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私のつづら。  作者: のん
13/20

天ぷらと愛。


天ぷらを揚げるのが下手だ。


天ぷら粉を使っても、べちょっとなるか、ガリガリになるかの二択。

何故0か100なのだ!と、自分でツッコミつつ絶妙で微妙な天ぷらを齧る私。まぁ、美味しいといえば美味しいからいっか‥?


原因はわかっている。


水加減と、油である。

説明書のいうことを聞かずに天ぷらの粉に水を過剰に入れてしまうのと、つい大量の油を鍋に入れるのを躊躇ってしまうのだ。そうして鍋の中にはヒタヒタの油。ええ、貧乏性です!そして太るのが怖いんです!なら天ぷら食べるなって?わかってるけど無性に食べたい‥、そんな時ってありません?私はある!!


じゃあお店の天ぷらにすれば‥と、思うけれどお店の天ぷらは手が伸びない‥。思い出があり過ぎて、食べると切なくなってしまうのだ。


昔、爺ちゃんの家に遊びに行ったら、折角来てくれたんだし‥と、爺ちゃん自ら天ぷらを買ってきてくれて、そんな気持ちも嬉しかった私は「私作るの下手だから天ぷら嬉しい!久々に美味しいの食べたよー!」と、喜べば、爺ちゃんはそれ以来私が遊びに行くよ〜と、連絡をすれば駅前の天ぷら屋さんに買いに行ってくれるようになった。



たとえ足を悪くしても、体を悪くしても何度も。



怪我をさせたら大変だから‥と、遊びに行く前に「遊びに行くけどお昼は大丈夫!食べてから行くし、お茶菓子買って行くからゆっくり待っててね」と、言ってもヨロヨロした足取りで買いに行って、ニコニコ顔で待っててくれる。


「のんは若いから一杯食べるだろ」


って、言って大盛りの天丼(海老付き)をホカホカのうちに食べられるように時間を計算して買って待ってるんですよ!!!


何か言いたいのに、何も言えない。

気持ちだけは胸の中を駆け巡って、鼻の奥が痛くなって、嬉しいのにうっかり泣きそうになってしまう。もうさぁああ!!!爺ちゃん大好き!!


でも無理しないでいいんだよ。

お爺ちゃんなんだから、椅子にふんぞり返っていたって全然良い!なんなら孫の私が買いに走るから!と、訴えるも、私が「美味しいねぇ」と話しながら食べる姿を見て、嬉しそうに顔を綻ばせる爺ちゃんを見ると、「もう買わないでいいよ」なんて絶対に言えない。



無償の愛‥って、なんであんなに切なくなるんだろう。

嬉しいのにそこまでしなくていいよって思ってしまうのに、喉の奥がギュッと詰まって何も言えなくなってしまう。



言葉で「愛している」なんて一言も言っていないのに、確かに感じられる。そうして暑くても寒くても、体が痛くても、誰かの嬉しそうな顔を見たいというあの気持ちはどこから来るのだろう。見えないし、触れないのに、確かにそこにあるあの大きな愛。


まさか天ぷらから愛を見つけると思わなかったけど‥。


だけどあの優しくて、ただただ誰かを想う気持ちが心に注ぎ込まれ、受け止めきれないくらいの感情が急に心の中でいっぱいになると、それだけで私は幸せで無敵だと思えるのだから天ぷら様様である。そして爺ちゃんにも感謝である。



しばらくして爺ちゃんは天国へ帰ってしまい、今はもうあの温かい天丼を食べられなくなってしまった。だから天ぷらを食べる度に、最近はものすごく切なくなる。と、天ぷらを揚げてくれた母にすれば、



「えー!私も天ぷら食べたかった!爺ちゃん、そんなこと孫にしてたんだねぇ!」

「‥お母さんが帰った時にも爺ちゃんは買ってきてたよ」

「え?そうだったっけ?覚えてない」

「爺ちゃんの愛をあっさり忘れるなーーーー!!!」



娘にも惜しまずに愛を送ってくれていたというのに‥。

爺ちゃん、すっかり忘れていた娘に「ちゃんと食べてたよ」と、伝えておいたからね。そんな忘れん坊の母だが天ぷらが上手だ。


「あんたは天ぷら本当に下手よね〜」

「‥水とか、油とかの問題です」

「どうせまたケチったんでしょう」


‥こういう時だけ母は鋭い。

しかし、こんな話をしながら天ぷらを食べていた記憶も思い出になって、あんな話をしながら食べていたなってきっとまた思い出すのだろう。食と思い出って結びつきが本当に強いな‥。


それとももしかしたら食いしん坊の私だけ?

そんなことを思いつつ、サツマイモの天ぷらの端っこを食べていると、母が思い出したように、



「あ〜、私は堅焼き煎餅だわ」

「堅焼き煎餅?」

「お爺ちゃん、私が煎餅が好きって言ったら、私が帰る度に買ってきてくれたの」

「ああ、そういえばそうだったね。お母さんに渡せって私も何度も受け取ったわ」

「愛されていたんだねぇ」

「昔からそうじゃん!めっちゃ愛してくれてたよ」

「そうだねぇ‥」



と、話していたらなんだかしんみりした空気になった。

そうしてちょっと涙ぐむお母さんの隣の椅子に、爺ちゃんが座っていて照れくさそうに笑う姿が見えたような気がした。



やっぱり天ぷらはちょっと切なくて、でも温かい味がするな‥と、かき揚げをかじった。





爺ちゃんも大好きだけど、婆ちゃんも大好きです。

思い出しては大好きだと感じられる存在がいてくれるっていいものですね。

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