表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

【17話 門前防衛任務】

ゆっくりやっていきますよ〜


腕に絡みついた蔓のような輪は、まだかすかに脈打っていた。

心臓の鼓動とわずかにずれて、トン……トン……と、どこか生き物のように。


「……監視の蔓環《Verdant Oathヴァーダント・オース》か…」


口の中で呟くと、蒼い結晶が一瞬だけ淡く光った。

まるで「聞いてるぞ」と言われたようで、背筋がゾクッとする。


「おい、今の光……反応したのか?」


「当然です。その輪は“あなたを識別”していますからね」


すぐ横を歩くサリアが、冷ややかな声で返す。

深緑の外套の裾が風に揺れ、金の瞳が一瞬こちらを横目で刺した。


「……識別、って。犬の首輪じゃあるまいし」


「似たようなものです」


即答。

笑顔ゼロ。


(このエルフ、思ってたのと違う!!!!!)


俺はムスッとした顔で睨むと、サリアがすぐ冷たい目で睨み返す。


(……やっぱり思ってたのと違う!!!!!!)


俺は小さくため息を吐いて、周囲を見回した。

そこは“森の内部”――さっきまで外から見えなかった、精霊たちの棲む街だった。


光の粒がふわりと舞い、枝葉の隙間から淡い翠光が差し込む。

地面には滑らかな木の床が広がり、根や蔓が自然に組み合わさって道を形作っている。

道の脇では、小さな妖精のような魔素生物が、花粉を集めたり、水脈を掃除していた。


「……これ本当に全部、森の意思で動いてるのか?」


「ええ。リミュエールの森は“半自律”です。

精霊たちと女王の魔力が循環し、必要に応じて構造を変える。たとえば、あなたが今歩いている道も、あなたの存在を検知して“通路”として形成されたものです。」


「……それってつまり、森が“俺を通してる”ってこと?」


「正確には、“通してやっている”です」


ピシャリ。

冷たい回答にまたまた俺はムスッとした顔で睨む。


(このエルフ、やっぱり思ってたんと違う!!)


俺はサリアに続いて森の中を歩く。


木漏れ日が柔らかく揺れ、足元の苔がふわりと沈む。

遠くで小鳥のような声が響き、風が頬を撫でていく。

――まさに優しさを感じた。


だが、その裏には確かな“視線”も同時に感じた。

枝の上、木の幹、足元の水面、あらゆる場所から、無数の目がこちらを見ているような、そんな感覚だ。



「……見られてるな、これ」


「当然です。森の守りは絶えず“監視”しています。

あなたが一歩進むたび、その記録がエリル様へ届く。」


「つまり、今の俺のセリフも全部記録されてると」


「その通りです」


「……………………プライバシーって知ってるか?」


「この森では概念として存在しません」


(……マジで監視社会じゃねぇか)


俺は頭を掻きながら、腕輪を見下ろした。

淡く光る蔓環は、今も静かに俺の行動を“読んでいる”。

下手に変なことをすれば、たちまち拘束される仕組みのはずだが、不思議とその締めつけは“冷たく”なかった。


むしろ――どこか、優しい温度を帯びている。


(……観察されてるのに、守られてる気もする。変な感覚だ)


「……あのさ、サリア」


「何です?」


「エリルがさっき“悪意の香り”とか言ってたけど……

エルフは鼻が効くのか?」


サリアは足を止め、わずかに眉を動かした。

その横顔は真剣で、木漏れ日を浴びて淡く輝いている。


「……女王エリル様には、“精霊視”があります。

魔力の流れだけでなく、そこに宿る“意志”を読み取る力。怒り、怯え、欺瞞――それらは全て、香りとして精霊に映る。だから、あなたの“好奇心”もまた、あの方には香りとして届いたのでしょう」


「……なるほどな」


つまり、エリルには“ウソ”が一切通じないってことか。

まさに女王、ガチすぎる。


サリアは再び歩き出し、軽く振り返る。


「エリル様の前で偽ることは、森そのものを欺くことと同義です。……それを破れば、“その腕輪”があなたを裁く。」


(こ、こ、こえぇ…)


「腕がちぎれたりしないよな……」


思わず漏れた俺のつぶやきに、サリアの唇がわずかに動いた。

ほんの一瞬――笑ったようにも見えた。


(……今、笑ったか?)


