【19話 再命】※イメージイラストつき
明けましておめでとうございます
今年もゆっくり更新していきます
◇
「……何故あなたがここへ?」
振り返ると、サリアが呆然と立っていた。
「「サリアっっ!!!」」
精霊たちが一斉にサリアのもとへ駆け寄る。
「サリア……カリーナの魔力がどんどん消えていくの……
このままじゃ、カリーナが……いなくなっちゃう……!」
リィナの声は震え、羽が小刻みに揺れていた。
「昨日、私たちを助けてくれたこの人なら……!
結界を破るほどの力があるなら、カリーナを助けてもらえるかもって……」
「そう……リィナ、ありがとう」
サリアは優しくリィナの頭を撫でながら、静かに続けた。
「エリル様に急ぎ連絡を入れたわ。すぐに来てくださるはず…それまで私たちの魔力で、なんとか繋ぎ止めましょう」
「サリア、一つ聞いていいか?」
「なんでしょう」
「この精霊たちに纏っている黒いオーラは……なんだ?」
俺が問うと、サリアの表情がわずかに曇った。
炎の光がその横顔を照らし、影が深く落ちる。
「……それは、“穢れ”です。
精霊の魔力が外から干渉を受けたときに現れる、魔族の呪詛。いわゆる呪いです」
「穢れ…?」
(ん? それって、あの“魔獣結晶”のときと同じじゃ……)
「精霊は魔力を生み出す生き物です。
その核――“マナコア”は魔力の源。
外から干渉を受けると、やがて理そのものが乱れます。
そうなれば魔力の流れが暴走し……
生み出すより先に力を、魔力を消費してしまう…
全ての魔力を消費してしまった精霊は消滅してしまうのです」
サリアの声は低く、悲しみに沈んでいた。
精霊たちが怯えたように、カリーナのまわりを囲む。
小さな光たちは黒い瘴気に押されるように揺らぎ、弱々しく瞬いていた。
俺は魔獣結晶の“穢れ”を浄化した、イリスの姿を思い出した。
「……その“穢れ”ってやつ、取り除けないのか?」
俺の問いに、サリアは苦く首を振る。
「エリル様なら…なんとか出来るかもしれませんが……
他には――」
その瞬間、俺の掌がふっと熱を帯びた。
(……え?)
見下ろすと、淡い金色の光がじわりと滲み出している。
温かくて、どこか懐かしい感覚――胸の奥がわずかに震えた。
脳裏に浮かんだのは、エルシオン王国で見たあの光景。
春の陽だまりのように柔らかな白光が、穢れ石を包み込み、
黒い靄を静かに吐き出して消していった――イリスの力。
(……そうか。あれは、“浄化”だった)
そのイメージを、ただ“思った”だけのはずだった。
けれど次の瞬間――
俺の胸の奥から、声が零れた。
「……《Noa -ノア-》」
光が脈打つ。
意識の底で、何かが共鳴するように響いた。
光が形を成し、俺の手の中で鼓動を打つ。
――そして、自然と口から言葉が溢れる。
「……再命」
その言葉が空気を震わせた瞬間、
蒼い光が爆ぜるように溢れ出し、精霊を包み込んだ。
黒い瘴気が揺らぎ、ほどける。
まるで「命そのものが書き換わる」ように。
「まさか……その光は――!」
サリアが目を見開いた。
俺は答えず、ただ集中する。
脳裏に焼きついた“イメージ”を、
記憶に焼きついた“イリスの浄化”を鮮明に描く。
光が強く脈動し、風が逆巻く。
蒼い波紋が空間そのものを震わせ、草木がざわめくその光景は世界が呼吸を取り戻していくように。
「……っ!」
リィナたち精霊が思わず目を閉じる。
光の粒が弾けるたび、黒い瘴気が霧散していく。
「うそ!?!カリーナの!!!魔力が戻っていく……!!!」
リィナの声が震え、喜びと驚きが混ざっていた。
包まれていた黒は完全に消え、先ほどまで苦しげにうめいていたカリーナの姿はもういなかった。
カリーナは淡い翠光を纏い、まるで昼寝でもしていたかのような穏やかな表情で静かに眠っていた。
「まさか浄化され、た……?」
サリアが呆然と呟く。
その表情には驚愕と、わずかな恐れが混ざっていた。
光がゆっくりと収束していく。
俺の掌から蒼い輝きが引いていくと同時に、
深い倦怠感が体を包み込む。
(……すげぇ……体の奥から全部、吸い取られる感じだ……)
「……お兄ちゃん……ありがとうっ!!!!!……」
リィナは慌ててカリーナの元へ駆けていく。
俺が顔を上げると同時にカリーナの瞳がゆっくりと開いていった。その瞳は透き通るような緑で、確かに生の輝きを宿していた。
「……カリーナ!」
リィナが泣きながら抱きつく。
他の精霊たちも歓声を上げ、空気が一気に明るさを取り戻していく。
「…あれ?私…ずっと苦しかった…はず…なのに…」
カリーナがゆっくりと呟くと、サリアが俺に視線を向けた。
「…まさか…」
だが、じっとしている暇はない。
"穢れ"を見に纏っていた精霊はもう1人いる。
俺は再び意識を集中させた。
(さっきよりも疲れて集中力が途切れる…難しいな…)
イメージ…
さっきと同じイメージを描くんだ。
穢れを取り除く…浄化…
再び、蒼光がほとばしる。
だが今度は――先ほどのように滑らかではなかった。
「……っ、く……!」
光が暴れ、制御が効かない。
掌の奥で何かが弾けるように脈打ち、頭の奥で金属が擦れるような音が響く。
(やばい……!さすがにキツイ…!!!)
