は肩を回しながら、ため息をついた。
「ちょっと試したいことがあってさ」
「……ほう?」
ルグナが、わずかに首を傾げる。
「この前は、ほぼ暴発だったからな」
軽口を叩きながらも、意識は集中していた。
――あのときとは違う。
《純命》の“感覚”が、残っている。
「……いける」
胸の奥に、意識を落とす。
蒼輝の羅針が、静かに応じた。
「……《Noa -ノア-》」
空気が、わずかに軋む。
「――《純命》」
瞬間。
白金の光が、俺の周囲にだけ展開された。
ドンッ――!!
衝撃のように空気が弾ける。
ルグナの黒が、焼かれるように消えていく。
「なっ……!?」
「これが――」
前より、明確に“扱える”。
「こう使うもんだろ」
光が収束し――
一点に叩き込まれる。
轟音。
完全な浄化じゃない。
だが、確実に――押し返している。
「使い方……ちょっと分かってきたかもな」
俺は、片手を前に出す。
「――行け」
シュンッ――!!
一直線に放たれた光が、
ルグナの肩を掠めた。
「ぐっ……!?」
仮面が、わずかにひび割れる。
そこから――黒ではなく、
灰のようなものが、ぱらりと落ちた。
「……くそ、外したか。」
ただし。
(……っ……)
ドクン、と胸が痛む。
息が、浅い。
(やっぱ代償エグいな……)
ルグナは一歩後退した。
「……危険だな」
声に、初めて警戒が混じる。
「…だが、消えたと言われていた"創"の存在が確認された以上、ここでお前は殺さなければならない」
「…そんなに俺って危険な存在か?」
俺は軽く笑う。
だが、内心は余裕ゼロだ。
(長引かせたら負ける)
その時――
エリルの言葉が、ふと蘇る。
『次に《ルミア》を使うときは――必ず誰かを頼りなさい』
(……誰かって)
周りを見る。
誰もいない。
「……いや無理だろ」
思わず、半笑いが漏れた。
「ソロ活してるやつに、誰頼れって言うんだよ」
「……何を言っている?」
ルグナが訝しむ。
「いや、こっちの話」
息を吐く。
覚悟を決めるしかない。
「一人でやるしかねぇだろ」
もう一度、構える。
光が、揺れる。
「来いよ、なり損ない」
「……いいだろう」
黒い靄が、再び膨れ上がる。
白と黒が、ぶつかる寸前――
(……短期決戦だ)
心臓の鼓動が、強く鳴った。




