【10話 外側ではなく内側】
なんとか10話まで仕上げたくて
頑張ってみました
またゆっくりになると思います
目を覚ますと――
そこは見慣れない高い天井と高そうなシャンデリアが見えた
「あぁ…そうか。」
結局あの後――
俺はイリスに言われるがまま客間に案内されたんだ
◇
「こちらがソロ殿のお部屋になります。どうぞ、こちらでごゆっくりお過ごしくださいませ」
案内役の侍女が恭しく扉を開ける。
「……なにこれ、反則だろ…」
中に入った瞬間、俺は思わず足を止めた。
視界いっぱいに広がるのは、金糸で縫われたカーテン、ふかふかすぎる絨毯、壁には豪華な絵画がずらり。天井からはシャンデリアがゆらめき、まるで昼の太陽まで取り込んだかのように部屋を光で満たしていた。
気づけば俺の足は勝手に絨毯を踏みしめていた。
「おおっ……沈む、沈むぞ! !」
次はベッド。
端に触れた瞬間――ふわん、と沈む。
気づけば俺は走り込んでいた。
「とりゃあああああ!!!」
ドンッ! と豪快に飛び込む俺。
ふかっ! と吸い込まれるように沈むベッド。
「うおおおお……! 包み込まれてる!!
やばい! HPもMPも全回復するベッドだこれ!」
ベッドの上で転がりながら、思わず声を上げて笑う。
「うっひょー!ずっとここに住みたいくらいだなぁ!」
――その瞬間、ドアの方に視線をやると、侍女が凛と立っていた。
微笑みは崩さないまま、目だけが「……子供ですか?」と訴えている。
「…コホン。案内ありがとう。もう大丈夫だ」
「……ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
侍女はポカーンとした顔で小さく首をかしげ、一礼して扉を静かに閉めた。
「……はっっっっっず!!!!////」
俺は慌ててベッドの上で背伸びをするも、結局そのままゴロンと寝転んでしまった。
豪華すぎる客間の安心感と、ふかふかベッドの誘惑に完全に負けてそのまま寝落ちした
◇
――そして気づけば、今ってわけだ。
「やっぱり寝具って大切なんだな…こんなに疲れが取れるとは…」
コンコンコンコン
その時ちょうどドアをノックする音が聞こえた
「ソロ殿お目覚めでしょうか?もしお目覚めでしたら朝食のご用意をいたしますので、食堂へお越しください」
「あぁ、分かった」
俺は身支度をして侍女に案内されるまま食堂へ向かった
(...本当は部屋で食べたい…(T ^ T))
案内された食堂に足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑んだ。
「……なんだこの部屋。広すぎだろ…」
壁一面に飾られた豪奢なタペストリー、天井にはまたもやシャンデリア。テーブルは果てしなく長く、両端から叫んでも届かないんじゃないかってくらいの距離感だ。
しかもテーブルの上には、見たこともないほど豪華な料理がずらり。肉、魚、フルーツ、スープにパン、湯気の立つ陶器……朝食っていうより結婚式のフルコースじゃないか。
「おおお……! これ、うちの世界だと三日分……いや、一週間分のごちそうだぞ」
と、感動に浸る間もなく。
「おはようございます、ソロ様」
「やぁ、遅かったなソロ!」
声の方に顔を向けると――
すでに席についていたのはイリス女王とイリオスだった。
「ひぃっ……!?」
思わず変な声が出た。
イリオスはともかく…イリスは女王様だ。
しかも、この豪華な食事を前にして、俺はマナーとか全く知らない状態である。
(どうすんだ俺!? フォーク? ナイフ? スプーン? いや、頼むから箸をくれ! 俺はパスタでさえも箸で食う男だぞ!箸さえあればなんとかなるんだ)
心の中で土下座レベルに懇願しながら、とりあえず見よう見まねで食器に手を伸ばす。
「よし……確か端っこからだったよな……」
カチャ、とフォークを持ち上げた瞬間――
周囲の空気がピンと張り詰める。
侍女たちの視線が一斉にこちらへ突き刺さり、まるで刃のようだ。
(……えっ? 俺、いま何かやらかした!?)
背筋に冷や汗が流れる。
イリオスが吹き出すように笑ったのが、逆に緊張感を煽った。
「ははっ、やっぱりお前変わってるな」
笑い声をかき消すように、そばに控えた侍女が小声で告げる。
「“端から順に使う”は無作法です…内側から使うのがマナーになります」
「…………マジかよ」
心の中で絶叫した。
(おい!! 誰だよ! 外から内が常識だって言ったやつは!! 俺の首が飛ぶ!!!)