額に汗が滲み、視界の端が揺ぎ、身体がふらついた。
(さすがに…もう限界か…?)
「…っ!!!」
きつい…きつすぎる…今すぐにでも横になりたい…
俺が諦めたら間違いなくこいつは死ぬだろう…
こんなに無理して救う必要があるのだろうか…
でも――必ず助けるって俺は言ったんだっ…!!
「――《Noa -ノア-》……再命!!!!」
叫んだ瞬間、光が爆ぜるように広がった。
暴れ回っていた蒼光が一点に収束し、まるで意思を持つように精霊を包み込む。
弾ける光の粒が黒い瘴気を焼き払い、
苦悶の表情が、ゆっくりと穏やかさへと変わっていく。
そして――
全ての瘴気が消えたあと、そこにはカリーナと同じく、淡い翠光を纏いながら眠る精霊の姿があった。
「……あなたは…いったい何を…」
サリアが思わず呟く。
その顔には、驚きと――ほんの少しの畏れが混じっていた。
俺は肩で息をしながら、今にも倒れそうな足を抑えて安堵の笑みを浮かべる。
「ソロさん…本当にありがとう!!」
リィナが俺に駆け寄り涙を見せながら言う。
精霊たちもそれに合わせてほっとしたように寄り添い合い、小さく笑っていた。
「……なんとか、間に合ったな」
――安心。
そう思った矢先だった。
「……ん?」
ザワザワザワザワ……ッ!
突如、森がざわめいた。
地面を這うような振動と、木々のざわめき。
鳥や獣たちが一斉に飛び立つ。
「この気配……まさかっっ……!」
サリアの表情が一瞬で引き締まる。
「あなたはここで待っていてください。
――その身体では戦うことはできないでしょう」
俺の身体が限界だってことを、サリアは今までの光景を見て感じていたのだろう。
…だが、サリアだけに任せるわけにはいかない。
「いや、大丈夫だ。俺も行く!」
息を整え、震える足をサリアと共に音のする方角へ駆けだした。
◇
サリアの後を追うように進んでいくのと同時に蒼輝の羅針の光が強くなっていた。
羅針が強く光り、震える先についた時、木々の隙間から、黒いローブを纏った影が次々と現れた。
顔には、どこか見覚えのある歪んだ仮面。
〜【第14話 魔族と対面】回想〜
「お前は……何者だ」
低い声が仮面越しに響く。
「お前こそ何者だよ。そんな怪しい仮面つけて、俺よりお前の方が怪しさMAXだろうが!」
「人間風情が魔族に楯突くとは、命知らずだ」
〜回想終わり〜
「あっ!!あん時の!!!」
俺が叫ぶと、サリアの顔がわずかに強張る。
「……こいつらを知っているのですか??」
「まあ、ちょっとだけな…」
サリアは静かに頷き、俺に囁くように言った。
「彼らは“ゼルヴァリア王国”の“精霊攫い”です。
精霊たちの魔力を結晶化し、“魔力結晶”を作り出すために精霊狩りを行う者たちです」
「結晶化……?」
「ええ。精霊は魔獣と違い、魔力を“生み出す”存在。
生きたまま捕らえれば、永遠に魔力を供給させることができるのです」
彼女の声が次第に重くなる。
「そして――彼らは、純血の魔族ではなく…人間なのです」
「……人間!?」
思わず息を呑む俺に、サリアは続けた。
「魔法に憧れた人間たちが、自分たちも“魔法使い”になれる方法として魔力を精霊たちから奪う。そして精霊たちから奪った魔力で魔法を使うのです。――彼らを“ルグナ”と呼びます。」
「…ルグナ?どっかで聞いたような…」
黒い仮面の奥から、くぐもった笑い声が響く。
「魔力を生み出せなくなった精霊を使い捨て…新たに魔力を生成する精霊を攫う…世界の理そのものを汚す行為です…到底許せるはずがないっ!…」
「魔族も、ヒトも、精霊も……力を求めるのは同じだ。」
仮面越しから聞こえるその声に、ぞくりと背筋が凍った。
「お前たちは欲望のままに精霊の命を喰らい、理を壊して魔へと堕ちた醜い存在だ。」
