【13話 イベント報酬】
ゆーっくりやりますからね〜
城の奥、玉座の間。
白銀の大理石が陽光を受けてきらめき、巨大なステンドグラスから七色の光が差し込んでいる。
列をなす兵士たちが一斉に槍を打ち鳴らすと、荘厳な空気が場を満たした。
(……なんだこれ、まるでRPGの大型イベントじゃないか)
俺は場違いな気分を必死に押し殺しながらも、胸の奥で少しワクワクしていた。
リアルじゃ味わえない“王国の式典”。
ゲームじゃなく本物だ、その中心に自分がいるなんて。
(…くぅ〜!異世界転生最高!!)
やがて王座に座るイリスが立ち上がり、澄んだ声で告げる。
「これより――」
(これはっ…!!)
「叙功の儀を」
(これはこれはっ…!!)
「執り行います」
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
その瞬間、一気に視線は俺に集まった。
「………………」
「…っ!!!申し訳ありませんっ!!」
イリオスだけが俺を見てゲラゲラ笑っていた。
イリスは目を丸くして驚いていたものの、すぐに切り替え俺を真っ直ぐ見つめ直した。
「ソロ殿」
イリスの声が凛と響く。
イリスの声が響いた瞬間、兵士たちが膝をつき、空気がさらに張り詰める。
「この度、あなたは我が弟イリオスの命を救い、ひいてはエルシオン王国をも危機から救ってくれました。
あの時、あなたがいなければイリオスはもうこの場にいなかったでしょう。
その功績は計り知れず、国の未来にとっても大きな意味を持つものです。
よってここに、エルシオン王国を代表して感謝を表し――この国の証をあなたに授けます」
イリスは宰相から渡された紙片を両手で持ち、俺の手にそっと重ねた。
瞬間、虹色の光が走り、俺の名が刻まれる。
「っ…!!!!」
「この通行証を持つ者は、エルシオン王国とその同盟国すべての都市を自由に行き来できます。
関所や検問でも妨げられることはありません。
いわば――王国があなたを正式に“友”と認めた証です」
ぎこちない手つきで受け取る。
「あ、ありがとう、ござ、います…っ!」
(うおおお!これ絶対レアアイテム!しかも名前入り!MMOで言うところの月額有料のVIPカードってやつじゃん!!これがあれば色んなエリアに回数気にせず無制限でいける!!!)
胸の中でガッツポーズを決めつつ、表情は必死で引き締めた。
「そして次にこちらの宝具を。
――“蒼輝の羅針”(そうきのらしん)。
これは、あなたが討伐した《ダークウルフアルファ》と《ブラックベア》、さらにあなたが持ち帰った《穢れ石》を女王の力で浄化し生まれた《魔獣結晶》。
その三つを組み合わせ、王国の宝具として仕立て直したものです。」
俺が手に取ると、羅針の針がふるふると震え、光を宿した。
「未知の地を探す時、必ず正しき道を指し示します。
それは王国からの感謝と、あなたの勇気を形にした証です。どうか、これをあなたの旅路に役立ててください」
(完全にイベント報酬じゃん!!)
イリスの金色の瞳が俺を見つめて微笑んだ。
その笑顔は国を代表する女王そのものだった。
「この国に尽くしてくれたこと、心より感謝します。」
◇
叙功の儀は無事に終わり、兵たちが一斉に槍を床に打ち鳴らす。
荘厳な余韻が玉座の間に満ちていた。
(ガチでストーリーイベントクリアした気分だ…!)
