【14話 魔族と対面】
ゆっくりやりますからね〜
蒼輝の羅針が淡い蒼光を放ち、針はまっすぐ東の森を指し示していた。
リュミエールの森――
その名を思い浮かべるたび、胸の奥に小さな高揚が芽生える。
「エルフかなぁ…いや?精霊の可能性もあるよな…
ゲームの世界でしか見たことないからリアルエルフ拝みてぇ…」
リアルエルフを早く拝みたい気持ちが前に出て進む足がおもわず早くなる。
(このまま何事もなくついてくれればいいが…
普通に考えてそれはないだろうな。)
そんな予感がした矢先、森の頭上から鋭い咆哮が降ってきた。
「グルァァアッ!」
振り仰ぐと、漆黒の翼を広げた狼
――【スカイウルフ】が宙を舞っていた。
翼をひと振りすると、突風が吹き荒れ木々がしなる。
「……飛ぶ狼!? チートすぎんだろ!」
スカイウルフが急降下。
その牙が俺の顔めがけて迫り、思わず地面を転がって避ける。
爪が地面を抉り、土が爆ぜた。
「くそっ!!…」
(やっぱゲームの時から空中相手は嫌いだ…… )
降りてきた瞬間がチャンスなのは分かってるがーー
なかなかタイミングが合わない。
「攻撃パターンを覚えろ…」
空に舞うスカイウルフは、三回旋回したあとに急降下、着地と同時に突風――
数度繰り返すうちに、規則性が見えてきた。
(……なるほどな。三回旋回、突風のあと急降下。その後は一瞬だけ翼を閉じて無防備になる!)
汗を拭う間もなく、スカイウルフが再び咆哮を上げる。
黒い翼がきらめき、突風が俺を襲った。
「よし……来い!」
急降下――牙が閃く。
俺はギリギリまで避けずに踏みとどまった。
「ここだっ!《Noa -ノア-》!!」
瞬時に《Noa -ノア-》を発動し、頭の中で「地面から突き出す杭」を強くイメージする。
瞬間、光の粒子が集まり、狼の進路に合わせて石槍が隆起した。
「グゥゥァッ!?」
翼が避けきれず、石槍に引っかかり、バランスを崩したスカイウルフが地面に叩き落ちる。
そこへ俺は全力で剣を振り下ろした。
「――終わり、だっ!」
刃が黒い毛並みを裂き、スカイウルフの咆哮が途切れる。
地面に沈み込んだ巨体が微かに痙攣し、やがて動かなくなった。
「はぁっ……はぁっ……っしゃあああ!!!」
思わずガッツポーズ。
まるでレイドボスをソロで落とした時の感覚だった。
「ふぅ……戦闘にもだいぶ慣れてきたな…」
俺は剣を振って血を払うと、
再び蒼輝の羅針を握り、森の奥へ足を進めた
◇
日が沈む頃、俺は野営の準備を始めていた。
だが、そこでふと気づく。
「……飯がないっ!!!」
背負った袋を漁っても、干し肉ひとつ入っていない。
やばいやばいやばい、すっかり忘れてた…!
昨日までは城の食堂で三食バイキング状態だったんだ。
完全に油断してた…
とある漫画で読んだ海賊が仲間にコックが必要って言っていた意味が今ものすごく分かる。
リュミエールまで後何日かかるかわからない
このままだと餓死で俺の異世界転生物語が終わってしまう…それは絶対に阻止したい。
「ソロ活だと飯の心配は自分の問題か…ゲームだと体力ゲージはあっても腹減ったゲージないしな…盲点すぎる」
追い打ちをかけるようにぐうぅ〜と腹が鳴る。
「はぁ…腹減った…」
(こうなったら――)
「《Noa-ノア-》!食事を創造しろ!」
光の粒子が集まり、俺の手の中に現れたのは――
「…………石?」
ただの石ころだった。
次に挑戦したら、なぜか草。
三度目の正直で出てきたのは、なぜか木の枝。
ーーー絶句。
《Noa-ノア-》は「自分がきちんとイメージできない物」は作れない。
つまり――異世界の食材や味を知らなければ、飯は創造できない。
コンビニ弁当とカップ麺で過ごしてきた俺は当然料理スキルは最低レベルだ。ましてや異世界転生してたからお湯すら沸かしてない。
イメージ0、終わりだ。
「はぁ…コックが必要だ……」
絶望している中で俺は仕方なく森で食べられそうなものを探すことにした。
その時――
蒼輝の羅針がふいに震え、針が大きく歪んだ。
「……なんだ?」
嫌な予感が背筋を走る。
振り返った瞬間、影が飛び込んできた。
ギィンッ!
