【1話 俺はソロプレイヤー】
ゆ〜っくり更新していきます
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2年前
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ーasumaがログインしました
カズ⭐︎っち:あすまんやー!
轟:あすまおつ〜!
ni-na:asumaさんお疲れ様です(*^▽^*)
toppy:お疲れ様〜!
ちぃ:あすっち聞いてよ今日のクエでさ影がww
-影-:それ言うなよwwwww
Riz:静かに〜!笑
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asuma:みんなお疲れ〜!何があった?笑
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クスッと笑い、思わず独り言がこぼれる。
「影さん、またやってんなぁ」
カタカタカタカタ…
キーボードを打ち、いつものようにチャットを返していく
俺がやっているこのゲームは強力なモンスターを狩ることで装備強化アイテムをゲットできる。ゲットしたアイテムで装備強化をしていき自身のキャラクターを強くしていくが、期間限定のイベントで出るモンスターや大型のSランクモンスター特別報酬が出るため難易度も高い。そのため難易度の高いモンスターは仲間と協力しながら倒して攻略していかなければならない
よくあるMMORPGだ
名前も年齢も顔も知らない。
現実で会ったこともない。
このゲームの中でしか会えない人たち。
だけど、それでも確かに――
ここには“仲間”がいる。
ただの文字なのに、なぜか温もりを感じる。
気づけば、パソコンの前で自然と笑っている自分がいた。
これが、俺の日常だった。
ピロリン♪
ー個別チャットを受信
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ni-na:asumaさんこんばんわ(^^*)
asuma:にーなさんこんばんわ
ni-na:あの、早速お手伝いしてほしいクエあるんですけど・・・笑
asuma:もちろん!良いですよ!ww
ちょっと待ってくださいね、今帰ってきたばっかりでw
ni-na:はいっ!待ってます!!始めたばかりでまだ弱々で・・・いつもありがとうございます( ; ; )!
asuma:ni-naさん充分強くなってきてますよ!ヒーラーでも強くならば難易度SSクエもいけますし、そろそろ1人でもいけるのでは??
ni-na:asumaさんがいないと頑張れないです(><)笑!
asuma:笑笑 しょうがない!じゃあ行きますか!
ni-na:はいっ!♪お願いしますっ!
:
(クエスト終了後)
ni-na:今日はたくさんありがとうございました(><)!
おかげでたくさん稼げて装備強化できそうです!!!泣
aruma:それはよかったです、また必要な時はいつでも呼んでください!
ni-na:asumaさん優しすぎて好きになっちゃいそう笑
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「....!!!!!!」
思わず、チャットを打っていた手が止まる。
(……にーなさんって、たまに他の人にも“好き”って言ってるの見たことあるけど……
それでもやっぱり、自分に向けて言われると……ドキッとするよな)
一度深呼吸して、冷静さを取り戻しながら手を動かす。
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asuma:一瞬ドキッとしちゃいましたよ!w
からかうのはやめてください!笑
ni-na:・・・本気だったらいいんですか?
私asumaさんのおかげでゲームが楽しくなったんです!
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俺は28歳、彼女ナシ。
平凡な企業に勤めるただの社畜ゲーマー。
そんな俺に来るはずのない春が来ようとしてるってこと?なのか???
と、そこへ。
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ni-na:なんちゃって笑(><)!
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ガーーーーン
「いや…そうだよなぁ…泣」
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aruma:_| ̄|○・・・ひどいっす!ww
ni-na:ごめんなさいっ!笑 でもasumaさんがいたから今ゲームを楽しめてるのは本当ですっ!いつもありがとうございます♪(><)
asuma:こちらこそいつも俺と遊んでくれてありがとう!
ni-na:また明日もインしますか?その時はよろしくお願いします!おやすみなさいっ!(*^^*)♪
asuma:また明日!!おやすみなさい!
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にーなさんと出会ったのは、ゲーム内の“中央広場”だった。
中央広場とは、特別イベントのクエストやレイド前にプレイヤーたちが集まる場所。
戦いの前の高揚感、期待、不安……いろんな思いを抱えたプレイヤーたちの熱気が渦巻く場所だ。
基本的に、ゲーム中のやり取りはクランチャットや個別チャットがメイン。
だが、ある日その中央で――
誰に向けたのかも分からない、いきなりの「こんにちわ!」という挨拶が飛び出した。
それが、にーなさんだった。
ーninaとの出会いー
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ni-na:こんにちわ!
