【16話 結界を破った者】※イメージイラスト付き
ゆっくりやってますよ〜
リミュエールの森なんだか目が良くなりそう
AIイラストに感謝
俺は片眼鏡越しに、僅かに揺れる空気の膜を見据えた。
そこだけ、まるで世界が“二重”に重なっているように歪んでいる。
手をかざし、《Noa -ノア-》を発動。
淡い蒼光が集まり、じわじわと熱を帯びていく。
光はやがて、皮膚の内側から“焼けるような”圧力を放ち始めた。
「……ここだ」
手のひらを境界へ近づける。
光が触れた瞬間――バチッ、と空気が裂けた。
膜が歪み、まるでガラスのようにミシミシと音を立てる。
「ミシ……ミシミシ……!」
そのまま手のひらを押し当て、光を強める。
蒼光が皮膚からあふれ、結界を内側から“焼き切る”ように広がっていく。
「……割れろッ!」
最後の一押しで、空間が弾けた。
――パリンッ!!
音とともに、目の前の景色が弾け飛ぶ。
ガラス片のような光の欠片が宙を舞い、霧の向こうから“本当の森”が現れた。
俺は思わず息を呑んだ。
「これが……リミュエールの森……」
その先に広がるのは――巨大な木造の門と、淡く光る都市の輪郭。
まるで夢の中の風景だった。
空は淡い翠色の光に満ち、枝葉の間を無数の光粒が舞っている。
木々はどれも巨木で、幹には淡く輝く文様が浮かび上がっていた。
風が吹くたびにその文様が光を帯び、まるで森全体が呼吸しているようだ。
地面には透明な苔が生え、その下を流れる水脈がキラキラと光を反射している。
遠くには木の根をくり抜いたような建造物が立ち並び、光の橋が空中でいくつも交差していた。
建物の間を渡る小さな妖精のような光の粒――多分、魔素生物――が、音もなく舞い降りてくる。
まさに、“森が生きている”という表現がぴったりだった。
幻想的な街並みに見惚れていた俺は、ふと視線を下げ――
「え?」
そこにはぽかんと口を開けたエルフの少女が、目の前に立っていた。
肩まで届く緑がかった金髪
瞳は森と同じ深いエメラルドグリーンで、尖った耳がちらりと覗く。
長いローブの裾には花の刺繍が入り、胸元には小さな魔石が光を放っていた。
まるで森そのものが少女の姿になったような、不思議な存在感だ。
(うおおおおおおおお!!本物のエルフ登場!!)
……俺のテンションとは真逆でそのエルフの少女の表情は完全に“フリーズ”。
翠色の瞳がまるで化け物でも見たかのように見開かれている。
「…あ、あ、あなた…い、いま……結界を……破ったの……?」
「え? あ、うん。結界の歪みが見えたから……
も、もしかして、ダメ…でした…?」
「ちょ、ちょっと待って!? あなた今、結界を!?
や、や、や、破ったって!?!?!?
…
…
…
きゃあああああああああ」
少女の叫びが森に響き、そのまま少女は倒れる。
次の瞬間、奥から複数の足音が一斉に近づいてきた。
「何事だ!!!!」
「ティア!!!!」
「な!?!結界が破れている?!?」
「誰かが結界を突破したぞ!!」
「ティアが倒れている!!お前何をした!!」
「貴様の仕業か!!」
「侵入者だ!!囲め!!」
瞬く間に、十数人のエルフが木陰から現れ、弓を構える。
矢じりが俺の額すれすれに向けられ、冷たい汗が背を伝った。
「お、おいおい待て!待て!待ってくれ!!結界破ったの悪かったが、その少女は勝手に倒れただけで、俺はただの旅人だ!!」
「黙れ、侵入者!お前が何かしたんだろ!!
旅人がどうやって我らの結界を破った!!!」
「ティアが倒れているのはお前が何かしたからだろう!!」
「いや、だから説明させろって!?」
両手を上げる間もなく、後ろから腕を取られ、草のようなムチでぐるぐる巻きにされる。
問答無用のスピード感…
さすが森の民、動きが速ぇ…
って感動してる場合じゃねえ!!