サリナが歯を食いしばる。
ルグナたちの身体が微かに脈動した。
空気がねじれ、黒い靄が彼らの足元から立ち上る。
それはまるで“生きた呪い”のように彼らの皮膚を這い、仮面の奥へと吸い込まれていく。
(本当に人間なのか…?仮面は同じだが、あいつにはこんな黒い靄は出ていなかった)
ルグナの身体から立ちのぼる黒い靄が濃くなる。
それは人間のものとは思えないほど歪で、まるで“魔”そのものが染みついたようだった。
サリアが一歩前に出て、強い眼差しで彼らを睨む。
「……あなたたちは魔族にとってただの捨て駒。
魔力結晶を扱えると騙され、使い潰されるだけの存在……それが“ルグナ”です。」
その言葉に、仮面の奥で嗤い声が上がった。
「捨て駒……? ふん、勘違いするな。
俺たちは“選ばれた”人間だ。
魔力を扱う資格のある、人間の中でも限られた種だ。」
「そうだ。“魔族に近い存在”と認められた者だけが、ルグナになれる。
俺たちは誇り高い――上位種だ。」
胸を張って誇らしげに言う彼らの態度に、サリアは深く吐息をつき、静かに、しかし刺すように言い放つ。
「誇り……?
あなたたちは魔族になれなかった“半端者”。
理を外れきれず、しかし力を渇望しすぎて心を捨てた……人間にも魔族にもなれず哀れなイキモノに過ぎません。」
ルグナたちの気配が一瞬で殺気へと変わる。
サリアは一歩も引かず続けた。
「魔族になれることが誇らしい?
……愚かですね。
だからといって精霊を攫っていい理由にはならない!」
声には怒りよりも哀しみが混じっていた。
「精霊の魔力は世界を循環し、森を育て、生命を支えている。それを奪い、歪ませ、使い捨てる……あなたたちは、世界を食い荒らす寄生虫です。」
ルグナが低く笑う。
「世界に貢献……?笑わせるなよ。
精霊は魔力を生み出せるくせに、何にもしないただの光の塊だ。」
もう一人のルグナが肩をすくめ、冷たく言い放つ。
「だからこうして“使ってやってる”。
魔族のために魔力を捧げられるんだ。
むしろ感謝されたいくらいだな…」
その言葉に、サリアの瞳が鋭く光る。
「…不快です、あなたたちにはここから消えてもらいます」
サリアはそう言うと、弓を放った。
ピシッ。
空気が割れるような緊張が走った瞬間――
ルグナたちの周囲に、黒い紋章が浮かび上がる。
「《グラズ=アマ・ルクトゥ》」
低い詠唱が重なり、紋章が黒く脈動する。
次の瞬間、
ドンッ!!
周囲の精霊たちが一斉に羽を震わせ、苦しげに倒れ込んだ。サリアも同時に胸を押さえ苦しそうにひざをつく。
「っ!? サリア!!」
「っ!!!……忌呪術です!!」
精霊の身体が黒い靄に包まれ、パタパタと地に落ちていく。
ルグナたちはあざ笑うように言う。
「抵抗する精霊ほど良質な結晶になるんだよ。」
「さあ、“狩り”の時間だ。」
ルグナの笑い声が木々に響き渡った。
おまけ
ルグナの立ち絵
再命のメモ
分類
《Noa -ノア-》派生・創造系スキル(生命干渉)
効果
穢れ・呪詛・異常干渉によって歪められた命を正常な状態に書き戻す。
回復ではなく、生命そのものの再定義。
できること
•呪詛・穢れの除去
•魔力循環の安定化
•消滅寸前の命を救う
※ 死者の蘇生は不可
発動条件
•強い「救いたい」という意志と明確なイメージ
•使用者が命に直接干渉する覚悟
特徴
•蒼い生命の光
•呪いは破壊ではなく“世界に拒否されて消える”
代償
•極端な消耗
•連続使用困難
•未熟だと暴走の危険あり
物語的意味
•主人公が初めて「命を創る側」に踏み込んだ力
•上位スキル《純命》への前段階
一言
死にかけた命を、もう一度“生きる側”へ戻す力。




