【11話 魔獣結晶】
ゆーっくりですからねー
めちゃくちゃ誤字してたので直しました。ごめんなさい
腰のポーチから、石が入った瓶を取り出した。
「実はこの石について調べたいんだ」
エルダは興味深そうに目を細める。
「……その石は……魔獣結晶の様にみえますが…ただ少し変わったところがありますね。」
エルダの声に合わせるように、本のいくつかが勝手に動き出した。
棚から抜け出してふわふわと飛び、カウンターに積み上がっていく。
まるで思考を読み取って、本の方から近づいてきているみたいだった。
エルダは集まった本を1つずつ確認し、見終わった本はそのまま宙に浮かせて放置する。
(なるほど…こうやって宙に浮かぶ本が増えていくわけか…)
そして分厚い一冊を手に取り、ゆっくりとページに書かれた図を指でなぞった。
紫色の結晶の絵に、小さな黒い渦のような模様が浮かび上がる。
「……やはり。これは普通の魔獣結晶ではありません」
「普通じゃないって、どういうことだ?」
エルダは静かに言った。
「このくすんだ色……魔族の手が加わった痕跡です。
魔獣結晶はもっと透明で光を放つ結晶なのですが…
この石はくすんでいて光がない。
誰かが魔力を注ぎ込み、意図的に“歪めた”ものです」
「歪めた…?」
「ええ、俗に《穢れ石》と呼ばれます。」
エルダは宙に浮かんだ本をさらに取り、魔獣の絵が描かれているページを開いてみせた。
「魔獣結晶はいわばその魔獣が持つ魔力の源。
本来、魔獣は魔力を体内に閉じ込めておきますが……魔獣結晶は魔獣の魔力を凝縮させてできる結晶。
意図的に作り出したり、魔獣自身が結晶化させなければまず結晶にはならないのです」
「意図的に…」
「ええ。魔獣結晶は貴重な素材として様々に使われます。
例えば火を吹く魔獣の魔力を結晶化し、それを剣に組み込めば振るうたび火を吹く。
気配を消す魔獣の結晶をアクセサリーにすれば、持ち主は気配を消して魔除けにできる。
つまり魔獣結晶を介せば、持つ者は魔獣の力を借りて魔法を扱えるわけです。
ただ……」
エルダの顔が曇る。
「魔獣から魔力を吸い取り結晶を作るのは、並の魔法使いでは到底不可能。自然にできる魔獣結晶もありますが、それはごく稀です。
魔獣の魔力は死んだ途端に霧散してしまうため、通常の人間には扱えない……“我々魔族を除けば”」
「魔族を除けば…か…」
「ええ。ましてや“歪める”などという行為は魔族にしかできません」
エルダは俺をじっと見つめた。
「……ところで、この結晶はどこで手に入れられたのですか?」
「黒牙の大熊を討伐した時に出てきたんだ」
その一言で、エルダの目が驚きに見開かれる。
「……まさか、あなたがあの“黒牙の大熊”を倒した冒険者だったのですか?」
「知ってるのか……?」
「ええ、それはもう。
あの魔獣はフィリアに被害を与える寸前だったと聞いています。フィリアにいる冒険者の中に討伐できた者がいたと噂になっていたので耳にしていましたが……まさかあなたとは」
(…本当に名が広まっちまった…)
「…まあ、色々あってな」
俺が肩をすくめると、エルダは小さく笑い、再び真剣な眼差しに戻った。
「あなたは“魔族”と聞いても嫌悪感を抱かないのですね。」
「……ん?ああ。俺にとっては、まだこの世界そのものが未知だからな」
「…なるほど。だから私のことを見ても驚かず最初から普通に接してくれたのですね…」
エルダは安堵のような表情を見せ、そして語気を落とした。
「ですが、この世界の多くはそうではありません。
魔族と聞けば眉をひそめ、恐れ、時に憎しみを抱く。
魔族は“純粋な魔法を扱える唯一の種族”とされ、それが絶対の理として浸透している。
ゆえに己を頂点と信じ、他種族を見下す。
それが――魔族至上主義です」
胸の奥がざらりとする。
「つまり、魔族が一番偉いと主張してる奴らが多いってことか」
「ええ。魔族の横暴に傷つけられた人間をはじめとして数知れません。
村を焼かれ、家族を奪われ、帰る場所を失った者たちが今もいる」
エルダは浮遊する本を軽く手で払った。
「この《穢れ石》は本来魔獣には存在しない負の感情――怒り・憎しみ・恐怖を注ぎ込んで生まれたもの。
結果、魔獣は理性を失い、数倍も凶暴化する。
命を“汚す”行為……それを平然とやるのが魔族なのです…」
エルダの声は怒りに震えているようだった。
「……エルシオン王国が多種族共存を掲げる理由が、少しわかった気がする」
俺の言葉に、エルダの表情は少し和らいだ。
「この石……もう少し詳しく調べさせてもらえませんか?
