007 希望の軌跡
暗闇の底からロウィンの意識が浮上していった。
死の淵を彷徨っていたはずの彼が目にしたのは、まだ熱を帯びた緊張感が漂う戦場の風景だった。
隣にいるのは、限界を超えた身体で懸命に戦い続けるエリスとマリス。
その肩は細く震え、汗が額から滴り落ちている。
それでも、あの二人の瞳には、確かな覚悟が宿っていた。
揺るぎない光だ。
「タイムリーパー……」
完全に覚醒したロウィンの体は、その変化を実感していた。金色に輝く瞳。全身を駆け巡る力。メニュー画面が現れると、そこには新たに習得したスキルが並んでいた。
<メニュー画面>
タイムリバース
時間を巻き戻し、数秒から数分前の出来事を修正する。
インスタント・ストップ
周囲の時間を完全に止め、数秒間物体や敵の動きを無効化する。
フォアサイト
一定範囲内で未来の動きや攻撃のタイミングを視覚的に予測する。
タイム・ブースト
自分や周囲の時間を加速させ、攻撃や移動速度を増加させる。
ディスティニーエンブレム
未来視を強化し、未来を「刻印」として捉え、操作できる。
コンティニュー
パーティーが全滅する前に時間を巻き戻し、死亡する直前の状態に戻す。
「エリス、マリス!」
ロウィンは声を上げる。二人はその声に反応し、すぐにこちらを向いた。全滅したはずのパーティーが復活したことに驚きつつ、すぐに状況を理解し、確信に変わった。
「大丈夫?」
「ああ、今なら戦える」
ロウィンは息を整え、気持ちを集中させた。狩人たちの軍勢に包囲されているが、彼は冷静に動き出す。
「魔力の流れを制御してくれ! 俺に突破口をくれ!」
マリスが掲げた杖の先端から淡い魔力が広がり、空間の“歪み”を整えていく。
そのとき、ロウィンの身体が跳ね上がった。
空間が軽くなり、魔力の流れが俺に集中する。
マリスがくれた絶好のチャンスだ。
「――インスタント・ストップ!」
すべてが静止した。
音も、風も、敵の息遣いも。
(この数秒がすべてだ――!)
静止した空間を駆け抜け、ロウィンは敵陣の死角へと回り込む。
狩人の一体に矢印を刻むように手を伸ばし、エリスが狙うべき標的に目印を残す。
それだけでいい。あとは、時間が動き出したときに仕留めればいい。
「――動け、世界!」
彼が叫ぶと同時に、風が吹き返し、音が戻り、敵も味方も一斉に動き始めた。
「今だ、エリス! 撃て!」
彼女の矢が光を裂き、ロウィンが印をつけた狩人の胸を正確に貫いた。
同時に、マリスの魔力が火球となって炸裂し、周囲の敵を焼き払う。
呻き声。爆風。焼け焦げた鉄と血の匂い。
何体もの狩人が崩れ落ちた。
だが、まだ全ての敵が倒れたわけではない。ロウィンは冷静に次の手を考え、スキルを駆使する。
「タイムリバース!」
数秒前に戻り、ロウィンは受けた攻撃を完全に回避する。時間が巻き戻ると、狩人たちの動きが無力化され、隙が生まれる。ロウィンはその隙をつき、一体一体確実に倒していく。
「ディスティニーエンブレム!」
未来の出来事が視覚的に浮かび上がり、アナザー・エデンの攻撃が迫るのを捉える。ロウィンはその攻撃を避け、反撃の準備を整えた。
「これが、俺の未来だ!」
金色の光がロウィンを包み、全身の力が一点に収束する。
彼の拳がアナザー・エデンへと迫った――その瞬間。
「……滑稽だな。未来を選べるとでも思っているのか」
彼女が静かに嗤った。
「未来は“固定”されるべきもの……その自由こそが、最大の罪だ」
「なら、俺がその固定をぶち壊す!」
渾身の一撃を叩き込む。
時間が軋み、空間がひび割れる。
アナザー・エデンの瞳がわずかに見開かれ、その身体がゆっくりと崩れ落ちていく。
――この一撃が、未来を選び取る、その第一歩だった――!
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