表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のつづら。  作者: のん
4/14

器と父。


ご飯を作るのも食べるのも好きだ。

と、いっても雑誌やインス●に載っているような凝った料理は作れない。冷蔵庫にあるものと、自分の好きな物を掛け合わせ、尚且つお財布に優しい物を作る。


結構スキルとしては高い!と、思うけれど、やはり盛り付けとか小洒落た感じが素敵なのもわかっている。なんでこんな風に作れないのかなぁと思って、雑誌をまじまじと見て分析してみた。



「器‥と、盛り方‥?」



どこかの黄色のクマさんのような顔をしながら、そう推測した。

センスのない人間のセリフまんまかもしれない。いいのだ、センスは人それぞれ。自分の琴線がバリバリとシャウトしていればいいのだ。


ともかくお洒落な器を買って、盛ってみよう。


安直な私は考えて百均へ向かった。

向かった先で、「あれ‥?そもそも店のチョイスが間違ってない?」と気が付く。いや、百均もとてもお世話になっているし、お皿も素敵だ。ただ私が雑誌で見たお皿はどう考えても麻の上等なワンピースとか着てそうな品の良い女性が、「お気に入りの窯元で買ってきました」って代物だ。


大地を感じるようなどっしりとした重さと厚さ、それでいて洗練されている形。市販の物にはない釉薬が掛けられたお皿。


ああいうの、どこで売ってるの?

ネットで帰って検索すれば、色々な窯元がそれは素晴らしいお皿を売っていて‥、そしてお値段も素晴らしい。だよね、手間暇かかるもんね。



「‥‥自分で作るか」



何を言っているかわからない?

でも実は実家に電気釜も土も釉薬もあるのだ。お皿を作る道具もろくろもある。普通の家にはないだろって?私もそう思う。でもあるんだ‥。父がどハマりして、全部取り揃えた焼き物セットが‥!!!


一般の家に電気釜も土も釉薬もないし、作り方なんてわからないはずなのだが、父は作れるものは全て学んで作ろうとするガッツのある男であった。窯元へ行ってお皿作りを学び、早々に「もう教える事はないかなぁ〜」なんて言われる父。なんなんだあいつ‥。



閑話休題。



と、いう訳で「お皿作りたーい」と実家へ帰れば、父は目を輝かせたる横で母は私を睨み、


「皿なら売るほどあるから持っていって。あ、これとこれはダメ」

「作らせてよーーー!」

「電気釜一度つけたら三日間付けっ放しな上に、お父さんがずっと張り付いて大変でしょ!」

「お母さんは関係ないじゃん」

「誰がお父さんのフォローをするのよ」


母ですね。

横でお父さんは「電気釜を付ける前にまずは成形して、それから三日間から一週間は乾かさないとだよ」と、冷静に突っ込んでいるけれど、多分そうじゃない。


焼き物って時間も手間も掛かる。

ついでにお金も掛かる。

だからあのお値段なのもわかる。


「大体なんでお皿が欲しいの」

「いい感じに料理を盛り付けたい」

「‥あんた、料理凝ったの作れないじゃない」

「それをカバーする為のお皿です」

「凝った料理をまず作りなさいよ」


至極真っ当な言葉だけど、私の料理の祖はお主ぞ?


「お醤油?バーっと入れて!」とか、「砂糖はぱっぱって感じ」という、魂で感じろ!という料理を教えたのは貴方ですよ?結局私は持っていくなと言われた父の力作のお皿を、


「お父さんのお皿素敵だな〜〜、欲しいな〜〜〜」


と、言えば、上機嫌でホイホイお父さんが持たせてくれた。

ふっふっふ、残念だったな母よ。父は娘に甘かった。



そんな訳で、焼き物は出来なかったが父のお皿のお陰でいつも雑な料理から、少しランプアップしたように見える我が食卓。器は大事だな‥と、しみじみ思った。盛り付けも心なしか上手になったように思う。ご満悦で写真を撮り、母に送りつけたら、



「あんたのせいでお父さんがまた焼き物をやり始めた。ようやく熱が冷めたと思ったのに‥。あとお皿を返しなさい」



と、返信が来たがそこはサクッと流した。

趣味は幾つになっても大事なので、是非とも楽しんで頂きたい。

あとトルコの青い釉薬が綺麗なので、それを使ってお皿を作って欲しいと父にメールをしておいたが、母が今度はそっちを奪い取っていった。大人気ない。



それからしばらくして、そんな父も認知症になり、お皿どころか自分のこともできなくなってしまったが、時々お茶を飲みつつコップの事を褒めると、ちょっと驚いた顔をして「私が作ったんですか?」と、聞いてくる。その言葉に寂しく感じつつ、


「すごく素敵ですよ」


と、話すと嬉しそうに微笑む父。

今日も父のくれた器は、私の雑な料理を思い出と一緒に綺麗に彩ってくれる。器と父は偉大だ。




エッセイ部門で10位に入っておりました〜〜。

わ〜〜、嬉しい〜〜!ありがとうございます〜〜!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