他の魔法が込められているか調べてみましょう」
「助かる。頼むよ」
そう言って書房から出ようとすると、背中に声がかかった。
「……魔族のすべてが至上主義ではありません。
私のように共存を望む者もいる。
エルシオンに住む魔族は、至上主義の社会から逃げてきた者たちです。
どうか――全てが横暴な魔族だと、思わないでください」
「ああ、わかった」
◇
街の探索を終え、城に戻る。
夕暮れの淡い光が城の石壁に反射しているのを見て、少しだけ落ち着いた気持ちになる。
「ただいま」
出迎えた侍女が丁寧に微笑む。
「ソロ様、おかえりなさいませ。夕食の準備ができております。ご用意が整いましたら、食堂へお越しください」
(……夕食クエスト!?)
朝食で散々緊張したのに、今度は夕食か…と心の中でため息をした
◇
案内されると、そこには昼間以上に豪華な料理と整然と並ぶ長テーブルがあった。
イリス女王とイリオスはすでに席についており、俺の到着を待っている。
「おかえりなさい、ソロ様」
「ソロ、遅いぞ!!」
「ただいま、イリス、イリオス」
軽く頭を下げて席に着く。
豪華すぎる料理に圧倒され、正直どの順番で食べるべきか迷う。
(……よし、内側から使うのがマナーだということは今朝学んだ…)
手元でカチャカチャと器具をいじるが、心臓はバクバク。
そして、俺はふと目の前のワイングラスに手を伸ばす。
透明な水がゆらめき、緊張で渇いた喉にはなんだか美味しそうに見えたのだ。
(……飲める水だよな?ちょっとだけ……)
そのまま、無意識にグビリと一口――
その瞬間、食卓の空気が凍りつく。
「……ぷはっ!ソロ、お前本当に面白いなww」
イリオスは吹き出して笑っているが、
イリスも侍女たちも、一斉に目を見開き、全員が戦慄したように俺を見ている。
この空気、本日2回目。
流石の俺でもまた何かをやってしまったことがわかる。
「……ソロ様……それは……」
侍女の声がかすれ、手が少し震えている。
「……その、グラスの水は……お手拭き代わりの水で……」
なんと、置かれていたワイングラスは、汚れや料理の汁を指先で洗うための“飲用ではない水”だったのだ。
無自覚に飲んでしまった俺に、イリオス以外の全員が戦慄したように視線を向ける。
(うわああああ……!!)
