あふれた手紙
最後に送ったあの言葉は、きっと整っていなかった。
でも、それがわたしの精一杯だった。
職場を離れて、しばらく経った。
机の上に置いてきた書類の山より、心の中に残っていたもののほうが、よほど重たかった。
ずっと気になっていた。
後輩に、元恋人に――わたしは、支離滅裂なLINEを送ってしまったかもしれない。
気にしていないふりをしようとするたびに、ふと思い出す。
あの夜、ひとりきりの部屋で、「もう戻らない」と決めた瞬間。
それでも、「伝えなきゃ」と思ってしまった。
もう戻れないのに、言葉が止まらなかった。
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「でも、わたしはそれが精一杯でした」
涙も言葉もあふれていた。
それはきっと、誰かに向けたものじゃなく、
ほんとうは、自分自身への手紙だったのかもしれない。
わたしは、よく頑張った。
伝え方は不器用だったかもしれないけれど、
心を尽くした日々が嘘だったことにはならない。
誰かにわかってもらえなくても、
わたしがわたしをわかっている。
きっと、あれでよかった。
きっと、あれで終わってよかった。
春の終わりの風が、少しだけ優しく吹いた気がした。