高揚感と達成感に浸っていた俺の横で、イリオスが声を抑えきれずに笑っていた。
「っはははは! ソロ、さっきの“キタァー”ってやつ! ぼく一生忘れないからな!」
「お、おいっ……!」
耳まで真っ赤になった俺に、イリオスはますます笑い転げる。
「……ふふ」
王座に戻っていたイリスまでもが、思わず口元を手で隠して笑っていた。
一瞬、重々しい玉座の間の空気がやわらぎ、光が差し込むようだった。
式典は幕を閉じ、兵や重臣たちが順に退場してした後、広い玉座の間に残されたのは、俺とイリス、そしてまだ笑いを引きずっているイリオスだけだった。
イリスは静かに歩み寄り、俺の手の中にある“蒼輝の羅針”を見つめる。
「ソロ様……この品は、ただの宝具ではありません。
これから先、あなたの旅路が安全であるようにお祈りを込めた私たちからのお守りでもあります。きっとこの羅針があなたの旅路を安全に導いてくれますので…どうか大切にしてください。」
その声は式典の時より柔らかく、年相応の少女の顔だった。
「…これは俺がこの世界で初めて手に入れた“冒険の証”だ。だから、絶対に無駄にはしない。ありがとう。」
イリスの金色の瞳がわずかに揺れ、微笑む。
「……よかった」
「ソロ、これからも一緒に冒険しような!」
イリオスが無邪気に言い、俺の手をぎゅっと握った。
「なんでだよ……俺はソロだ。お前とは冒険しない」
「なんだよケチ!!!」
「一国の王子と冒険とかありえないだろ…」
俺があきれてそう返すと、イリスもイリオスも笑った。
荘厳な叙功の儀のあとに残ったのは、
女王と弟王子の、ただの兄妹のような、柔らかな時間だった。
◇
客間に戻ると静寂が一気に押し寄せる。
「……ふぅ」
緊張でこわばっていた肩を落とし、ベッドに腰を下ろした。
数秒の沈黙――そして。
「っしゃああああああ!!」
俺はベッドの上で拳を突き上げる。
「イベント報酬ゲットォォォォォーー!!!!」
思わず声が裏返った。
誰もいないのをいいことに、ベッドの上で転がりながら通行証と羅針を掲げる。
虹色に光る通行証、蒼く輝く羅針……眺めているだけでニヤけが止まらない。
「これ、ゲームだったら絶対に激レアドロップだろ!いや、クエスト報酬か?いやいや、称号付きアチーブメントか!?」
独り言が止まらず、テンションは最高潮。
(よし……!)
「《Noa-ノア-》」
《Noa -ノア-》――創造のスキル。
“何もないものを形にする”のが本質だが、形あるものを作れるのであれば…“存在を定義する”ことも出来るはずだ。
(…アイテムの情報を“形にして”視えるようにする!!)
「アイテムの情報を形にしろ」
意識を集中させると、光の粒子がふわりと舞い、羅針を包み込む。
瞬間、俺の視界に淡いステータスウィンドウが展開された。
―――――――――――
《蒼輝の羅針》
分類:ユニークアーティファクト
由来:浄化済み魔獣結晶
ランク:A+(成長可能)
効果:
・瘴気/穢れの感知(広域)
・浄化(小〜中規模、使用回数制限あり)
・持ち主の進路を守護する加護(危険予兆を低減)
備考:叙功の儀にて授与。王国の正式認可印が刻印されている。
―――――――――――
「おお……やっぱり出来た!」
俺は思わず身を乗り出す。
「ほうほう…なるほど。」
普通の目じゃただの輝く羅針。
でも、こうやって《Noa》を通せば、まるでゲームの詳細データのように覗ける。
(しかも……“成長可能”って書いてあるぞ。アーティファクトなのに?
いや、待てよ。俺の《Noa》がそう“定義”したってことは……この羅針、俺の成長に合わせて変わっていくってことか?)