けれどすぐに彼女は真顔に戻り、前を向く。


「案内はここまでです。

あなたの滞在区画を用意しています。

3日間、あなたにはここで過ごしてもらいます。」


目の前に現れたのは、森の根元に作られた小さな木の家。壁には光る文様が刻まれ、扉の上には蔓が絡んでいる。


どう見てもログハウス……

というより、“自然ハウス”だ。


「食事と寝床は決まった時間に供給します。

また門番の護衛は交代制になります。あなたは基本私と同じ当番になりますので、逃げようなんて思っても無駄ですよ」


「わかってるよ…逃げないって」


「この森、そして根まであなたを見張っていますからね」


サリアはそれだけ言うと、静かに背を向けた。

緑の外套がひらりと翻り、光の粒が後を追うように舞う。


「森恐怖症になりそう……」


俺は腕輪を見つめ、ため息をついた。


「……監視の蔓環《Verdant Oathヴァーダント・オース》。監視っていうより……森と“契約した”気分だな」


腕輪が、まるで応えるように淡く光った。



夜が訪れる頃、木々の間に淡い光が灯った。

光の粒が天井を漂い、部屋全体を柔らかく照らしている。

食卓には木の皿に盛られた果実とスープ、そして香ばしい焼きパン。

どれも森で採れた自然の恵みらしい。


「……意外と、うまいな」


口に運ぶたびに、森の香りが広がる。

ほんのり甘くて、土と風の味がする。

人間の世界では絶対に味わえない、どこか“生きている”食事だった。


「あなたが口にしたその一口も、森の循環の一部です」


「……まるで“食べて感謝しろ”って感じだな」


「感謝できるなら、それに越したことはありません」


サリアはそう言って、いつもの無表情のまま軽く立ち上がる。外套のフードを被り、腰に短弓を携えた。


「時間です。門前の巡回に行きますよ。」


「え?ご飯食べたばかりなのに!?!?」


「えぇ、巡回の時間ですから。

私たちが遅れれば交代のものが困ってしまいます。」


「ちょっと横になったり…」


「軽口を叩く余裕があるなら、早く足を動かしてください」


ピシャリ。

俺は肩をすくめ、彼女の後に続いた。



森の夜は静かだった。

風が木々をくぐるたびに、光の粒がふわりと舞い上がる。その中を、二人並んで歩く。


「……なぁ、質問していいか?」


「何でしょうか」


「サリアはずっとこの森で暮らしてたのか?」


「いえ。私は元々“ローレンの樹海”の村にいました」


「へぇ、ここから近いのか?…」


「“ローレンの樹海”は南方の森で、かつては豊かな森でした。ですが、百年前……魔族に襲われ、滅びました」


サリアの声がわずかに沈んだ。

夜の風に乗って、淡い寂しさが流れる。


「いつもの日常が変わり果てた時、私だけが生き残っていました。そんな私を女王エリル様が救ってくださったのです」


「……軽々しく聞いて悪かった」


「以来、私はこの森を“守る側”になりました。

エリル様が私を助けてくれた恩を私はここを守ることで返したいと思っています。だからこそ――

あなたのような“異質”な存在は、脅威に見えるのです」


サリアは前を見たまま言葉を続けた。


「……理解してくれますか?」


「まぁ……わからなくもない。突然結界ぶっ壊して突っ込んできた奴なんて、どう見ても怪しいもんな」


「そういう自覚があるなら助かります。

結界を壊さないでいてくれたらもっとよかったんですけどね」


サリアの言葉は俺に刺さる。


「…好奇心が勝っちゃったんだよなぁ、冒険者ならではってやつ」


「その好奇心でどれだけの迷惑が…」


「…ははは。スイマセーン…。」


思わず苦笑する俺に、サリアがちらりと視線を向けた。

その口元が、ほんの少しだけ緩んでいた気がした。


――が。


その瞬間、森の上空から低いうなり声が響いた。


「……ッ!」


「今の、聞こえたか?」


風が止み、木々の葉が震えた。

次の瞬間――黒い影が、月明かりを裂いて降り立った。


「魔獣……! “スピリットバット”です!」


無数の翼が闇を覆い、金切り声が響く。

コウモリのような姿をしているが、口の奥には淡い紫の光――“精霊を喰らう核”が脈打っていた。


「まずい、精霊たちが……!」


サリアの声と同時に、周囲の光の粒が怯えたように散っていく。奴らはその光を吸い取るように、空中でうねりを上げた。