慌てて口元を押さえ、咳き込みながら頭を下げる。
イリスは眉をひそめつつも、微笑を絶やさず静かに見守り、イリオスは変わらず笑い続けている。
「………コホン」
咳払いをして誤魔化す俺に、侍女が小声で呆れたように答える。
「……ソロ様、次からはお気をつけくださいませ……」
◇
「ふぅ……やっと落ち着いた」
夕食を終え、満腹感と緊張感から少しホッとする俺。
「ソロって本当に変わってるよな」
イリオスはニヤニヤと笑いながら俺に話しかける
「…うるさいな。ココはサイタマとは訳が違うんだよ」
「なぁなぁ、この間から言ってるサイタマって何?魚の名前か何か?」
「違うわ!!立派な彩の国サイタマだ!!」
そんなイリオスとのやりとりにイリスはくすくす笑っている。
◇
イリオスが勉強の時間だと侍女に呼ばれていなくなってから、イリスと2人きりになった。
(…なんか気まずい。。)
そんな空気を破るようにイリスが俺に問いかけた。
「ソロ様、今日はルミナスを探索されたと思いますが、どちらへ行かれたのですか?」
「今日は色々見て回ったよ。街の中心まで続く露店や広場や噴水の方まで。街を見ていて思ったが、フィリアにいた時に聞いたエルシオン王国は「多種族共存の理想国家」というものをまさに体感したな」
そういうと、イリスは優しく微笑んだ。
「そうですか…冒険者のあなたから見てもそう感じたのですね。…よかった」
「街のじいさんに勧められてエルダ書房にも行ったよ」
「エルダのところに?」
「…エルダ?知り合いなのか?」
「ええ、私の友人です。彼女は素晴らしい魔女ですよ」
俺は今日のエルダの言葉を思い出した
"どうか――全てが横暴な魔族だと、思わないでください"
「そうだな」
「ところで何故エルダの書房に?」
俺はエルダ書房での一連の流れをイリスに伝えた
◇
「…なるほど、《穢れ石》…それがソロ様が討伐した黒牙の大熊が持っていたと…」
「あぁ。エルダが言うには魔獣結晶を《穢れ石》に出来るのは魔族しかいないらしい。ちなみに穢れ石は黒牙の大熊の時に見たのが初めてじゃないんだ」
「他でも見たことがあると?」
「あぁ、フィリアで初めて討伐した小型の獣人のような魔獣の群れのやつも1人持っているやつがいた」
「小型の獣人のような魔獣の群れ…グレムリンでしょうか」
「あぁ、あれはグレムリンというのか…グレムリンの時は触った瞬間その石が粉々になってしまったんだ」
「粉々に…。黒牙の大熊の時は粉々にならなかったのですか?」
「あぁ、それは俺の能力で石を保存する小瓶を作ったんだ」
「…そういえば、イリオスや護衛にいたアイルから聞いていましたが、ソロ様は不思議な能力を使われるそうですね。どんな能力なのですか?」
「俺の能力はイメージで使える能力だ」
「…イメージ?」
「頭の中でイメージしたものが使えるって伝えればいいのか…まだ俺も自分の能力を全て把握できていないからうまく説明ができなくて悪いな」
「いえいえ。イメージ…創造…何処かの歴史書にそんなような能力を見たような…あ、すみません。話が逸れてしまいましたね。つまり今のお話を簡潔に言うとフィリアの周りには魔族によって作られた《穢れ石》を持つ魔獣が意図的に放たれている…そうなりますね」
「…あぁ。」
(さすが一国の女王察しがいいな…)
「…わかりました。シキを呼びなさい」
イリスは侍女頭にそう伝えると
白銀の髪のケモ耳の男――宰相が現れた
「イリス様、お呼びでしょうか」
「えぇ、フィリアに1つ電報を」
「かしこまりました。」
「ソロ様、1つお願いがございます」
「お願い…?」
俺は思わず息を呑んだ。
(ソロ活が終わるようなお願いはやめてくれ…)
「ええ。エルダに預けられたというその《穢れ石》……私自身も一度、この目で確かめたいのです。王としてだけでなく……一人の能力者として。…それに私ならどうにかできるかもしれません」
そう言ってイリスはにっこりと微笑んだ。
魔獣結晶の設定まとめ…メモメモ
① 基本
•魔獣の体内にある魔力の源を凝縮した結晶。
•本来、魔獣が死ぬと魔力は霧散するため、自然に結晶化することはほとんどない。
•意図的に魔力を吸い出し、加工して結晶にする。
② 性質
•魔獣ごとに固有の力を宿している。
例:火を吐く魔獣 → 炎を宿す結晶
気配を消す魔獣 → 隠匿効果を持つ結晶
•武具やアクセサリーに組み込むことで、その魔獣の特性を使用可能。
•そのため冒険者や王国にとっては非常に貴重な魔法素材。
③ 《穢れ石》
•魔族が魔獣結晶に 怒り・憎しみ・恐怖などの負の感情を注ぎ込み、歪めたもの。
•色はくすんだ紫や黒。自然な結晶の輝きはなく、濁っている
•効果:魔獣を理性を失った暴走状態にさせ、数倍の力を発揮させる。
•通常は魔獣に存在しない「感情(負の感情)」を持つため、凶暴化の元凶となる。