「おい!ちょっと!!濡れ衣だ!!俺は何もしてない!俺はただの旅人だ……!」
「旅人で結界を破る奴がいるか!!!」
…それはごもっとも。
俺はため息をつきながら、エルフたちに連行されていった。
形は間違えど…こうして――ついに、“リミュエールの森”の中枢へ足を俺は踏み入れたのだった。
◇
連行されながら、俺は淡く光る門をくぐった。
目の前に広がるのは――森の中心部。
そこには、ひときわ巨大な樹がそびえ立っていた。
幹は想像を絶するほど太く、枝は空高く伸び、枝葉の先には小さな光が瞬いている。
まるで星空をそのまま森に降ろしたような光景だ。
樹皮には青緑の文様が刻まれ、樹からは穏やかな風が放たれ、森全体に澄んだ香りが漂っていた。
「…でけぇ……」
自然の雄大さと神秘が一体となったその大樹は、ただそこに存在するだけで森全体を支配しているようだった。
枝の間には小さな橋や歩道が張り巡らされ、精霊や魔素生物が忙しなく動き回っている。
木の葉が揺れるたび、微かな音楽のようなハーモニーが森に響いた。
「ここが……“中心”か。
しかし、この大樹どこかで見たような…」
俺は見覚えのある大樹に目を奪われるが、俺の手はまだ後ろで縛られている。
エルフたちは警戒を緩めず、時折俺を睨みながら歩を進める。
「ただの旅人が、結界を破るなんてにわかに信じ難い……」
俺を連行するエルフの声が小さく、しかし確かに森の空気に溶け込むように聞こえた。
俺は思わず頭の中で呟く。
(……結界を破ったことは悪いとは思うが…ティアっていうあの少女が倒れたのは完全濡れ衣なのに……)
深呼吸をひとつして、森の中心へと足を踏み入れた。
背後のエルフたちの視線や、連行される俺を見る周りのエルフたちからの痛いほど突き刺さるが、俺の目は、あの大樹の頂へ自然と吸い寄せられていった。
エルフたちに連行されながら、俺は大樹の幹に沿って設置された木製のエレベーターへと案内された。
「……え、これ乗るの?」
「あぁそうだ。大樹の頂上、ルミナ様の元へ。」
――ルミナというやらの側近らしいエルフが簡潔に答える。
木製のプラットフォームがぎしぎしと軋みながら上昇する。
揺れるたび、木の香りと淡い光が鼻腔をくすぐる。
見下ろせば森全体が光の海のように広がり、まるで自分が空中に浮かんでいるようだ。
「……すげぇ……」
思わず独り言を漏らす。
横で警戒していたエルフたちは一切反応せず、ただ頂上を見据えている。
やがてプラットフォームは大樹の最上部へ到達した。
目の前に広がるのは、森を一望できる光景と、木の枝を巧みに組んだ広場。
その中央には、威厳と優雅さを兼ね備えたエルフの女性――
肩まで伸びた銀緑の髪は光を反射し、瞳は深いエメラルドグリーン。
長く広がるローブは木の葉のような淡い緑色で、胸元には小さな魔石が静かに輝いている。
背筋を伸ばす姿は、森そのものが意志を持って立っているように見えた。
「ルミナ様…こちらが例の者です」
どうやらこのとんでもなく美しいエルフの女性が
ルミナというここの長らしい。
…にしても、リアルエルフさいっこう!!!!!!