イリス女王の方をちらりと見ると、彼女は微笑を絶やさぬまま、ただじっと俺を見ていた。
微笑んでいるのに目はどこか鋭く冷たさを感じる
(やっべえ……この国のトップに粗相したら……普通に処刑コースじゃないか!?)
ゴクリ、と喉が鳴った。
フォークを持つ手が小刻みに震える。
――その時。
「……気にすることはありません」
女王の声は穏やかだった。
「ソロ様、どうかお気になさらず。旅人の方が全員礼儀を身につけられているはずがありませんもの。それにあなたは我が国を助けてくれたお方です。無作法1つや2つ気になりませんわ」
(……はぁぁぁぁ……助かったぁ……)
心底ホッとして背もたれに沈む。
すかさず俺は咳払いを一つして、ごまかすように言った。
「無作法で申し訳ない……俺の故郷サイタマでは、これが正式な作法で……」
イリオスが「サイタマ?」と首を傾げ、イリスが小さくクスクスと笑う。俺はその笑顔に救われた気持ちになりながら、どうにか食事を続けた。
◇
なんとか食事がひと段落すると、イリスが改めてこちらに向き直った。
「さて、ソロ様。今回の護衛任務に対する感謝の気持ちは、きちんと用意させていただきます。ただ、少し準備にお時間をいただきたく……数日後にはお渡しできるでしょう」
「……なるほど。数日か…」
「ええ、申し訳ないですが…その間、王都ルミナスの街を自由にご覧になってはいかがですか? 冒険者の目には、新鮮に映るものも多いでしょうし」
イリスの提案に、俺は「ふむ」と顎に手を当てる。
(街探索か……。RPGでは街の人から得られる情報もあるし、あの魔法石のことも何かわかるかもしれないな…)
「そうだな。それじゃあ、ちょっと街を見てくるよ」
◇
無事朝食クエストを終えた俺は、イリスの提案どおり街に出てみることにした。
イリオスも俺についてきたがっていたが、どうやらイリオスはしばらく謹慎らしい。
本人はなんでだよ!と反抗していたが…
イリスがピシャリと
「あなたのわがままに付き合った兵が亡くなったのですよ?」
と言った途端、イリオスは耳も尻尾も下がって大人しくなっていた。
イリオスはイリスに内緒で何人かの兵を連れてフィリアに向かったその途中で魔獣に襲われ行方不明になったらしい。
俺がたまたま居合わせて助けたのは魔物に襲われた後というわけだ。
何はともあれ、子どもの世話をせずソロで行動できるのは素直に嬉しい。
「……やっぱり街探索はRPGの醍醐味だよな!」
門を出てすぐに、ルミナスの眩しさに目がやられそうになる。
白銀の石畳は太陽を反射してきらきら光り、露店からはパンの香ばしい匂いと果実酒の甘い香りが漂ってきた。
人混みを抜けながら、俺はまるでゲームのNPCと会話イベントを探すプレイヤーの気分で周囲を見回す。
「いらっしゃい! 旅人さん、焼き菓子はいかが!」
「お兄ちゃん、薬草買ってって!」
あちこちから飛んでくる声に軽く手を振りつつ、ふと足を止めた。
広場に出ると、大きな噴水が目に飛び込んできた。
透明な水が陽光を受けて虹色に輝き、周りには人間やエルフ、獣人の子供たちが水遊びをしている。
フィリアにいた時に協会の職員が言っていた
エルシオン王国は「多種族共存の理想国家」
それを俺はまさに体感している
「おい見ろよ! 光の蝶だ!」
子供の叫び声につられて見上げれば、魔導書からこぼれ落ちた小さな蝶が、噴水の水しぶきの上を舞っていた。
「すげえ…」
独り言をつぶやいた瞬間、露店のエルフ女性に声をかけられた。
「旅人さん、疲れていませんか? 癒しの香草をどうぞ」
小袋を差し出されて、受け取ると袋の中にはミントのような香りの葉が入っていた。鼻に近づけると爽やかな清涼感が広がり、一気に目が覚める感覚を感じた
「これは爽快感のある香草です。魔獣によっては眠気を誘う匂いを纏っているものもいますので、その時に使えます」
「おお……! 確かに、一気にスッキリして頭が冴えるな…これは良い、1つくれ!」
俺はそう言ってポケットに手を突っ込むが…
お金がなかった。
そうだ…報酬はおろせるみたいなことを言ってたな…
「すまん…今お金が手持ちでないんだ…」
俺はしょんぼりしながら情けない声で伝えた。
そういうとエルフの女性は不思議そうに俺を見て言った
「冒険者さんよね?冒険者の証明書はありますか?」
そう言われて俺は胸元のポケットから
フィリアで作った冒険者証明書を出した
エルフの女性はニッコリ笑い
冒険者証明書とは違うなんらかの証明書ぽいものと俺の証明書を重ねる
\\\ ぽいぽいッ♪ ///
「これでお支払いは完了できましたよ。また香草が欲しかったら来てくださいね。うちには魔獣避けのものも置いてますから」
!?!?!?!?