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中央広場に、軽やかな挨拶のチャットが響いた。
全体チャット、いわゆるオープンチャットはその場にいる全プレイヤーの画面に表示されるため、目にしない者はいない。
……にも関わらず、周囲のプレイヤーたちは、誰一人として反応しない。
一瞬、彼女の挨拶に動きが止まった者もいたが、すぐに何事もなかったかのように歩き出す。まるで「関わらない方がいい」と言わんばかりだった。
そんな彼らの行動は冷たいように思えるが、実は彼らの行動は正しい。
というのも、中央広場で挨拶だけするプレイヤー──
特に低レベルは、高確率で“乞食”だ。
※乞食とは、期間限定イベント報酬だけをかすめ取って消える、いわゆる「美味しいとこだけプレイヤー」のことを言う。
ましてや、今はイベントクエストの開催直前。みんなやることに集中していて、構ってる暇なんてないのだ。
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ni-na:チャット見えてますか?こんにちわ!
ni-na:こんにちわー!!!
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無反応の中、再び飛んできたチャット。
俺はクランメンバーが集まるのを広場で待ちながら、モニターに表示されている彼女の発言を横目で見ていた。
「プレイヤーレベル……2か。そら、乞食認定されるわ」
おそらく周りのプレイヤーも俺と同じように彼女のゲームプレイレベルを見て、"乞食"と判断したようだった
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ni-na:みなさん!!!私のこと見えてますか??
ni-na:すみません、どなたか教えてもらえますか??
ni-na:ゲームの運営の方はいますか???
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ぷっっ……!!
思わず吹き出した。
運営がプレイヤーとしてゲームに参加してるわけないだろ。
……もしかして本当に初心者か?
カタカタカタカタ……
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asuma:初心者の方ですか?
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ーこれがni-naとの出会いだった
今になっても、なんであの時俺が声をかけたのかは、正直わからない。
初心者にやさしくするベテランの優越感だったのか。
誰にも相手にされない様子に、同情しただけかもしれない。
……あるいは。
相手が女性プレイヤーっぽかったから、っていう下心も少しはあったのかもな。
どんな理由であれ、結果として彼女は俺のクランに加入し、今では共に冒険する仲間になっている。
「ふぁ〜あ……」
背もたれに身を預けて、伸びをすると同時に大きなあくびが漏れた。
このあくびが出たら活動終了の合図だ。
「よっし、おれも今日はここまでにして寝るかっ!」
カタカタカタカタ…
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asuma:ここら辺で落ちるね〜!また明日!
轟:あすまん寝るの〜?!
カズ⭐︎っち:えええー!まじか!あと1周まわるかって話してたのに!
ちぃ:かずが遅いから〜!怒
toppy:あすまん今日もありがとね〜!
ni-na:あ、私もこの辺でm(._.)m
カズ⭐︎っち:にーなちゃんも!?!!
-影-:2人ともまたね^^
Riz:残ったメンバーでいけるかな?
asuma:ごめん、眠気が限界だwwみんなおやすみ〜
ーasumaがログアウトしました
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「ふぅ・・・」
俺はデスクのすぐ横に置いたベッドに、吸い込まれるように倒れ込んだ。
いつでも即寝できるこの配置、自分を褒めてやりたい。
「天才だわ……」
そう呟いて、目を閉じる。
いつもと変わらい日常が終わった。
◇
PiPiPiPiPiPiPiPiPi…
朝7時。
いつもならこのアラームにうんざりするのに、今日はなぜかスッキリ目が覚めた。
「ん〜……今日はなんか、調子いいぞ」
そう、その日は朝から妙にツイてた。
目覚めもすっきり。
電車は数分の遅れが功を奏して、一本前の快速に乗れた。
食堂のランチは人気メニューのチーズハンバーグ。
山田太郎が作成した資料にミスを見つけて、それを部長に報告。
「あれ、気づかなかったらやばかったやつだよ」と褒められて、ちょっとだけ株が上がった。
(ありがとう山田太郎!)