本当にMMORPGの世界にやってきたみたいだ…
キャラクリしてぇ…
と俺が思わず見惚れていると、ルミナが問いかけた
「……あなたが、結界を破った者……?」
ルミナの声は柔らかいが、鋭さを失わない。
俺は思わず深く頭を下げる。
「はい……この世界の旅をしていて、リミュエールの森を目指してきたのですが、森へ入っても見つからないため、隠されていると推測したところ…結界の歪みが見えたので、見過ごせずに手を伸ばしました。」
正直に、飾らず、ただ事実を答える。
ルミナは目を細め、俺をじっと見つめた。
その視線は、森が持つ長い歴史と知識を凝縮したような、圧倒的な観察力を感じさせる。
「……不思議ね」
彼女は微かに首を傾げ、優雅に歩み寄る。
「結界を破ったのに……あなたからは悪意の香りがしない。普通、侵入者なら少なくとも探ろうとする意志や、好奇心に潜む危険性が見えるもの。
それが、あなたにはまったくない――なぜかしら?」
俺は少し戸惑いながらも、素直に答える。
「いや、悪意はないです。ただ……リミュエールの森をちゃんと見たいと思った。――ただただ、気になった。
結界の向こうに何があるのか、どうしても知りたかった。それだけです」
ルミナは静かに俺の言葉を聞き終えると、長いまつ毛をひと撫でしてゆっくりと息を吐いた。
頂上の風が、葉の文様をふわりと揺らす。光の粒が二人の間を穏やかに舞っている。
「なるほどね……」
彼女の声は柔らかいが、その眼差しは鋭く冷たい。女王としての威厳が、ふとした瞬間に立ち上る。
「あなたの言うこと自体は──嘘偽りはない。結界を破った動機が『好奇心』だというのも、見て取れたわ。」
俺は安堵で肩の力が抜けそうになるのを必死で抑える。
「あ、あの、ありがとうございます。リミュエールの森を、ここを見たいだけで、本当に悪いことは考えてないっす!!本当です。本当だから…!」
──だが、ルミナは首をふって静かに否定する。
「けれど、だからと言って私があなたをそのまま自由にする理由にはならないのよ。この森は長い間、外界の眼差しから守られてきた。結界はただのゲートではなく、私たちの生活と秘密を守るための壁。己を守るためにある結界だったの。その結界を破られた…それ自体が問題なのよ。」
女王の声は変わらない。温かいだけではない、責務の重さが乗っている。
「外から来る者には好奇心を持つ者もいれば、侵略や略奪を企む者もいる。あなたがそうでないと見えたとしても、私たちエルフと精霊には外のものを疑わなければならない歴史がある。一族の安全を優先するのは当然のこと。」
そして俺の目を見てルミナは伝えた。
「信用と理解は別もの。
あなたには理解はあっても、信用はまだない──それだけのことよ」
一瞬、場が沈黙する。狼狽しつつも、俺は素直に頷く。
(言っていることはごもっともだ…)
「それはその通りだ。信用されるには時間がかかるってのも当然です。」
ルミナは微笑まなかったが、僅かに口元が柔らいだように見えた。次の言葉は、どこか思いやりが混ざっている。
「なので条件を付けましょう。完全な解放ではない。あなたは結界を復旧させるまでの間、ここに留まり、リミュエールを守る門番となってください。そして私たちの監視のもとで行動する。違反すれば即刻拘束、必要なら今後外へは戻れない」
彼女が差し出したのは、小さな木彫りの箱。
蓋を開くと、中には薄い銀の輪と、小さな蒼い結晶が組み合わされた腕輪が収まっていた。
結晶はルミナの胸の魔石と同じ色で、淡く波打つように光る。
「これは…?」
「……これは――“監視の蔓環”。
古の言葉では《Verdant Oath》とも呼ばれているわね。ココ(リミュエールの森)で代々伝わる森と契約し、行動を見守る“誓約の輪”の腕輪よ。
どっかの誰かさんが結界を破ってしまってわたしは修復に忙しくてあなたを見守ることが出来ないからそのための腕輪よ」
ギクッ…
(自業自得ってことか…?)