ぞくり、と背筋が震えた。
未知数のポテンシャル。
それは、ソロプレイの俺にとって最高のご褒美だ。
「……これがあればソロ活もより捗るな」
羅針の淡い光が、まるで俺の心を映すように小さく瞬いた。
俺はしばらく羅針を眺め、にやけながら転がり続けていた。
だが、ふと冷静になって思う。
「……これだけで満足していいのか?」
イリスの言葉、エルダの過去、そして呪いの石。
この世界は俺が想像していたよりずっと複雑で、残酷だ。
(……もっと知らなきゃいけない)
羅針を握りしめ、目を閉じる。
"――次の王国へ。"
(せっかくの異世界転生でのリアルRPG…
ソロで討伐できてないモンスターも山ほどいる。
もっと広いこの世界を、自分の目で確かめないと…)
俺は小さく頷いた。
「よし……旅の準備、始めるか」
◇
翌朝
まだ街の鐘も鳴らぬ早朝、俺は静かに城を後にしようとしていた。
侍女が朝食に呼びに来る時間には、もう俺はいない。
(……多くの人に見送られるなんて性に合わない。俺はソロだ。誰かに囲まれて出発なんて柄じゃない)
肩に荷物を背負い、足音を殺して門へ向かう。
石畳に朝露が光り、冷たい空気が肺を満たした。
だが――。
門の前に差し掛かると、既に二人の人影が立っていた。
白銀の髪に金色の瞳を宿す女王イリスと、その隣で得意げに腕を組むイリオス。
「……なっ!?」
「やっぱりな!」
イリオスが笑う。
「ソロなら絶対、人に見送られるの嫌がって、こっそり出てくと思ったんだ!だって"ソロの人"だもんな」
「……ばれてる。」
俺が苦笑すると、イリスはふわりと手を胸に当てて微笑んだ。
「あなたのことだから……そうするだろうと、わかっていました。本当に行ってしまうのですね…」
その言葉に、少しだけ胸が熱くなる。
全然隠し通せてなかったことに気づき、思わず顔を背けた。
「世話になった」
俺は簡単に会釈し、手を軽く挙げる。
イリオスが悔しそうに腕を組み直す。
「次は俺も仲間にしてくれよ!」
「……ないない。俺はソロだ。お前と冒険なんてしない」
「なんだよケチ!」
二人の笑い声が朝の静寂に溶けていく。
門をくぐる直前、イリスが一歩だけ俺に近づき、静かに声をかける。
「ソロ様、どうか……無事でいてくださいね」
その声に思わず立ち止まり、振り返りたくなる衝動を抑える。
だけど、俺は軽く手を振るだけで前を向く。
「……ああ、じゃあな」
胸の奥がちくりと痛むけれど、それも今の俺には悪くない感覚だ。
二人の視線を背中に感じながら、朝露に光る石畳を歩き出した。
◇
エルシオン王国を後にして俺は地図を出す
「やっぱり更新しないとダメだな…《Noa-ノア-》
ーー地図を更新しろ」
意識を集中させると、俺の前に光の粒子が舞い上がり、淡い蒼光で地図が書き換えられていく。
白地のキャンバスに新たな大陸と森の輪郭が浮かび上がり、徐々に色彩を帯びていった。
「……これは」
広がったのは深い翠の大森林。
まるで宝石を散りばめたかのような湖と、空へと突き抜けるように聳える大樹がいくつも描かれている。
その中央に、柔らかく揺れる光の印が灯った。
――《リュミエールの森》
「リュミエールの森…森といえば…エルフか?!?!」
俺の胸が少しだけ高鳴る。
ゲームでもファンタジーでも、エルフや精霊の国といえば“憧れの舞台”だ
高潔で、神秘的で、誰もが一度は足を踏み入れたいと思う理想郷だ。
「次の目的地は決まりだ」
目的地を決めると羅針が、淡い蒼光でリュミエールの森を指し示した。
その輝きに背中を押されるように、俺は新たな一歩を踏み出す。
《蒼輝の羅針》設定メモ_φ(・_・
※書いてないとすぐ忘れる…
基本情報
分類:ユニークアーティファクト(王国叙功の儀にて授与)
由来:
・主人公が討伐した「ダークウルフアルファ」「ブラックベア」から得られた魔獣結晶を浄化し、エルダ書房にて精製されたもの
・元は「穢れ石」だったが、浄化の儀式で邪悪な呪いを払い落とし、蒼輝の結晶として生まれ変わった
ランク:A+(成長可能)
外観:
蒼い光を内包した小型の羅針。金属枠は白銀に輝き、中心の結晶は澄んだ青色で、内部に微かな星光が瞬く。
⸻
効果
瘴気・穢れ感知:
半径数百メートル〜数キロ単位で瘴気や呪いの気配を探知できる。
浄化機能:
小〜中規模の穢れを中和可能(使用にはチャージが必要、回数制限あり)。
進路守護の加護:
羅針が持ち主の進むべき道を示し、危険の予兆を低減する。
→ 例:不意打ちを受けにくい、危険地帯を回避する直感が働く。
成長性:
主人公の《Noa-ノア-》に共鳴しており、使用や経験に応じて効果が拡張される可能性がある。