火花を散らして受け止めると、そこにいたのは仮面をつけた謎の人物。
黒いマントをまとい、瞳の奥に深い憎悪を宿している。
「ん…?魔法使いじゃなくて、人間か…?」
「なんだよ!いきなり襲ってきやがって!」
「…魔力が検知されたから魔法使いかと思ったが…
なるほど…その羅針だな」
「…羅針?あぁ、これか。魔獣結晶とか何たらで作られたものらしいからな。そうか、これにお前はつられたってわけか。だが残念、俺は魔族じゃない」
互角の攻防が続く。
剣と剣がぶつかり、お互い跳ね返すと向き合う形になり、空気が震える。
「お前は……何者だ」
低い声が仮面越しに響く。
「お前こそ何者だよ。そんな怪しい仮面をつけて俺よりお前の方が怪しさMAXだろうが」
「人間風情が魔族に楯突くとは、命知らずだ。」
(なるほど…こいつは魔族か…)
仮面をつけた魔族が踏み込んだ瞬間
「《Noa-ノア-》」
俺は呟き《Noa -ノア-》を発動する。
頭の中で強い光を思い描く。
「閃光」
その瞬間、俺と魔族の間に強い光が放たれ弾けた
「うぅっ…!」
仮面の魔族が手で顔を隠した瞬間、渾身の一撃を振り下ろし、仮面の魔族の首筋すれすれに突きつけた。
「…お前…本当に何者なんだ…」
魔族は閃光によってまだ視界がぼやけているのか、仮面の奥の瞳が目を細めていた。
俺は《Noa-ノア-》で閃光を作り出したと同時に生成した閃光避けのゴーグルを上にずらしてニカッと笑い伝える
「ただの旅人だよ。お前に頼みがある」
俺がそう伝えると仮面の魔族は低い声で答えた
「人間の頼みを魔族が聞くと思うのか」
首筋に突き付けていた剣を見ながら言う。
「この状況でもまだそれを言うか?
……俺はお前を見逃す。だから――」
俺は息を荒げ、必死に言葉を絞り出した。
「飯を出せっ!!」
………沈黙。
そして、仮面の奥から聞こえたのは――ふっと笑う低い笑い声だった。
◇
沈黙を破ったのは魔族の方だった。
「旅人のくせに飯がないのか?」
ギクッ
「と、途中で尽きたんだよ…」
「いいだろう…食べ物はやる。
その代わりにお前も質問に答えろ」
こいつは自分の今の状況を分かって言ってるのか?
魔族とやらは何故こんなにも偉そうなのか…
俺は呆れていた。
「…なんだ」
「お前からは魔力の因子を感じない。
魔法は使えないはずなのにさっき現れた強い光はなんだ?お前は能力者なのか?」
「……能力者、ねぇ」
俺は剣を突きつけたまま鼻で笑う。
「さっきも言っただろ?ただの旅人だっつーの」
「惚けるな。さっきの光は魔法以外では説明がつかん」
仮面の奥の瞳が鋭く細められる。
(……まぁ、《Noa -ノア-》のことを正直に言うわけにはいかないよな)
俺は剣を少し下げ、肩を竦めて答えた。
「光を出したくらいで大げさだな。たまたま目眩ましの道具を持ってただけだ」
「……道具?」
「ああ、俺の故郷じゃフツーにあるんだよ。《閃光弾》ってな」
…閃光弾は俺が一番やったでだろうアクションゲームで使うアイテムだ。廃人になるまでやり込んでいたゲームを故郷って言っても嘘じゃない…はず。
とりあえず全てを語る必要はない。
実際は《Noa》で創った閃光だけど、相手が知らなきゃただの秘密兵器扱いだろ。
魔族は少し黙り込んだあと、低い声で笑った。
「……なるほど、旅人の武器か。ふん、面白い」
そう言って腰の袋から何かを取り出す。
包みを解くと、香ばしい匂いがふわりと漂った。
「っ……肉!?」
思わず声が裏返った。
「森狼の干し肉だ。粗末だが食える」
魔族は無造作に放り投げてきた。
俺はそれをキャッチすると、もう我慢できずにかぶりついた。
「うっま……!なんだこれ、塩気が効いてて……最高だ……!」
夢中でかじる俺を、仮面の魔族は無言で見ていた。
やがて、静かに問いを重ねる。
「……その羅針はどこで手に入れた」
肉を噛みちぎりながら、俺は口をもごもごさせて答える。
「んぐ……討伐依頼の報酬だよ。その街の害悪だった魔獣、黒牙の大熊を討伐した功績でコレ(蒼輝の羅針)をもらったんだ。」
「……やはり、か」
仮面の奥で、魔族の目がわずかに光った気がした。
ただの羅針ではないとは思っていたが――
どうやら、それ以上の意味がコレにはあるらしい。
「おい、魔族」
俺は肉を飲み込み、真顔で言った。
「さっきから羅針にやけにこだわってるけど……一体なんなんだ?」
風が木々を揺らす音だけが響いている。