「装着者の魔力、行動範囲、そして発言の波動を感知して、私のもとに報告される。もし不審な行動を取れば、森の守護樹と連動して“拘束術式”が発動するわ。」
「こ、拘束って……どんな感じで?」
「逃げようとすれば、足が地面に縫い止められる。
森に害を及ぼせば、全ての樹木があなたを拒む。
……つまり、森そのものがあなたを“敵”と判断する仕組みよ。」
ルミナはにこりの微笑んだ。
完全に、監視付きのプレイヤー扱いだ。
ゲームで言うなら「デバフ状態+行動ログ監視ON」みたいなもんだろう。
完全に運営に目をつけられた、あの感じと同じだ。
「もちろん、素行に問題がなければ何もしない。ただ――あなたがまた結界に干渉すれば、即座に感知される。」
ルミナの瞳がまっすぐ俺を射抜く。
「信用は、行動でしか築けない。
だから、あなたは“自由”ではなく、“観察対象”としてこの森に留まってもらう。」
そう言って彼女は、監視の蔓環を俺の手首にそっと浮かせる。
木の蔓のようなそれは、生き物のようにするりと肌に絡みつき、微かに発光した。
「っ…………!」
「心配はいらないわ、痛みは最初だけ。
あなたの魔力波形に同期しているだけよ。
これで、あなたがどこにいても、あなたの存在は“リミュエールの森”の一部として記録される」
「……完全に監視されてるってことか」
「ええ。だけど、あなたが森を害さぬ限り、誰もあなたを傷つけはしない。その腕輪はあなたを“拘束”するものではなく、“観察”するためのもの。違いを忘れないことね。」
ルミナの言葉には冷たさと、ほんの僅かな慈悲が同居していた。
「あなたには同行者をつけるわ。監視と案内、両方を兼ねて。この森の掟を破らぬように、そして……私たちを理解するために。」
彼女の横から、一人のエルフが静かに歩み出た。
深緑の外套を羽織り、背には弓。金の瞳がまっすぐこちらを射抜く。
「監視役兼ガイド、サリアです。女王の命により、あなたを見張ります。行動範囲は私の許可がある場所のみ。わかった?」
「はいはい、了解。……まぁ、逃げる気もないしね」
「口ではなんとでも言えるわ。あなたの行動は、森が見ている」
サリアの冷静な声が響いた瞬間、足元の根がわずかに動いたような錯覚がした。
まるで森そのものが、すでに俺を観察しているかのように。
ルミナは最後に静かに告げた。
「結界を直すまでには3日間かかります。
その3日間であなたの行動を見極め、問題を起こさなければ、正式に“訪問者”として受け入れましょう。
……けれど、嘘も、裏も、通じないことだけは覚えておきなさい。」
ルミナの声は、森のざわめきと共に風へ溶けていった。
〜おまけ〜
ティナ
サリア
監視の蔓環の設定まとめ
1. 基本情報
•名称:監視の蔓環
英語名:Verdant Oath
•分類:契約系・監視用魔法具
•所持者:森の女王ルミナが権限を持つ。
•目的:森とその住民を守るため、侵入者や行動を監視する。
⸻
2. 形状・外見
•形状:腕輪型(薄い銀の輪)
•装飾:小さな蒼色の結晶付き
•特徴:
•蔓のように浮かび上がるデザイン
•装着すると生き物のように肌に絡みつき、微かに発光
•結晶はルミナの胸の魔石と同色で淡く光る
⸻
3. 効果・機能
1.監視
•装着者の魔力波形・行動範囲・発言の波動を感知
•森や女王ルミナのもとに常時報告される
•行動の「監視」と「記録」が主目的
2.拘束
•不審な行動や森への干渉があった場合に発動
•足を地面に縫い止めたり、森の樹木が攻撃するなど、森そのものが防御
•逃亡や森破壊を阻止するための制御機能
3.契約機能
•森と装着者を魔法的に“同期”させる
•装着者の存在が森に組み込まれるイメージで、行動範囲や状態が森に記録される
4.安全措置
•森や住人に害をなさない限り、痛みや拘束は発生しない
•「観察」が主で、「攻撃」は違反時のみ