「おいサリア! この森の魔獣ってことか!?」


「違います! 結界が乱れたせいで侵入したのでしょう!!」


「……チッ、やっぱり俺のせいかよ!」


避けきれないほどの数。

十体以上のスピリットバットが、こちらに向かって一直線に飛んできた。


「……《Noa -ノア-》!」


俺は手をかざし、集中する。


頭の中に浮かぶのは――“音”。

奴らが嫌う周波数、耳を裂くような高音のイメージ。


「創造――共鳴装置《Resonator -レゾネーター-》!」


蒼光が弾け、掌の前に透明な球体が出現した。

中心で小さな紋章が回転し始め、次の瞬間――


キィィィィィィィィィンッッ!!


高周波が夜空を裂いた。


「うっ……!!」


スピリットバットたちが苦悶の声を上げ、空中でバランスを崩す。

だが、同時に隣のサリアも耳を押さえて顔をしかめた。


(…やべっ!エルフの聴覚にもこれはきついのか!)


「――耳塞げ!!」


俺は即座に手を振り、追加でイメージを重ねる。


「創造――防音耳栓《Silent Guard-サイレント ガード-》!!」


光が弾け、指先に二つの小さな花弁のような耳栓が現れる。

サリアに一つを投げ渡す。


「これ、つけろ!!!」


サリアは一瞬驚いたように目を見開き――

次の瞬間、無言で頷いてそれを耳に差し込んだ。


再び高音が響く。


バタバタッ!! バタバタバタッ!!


スピリットバットたちが次々に墜落する。

落ちてきた魔獣をみて俺はすかさず手をかざす。


「――《穿牙連牙セングリット・フルスラスト》ッ!!!」


俺の手から放たれた砂鉄の槍が、次々と墜落したスピリットバットたちを突き刺していった。


光が散り、魔獣は灰のように崩れ消える。


森の静寂が戻るまで、わずか十数秒。

だがその間に、俺の心臓は何十発も跳ねていた。


「ふぅ……なんとかなったな。精霊たちは大丈夫だったか?!?!」


ふと振り返ると精霊たちは自分たちで耳を塞いでこちらをみていた。


「大丈夫そうだな!」


「…………」


横を見ると、サリアが俺をじっと見つめていた。

驚愕、というより――“畏れ”に近い表情で。


「……い、今の、あなたが使ったのは何ですか?」


「え? ああ、《Noa -ノア-》だよ。俺の能力なんだ。

創造系スキルってやつ」


「……無から、有を創った」


「まぁ、そんな感じ」


サリアの唇がわずかに震えた。


「……“四柱のしちゅうのり”。」


「ん?」


「太古の神話に語られる、“世界を形作った四つの理”。

そのうちの一つ――“創”のプロト・コヴナントは、無からすべてを生み出したと伝えられています。

まさに、今あなたが見せた力と同じ……」


「俺が神話の力?そんなバカな。」


「……ですが、あなたのスキルには“それ”の残響を感じます」


サリアの金の瞳が揺れる。


「……あなたは何者なんですか?」


「俺?俺はただのソロの旅人だよ」


夜風が吹き、森の光が静かに揺れた。

腕の監視の蔓環《Verdant Oathヴァーダント・オース》が、まるで応えるように淡く光を放つ。


まるで――

森そのものが、俺の存在に“ざわめいている”ようだった。

ブックマーク4件になりました。

ありがとうございます!励みになります


《Resonator -レゾネーター-》の設定まとめメモ

分類:《Noa -ノア-》の派生・補助創造装置(具現化系共鳴装置)


概要:《Resonator -レゾネーター-》は、《Noa -ノア-》によって創造された「共鳴装置」。

ノアの創造エネルギーを安定化・可視化し、“意志とイメージ”を物理的現象へ変換する中継装置として機能する。


機能・効果:

創造主(主人公)の思考・意志とノアの力を**共鳴(Resonate)**させ、形ある現象を生み出す。

直接ノアを発動するよりも制御性・精度・安全性が高い。

特定の波長で"干渉”できるため、物質創造・空間転移・結界解析など多用途に展開可能。

使用時、淡い蒼光と共に“音”を伴うのが特徴。


外見:掌サイズの浮遊コア。

起動時、幾何学的な紋章が展開し、蒼光の輪が周囲に共鳴する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