コーヒーを買いに行けば、新人の店員さんが可愛くてちょっと癒された。
とにかく今日は、調子がいい。
多少の残業くらい、まったく気にならない。
久しぶりに仕事のやりがいを感じた結果
家に帰ったのは、いつもより1時間遅かったけど──
ここからが俺の日常だ。
「あ、そういえば今日から氷龍装備の復刻イベントだっけ。……みんな、待ってるかもな」
PCの電源を入れて、ゲームを起動。
慣れた指先でキーボードを叩く。
カタカタカタカタ…
俺の“いつもの時間”。
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ーasumaがログインしました
asuma:遅くなってごめん!残業だったわ!
カズ⭐︎っち:あ、、、あすまん?
Riz:あすまん・・・
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…いつもなら挨拶で賑わうチャット欄が、今日はやけに静かだった。
「ん? みんなどうしたんだ?」
不穏な空気を感じて、すぐに仲間に声をかけた。
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asuma:みんな何かあった?
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数秒後、チャット欄が動いた。
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R:お前が似奈ことたぶらかしてたやつ?
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見覚えのない名前。
誰かも分からないし、何の話かもまったく見当がつかない。
けど、そんな俺の戸惑いを置き去りにするように、怒涛のチャットが流れた。
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ni-na:やめて!
R:お前が俺と付き合ってるのに好きな人が出来たから別れるって言ったんだろうが。そもそもasumaってやつは似奈に彼氏がいること知ってたんじゃねえの?お前彼氏がいることは言ってるって言ってたよな?
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(……なに言ってるんだ? 俺は、ただゲーム教えてただけだぞ?)
落ち着け。冷静に。
カタカタカタカタ…
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asuma:俺はni-naさんにゲームのことを教えてただけです。それ以上の関係はないですし、彼氏さんがいたことも知りません。
ni-na:私が勝手にasumaさんのことを好きになっただけなの!
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「……に、ni-naさん……?」
何かがおかしい。
空気がどんどん悪くなっていくのを感じた。
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R:ゲームの中で恋愛とか、マジで笑えるんだけど
人の女に手を出すとか、ちー牛すぎるだろ
期待させたお前も悪いし、周りも何も言わねえのがやべえわ
ちぃ-:問題ごとを持ってきたのはそっちでしょ
R:ここ、擬似恋愛でもする場所なんですか?
ちぃ-:はぁ??普通にゲーム楽しんでるだけですけど
-影-:さっきからいい加減にしろよ、お前らだけで話し合えよ
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俺の心拍は、加速していった。
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R:おい、asumaなんか言えよ
人の彼女とゲームして、好きって言われる気分はどう?笑
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(だから、俺は何も知らないって……!あれは悪ふざけだろっ!……)
カタカタカタカタ…
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asuma:さっきも言ったとおりです。
俺は、知らなかった。彼氏がいるってことも、そんな感情があるってことも。
ただ、ゲームを教えてただけです。
R:でも連絡交換してるよな?
Riz:え?そうなの??
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「それは……攻略サイトとか送ってほしいって言われて……!」
カタカタカタカタ…
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asuma:攻略情報を送ってほしいと言われたので、LINKで動画とサイトを1回だけ送りました。
それだけです。それ以上のやり取りはありません。
R:2人で寝落ち通話とかしてたんじゃねえの?
こいついつも夜になると連絡つかなかったし
ni-na:それはゲームしたり、ゲームの攻略見ながら寝落ちしてたからだよ!もうやめて!
R:現実で恋愛できない奴らの疑似恋愛するための場所とかきしょ笑
せいぜい仲間同士でやってろよ。似奈お前とはこれからはっきり話すからな
ーRがログアウトしました
ni-na:みなさん本当にごめんなさい
asumaさんも巻き込んでごめんなさい
ーni-naがログアウトしました
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チャット欄に次々と流れるログ、急に突きつけられる視線、沈黙。
俺だけが、取り残されていた。
いつも通り笑い話になる、そう思ってた
その瞬間俺が予想していた反応とは違うチャットが流れてきた
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ちぃ-:本当に何もなかったの???
本当に何もなかったら何であんなふうにあの人は怒ってたの?