(ペイペ◯じゃねえか!!!)
異世界の決済システムに香草の感動が瞬間で奪われた。
なるほど…この冒険者証明書は電子決済みたいなこともできるってことが…異世界すごすぎる…
◇
そこからさらに進むと、武具屋らしき店の前で声を張り上げるドワーフに捕まる。
「おう兄ちゃん! そこのアンタだ! お前冒険者だろう?この剣どうだ、炎を纏うぞ!噂の冒険者みたいにお前もこれで《黒牙の大熊ブラックベア》を討伐できるぞ!」
ギクッ
(王都まで噂が広がってるのは本当だったんだな…)
俺はフードを深く被り直した
「…い、いらん!俺、剣よりハンマー派だから!」
「なにぃ!? ならこの特製ハンマーを!」
「ちょっ……!」
どうにか逃げ出し、俺は肩で息をした。
「……やっぱり街探索、油断できねぇ」
◇
それでも歩けば歩くほど、ルミナスの“多種族共存”の景色が広がってくる。
人間の学者がドワーフと肩を組んで語り合い、獣人の子供がエルフの手を引いて走り回る。
(……フィリアの街とはまた違う。ここは“多様性をまとめて守る力”が根付いてる……そういう空気だ)
「……なんか、ここだけゲームじゃなくて、理想郷そのものって感じだな」
ふとそんな言葉が漏れる。
俺は香草の爽やかさで鼻をすっきりさせながら、再び街の大通りを歩いていた。
街を探索しているがやはり魔法石のような石を取り扱う露天はない…
俺は腰のポーチから瓶を取り出した
黒牙の大熊討伐時に落ちた魔法石を瓶ごしで光を透かすと、紫の輝きが内部で脈打つように揺れている。
(やっぱり…ルミナスにも同じような石はなかったな…)
「フィリアでは手がかりはなかったが、これだけの多種族がいるんだ…ルミナスなら誰かしらわかる人がいるかもしれないな…」
ちょうどその時、露店の老人が俺の石を一瞥してつぶやいた。
「……それは、魔獣結晶か?ん?違うか?なんだかそれは…“色”が悪いな」
「……知ってるのか!?」
俺は思わず声を上げた。
しかし老人は首を横に振り、にやりと笑った。
「詳しくはワシも知らないが、魔獣結晶に似ている…ただ…その石の色は初めてだ…」
「討伐した魔獣が持ってたんだ、なにか知ってれば教えてくれ」
「ふむ…もし知りたいなら――大通りの奥に“エルダ書房”がある。王都一の魔導文献屋だ。魔獣結晶の本もそこにあるだろう探してみるといい」」
「本屋か……!」
ゲーム脳の俺にとって、それは“情報収集イベント”の合図だった。
(よし……次の目的地は決まったな!)
俺は石をしまい、王都の喧騒の中へ歩き出した。
大通りの奥に進むと、ひときわ古めかしい建物が目に入った。
黒い石造りの外壁に、屋根の上からは尖った魔導灯がいくつも突き出している。
扉の上には銀の文字でこう刻まれていた。
【エルダ書房】
「……ここか」
扉を押すと、チリンと鈴の音が響いた。
その瞬間――目の前の光景に思わず口を開けて固まった。
「……すげぇ……」
店内の天井近くから床まで、数え切れないほどの本が浮遊していた。
分厚い魔導書、細長い巻物、表紙に宝石が埋め込まれた本
――それらが重力を無視してゆったりと宙を漂い、棚を行き来していた。
ページが勝手にめくれ、光の文字がひらひらと舞い散り、時折蝶のような形を作っては消えていった。
「……おや?」
柔らかい、響くような声。
本の隙間を縫うように現れたのは――
肌の色が淡い灰色で、額に小さな角を持つ人物だった。
漆黒のローブを纏い、瞳は深紅に光っている。
まさに魔女だ。
その人物は静かに微笑んだ。
笑った瞬間、角ばった印象がすっと和らぐ。
「いらっしゃいませ。ここは知を求める者のための場所――エルダ書房です。わたしは店主、エルダと申します」
彼女の柔らかい表情と共に浮遊する本の群れがふわりと揺れた。
なんかまたポイント貰えていて、ブクマも増えてる!
どなたかわからないですがありがとうございます!