やがて魔族は低く呟いた。
「……その羅針は――魔族への冒涜そのものだ。
見ているだけで嫌悪する」
「魔族への冒涜……?」
俺は眉をひそめた。
「もともと魔獣は――我ら魔族の従魔だった」
「従魔?魔獣が?」
「そうだ。我らと血を分かち、魂を結んだ相棒だ。人間で言えば、家族同然の存在だった。」
魔族の声は淡々としていたが、その奥にはかすかな悔恨の響きがあった。
「だが……人間どもが魔法を編み出したことで均衡は崩れた。契約は断ち切られ、従魔は荒れ狂う“魔獣”へと堕ちていった。彼らは我らを忘れ、暴走するだけの獣となったのだ」
さらに魔族は続けた。
「獣となった魔獣の魔力や、魔法が込められた宝具を使い、人間は魔法を使う。しかも人間が使う魔法は我らに対して敵対させるように作られたものばかり…魔法を尊びもせず、理解もせず、ただ“便利な力”としか見ぬ浅はかな者ども――
魔力とは、血に選ばれし我ら魔族こそが扱うべきものだ。
中途半端な者が使えば、中途半端な結果しか生まぬ。
ゆえに《ノーク》は我らの敵であり、人間もまた決して認めぬ存在だ。」
俺は思わず眉をひそめる。
「わざわざ従魔だった魔獣の魔力を結晶化させて穢れ石にしたのはお前ら魔族だろ?それにこれには純血の魔法使いを殺す呪いも入っていただろ」
仮面の魔族は静かに、だが重みを帯びた声で続けた。
「穢れ石に刻まれた呪い――あれは単なる制裁ではない」
俺は眉をひそめる。
「……制裁じゃない?あの呪い、純血の魔法使いの血に反応してたぞ」
「…そこまで知っているとはな。
……その通りだ」
仮面の奥で瞳が揺れる。
「我ら魔族は、魔法の力を血で継ぐ種族だ。
魔力の混血を望み、他種族と共に歩むことを掲げる者――それは、我らの一族の意志を冒涜する行為に等しい」
「純血を守るための戒め、そして冒涜を止めるための警告。穢れ石に宿る呪いは、魔族の血に誇りを持たぬ者、つまり多種族共存を掲げながら純血を軽んじる者を戒めるためのものだ」
俺は思わず息をのむ。
(……なるほど、これはただの“力の乱用への罰”じゃなくて、魔族の理に基づいた警告ってわけか……)
「魔法は魔族によるもの…この羅針は魔族以外のものが細工した魔法道具だから魔法の冒涜になるってことか」
「あぁ、そうだ。魔族の目には――触れることすら許されぬ冒涜品だ。さらにその羅針には、意図的に我ら純血の魔族に反応する魔法が仕込まれている。私がそれに触れたら、おそらく手が吹き飛ぶくらいには強力な魔法が皮肉にも入っている。故に、魔族にとっては警告であり呪いでもある。お前がそれを持つということ自体、我らにとっては目障りであり、戒めの象徴なのだ」
「……で、俺はその羅針を持ってるだけでお前らに目をつけられたってわけか」
仮面の魔族は静かに頷く。
「そうだ。お前のような“無自覚な力持ち”は、世界の理を乱す。同じ過ちを繰り返さないためにも目を離せぬ」
「……なぁ、魔族」
「何だ」
「俺は、魔法を冒涜するつもりもないし、戦うためにここに来たわけじゃない。少なくとも“最初から敵”って決めつけられるのはゴメンだ。……ただ、飯と寝床と1人でこの世界を旅さえ出来ればそれで満足なんだ。それだけなんだよ」
仮面の魔族は黙ったまま、俺をじっと見つめる。
やがて――小さく鼻で笑った。
「……変わった人間だな」
「まぁな」
俺は肩をすくめて笑い返した。
魔族は立ち上がり、マントを翻す。
「ここで会ったことは忘れろ。
お前がその羅針を持っている限りまた我らは出会うだろう…次に会う時はお前を見逃さない」
俺は去っていく魔族のマントを掴んだ
「ちょっと待った……まだ飯ある?」
魔族は足を止め、袋をひとつ放り投げてきた。
中には干し肉と硬いパンがいくつか。
「…これで全部だ。生き延びたければ、それで繋げ」
そう言い残して、仮面の魔族は闇に溶けて消えていった。
俺は袋を抱え、深々と息を吐く。
「……あいつ、人間を嫌っているくせに結局持っていた飯を全部くれたな」
空を見上げると、木々の隙間から星が瞬いていた。
リュミエールの森まで後どれくらいだろうか――
俺は羅針を握り直し、夜空に問いかけるように呟いた。
「……魔法は魔族が使うべきもの、か。」
さりげなく見てくださってる方ありがとう
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