Riz:ちぃちゃん!!
カズ⭐︎っち:あすまん本当に何もなかったのか?
轟:あすまん、にーなちゃんといつも一緒に落ちてたよね?
toppy:正直個別チャットもあるし分からないよ
ちぃ-:LINK交換してるってどうゆうこと?
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(アレ?ミンナ、俺ヲ疑ッテル?ナンデ?悪イコトシタ?)
カタ…カタカタ…カタ…
矛先が俺に向いてるのを感じた
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asuma:俺はさっき言った通りだ
ni-naさんとはみんなが思う変な関係じゃない
-影-:正直100%信じるは難しいわ
実際に連絡先交換してたんでしょ
それにあすまんいつもni-naさんと落ちてたし
俺も2人は出来てるかなって思うことはあった
ちぃ-:ninaに彼氏がいること知らなかった人いるの?
カズ⭐︎っち:俺は知ってたよ
toppy:知ってた
轟:前にここで話してたから知ってた
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(……え? 俺だけ、知らなかったの?)
心臓の鼓動が、頭の中に響く。
ドクン、ドクン、ドクン……
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-影-:俺はだから別れたのかなって思ったんだよ
2人でいつもイベントも行ってるしさ、密接な関係に見えたこともあったから
Riz:みんなちょっと落ち着こう
ちぃ-:今日はもう落ちる
ーちぃ-がログアウトしました
轟:俺も今日は落ちるわ
ー轟がログアウトしました
asuma:みんなごめん
ーasumaがログアウトしました
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──俺が言える精一杯の言葉だった。
:
昨日までの仲間から後ろ指を刺されるような感覚
今日は朝からツイていた日だったはずなのに
なんだこの終わり方は。
「……明日になれば、また元に戻るよな」
そう信じて、俺は眠った。
──が、現実は残酷だった。
あの出来事があった昨日から1人また1人とゲームにインする仲間は減っていき、気づけばクランにいるのは俺1人だけになっていた
『Riz:家族以上の絆だわ』
ーなにが家族だ
『轟:お前ら絶対裏切るなよ〜』
ー裏切ったのはお前だろ
『tappy:俺マジでみんなのこと信用してるわ』
ー最初から信じる気なんてなかったくせに
『かず⭐︎っち:最高の仲間だ!』
ー結局上辺だけの関係だった
『ちぃ-:みんなのこと本当に大切だよ、ありがとう』
ー嘘つき
『-影-:最高のクランだよ、出会えてよかった!』
ー俺は出会いたくなかった
『ni-na:私、こんなにゲームが楽しいって思ったの初めてです!みんなが大好き!』
ー……くそっ!
『みんなお爺ちゃんやお婆ちゃんになってもここに集まろうね!』
「しょうもねえ・・・」
こうして俺の日常は消えた
◇
あれから2年後の現在
:
帰ってきてすぐ、PCの電源をつける
プシュッ
コンビニで買ったビールを開けて、一口。
キーボードに指を乗せながらゲームを起動する。
これが俺の“日常”だ。
ーソロの人がログイン中
フレンド人数:0 オンラインフレンド人数:0
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???:突然すみません、クラン入ってないんですか?よかったらうちに入りませんか?
ソロの人:自分ソロ活なんでどこかに所属するつもりないです
???:こんばんわ。クラン探ししてたりします?クラン入っていない方だったのでお探し中だったらぜひうちに来ませんか?うちはサーバー内でトップに入るクランで〜
ソロの人:探してないです
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ーフレンド申請が届きました
→拒否
ポチ
「はぁ〜・・・俺の名前みろよ」
椅子の背もたれに深く体を沈め、ため息をひとつ。
俺は生粋の腐れゲーマーだ。
ゲームをゲームとして楽しめれば、それでいい。
最近のオンラインゲームは「マルチプレイ前提」な作りが多くて正直面倒だ。
でも“ソロ活”を名乗ってれば誰も寄ってこないし、
こうして一人黙々とプレイする環境が心地いい。
人と関われば、面倒なことが増えるだけ。
詰んだらネットにヒントはいくらでも転がってる時代、
わざわざ人と協力する必要なんてない。
──俺は、ソロプレイヤーの「ソロの人」。