050 戦わぬ者の勝利
シルヴァーナが居城にたどり着くと、その前に立ちはだかったのは、かつての婚約者候補、アルヴァス王子だった。
彼の顔には異常なほどの怒りが浮かび、シルヴァーナを鋭く見据えている。その背後には、彼の命令で集められた軍勢が無数に広がり、張りつめた空気が辺りを支配していた。
アルヴァスは深く息を吸い込んだ。
「試練を受けて、あんな恥をかかされるなんて……! 俺は全てを失ったんだ!」
シルヴァーナは動揺を見せず、冷静に言い放った。
「失敗の理由を私に押し付けるのは間違いです。試練は力を試すためのもの。もともと王にふさわしくないのでしょう」
アルヴァスの顔が歪み、怒りを露わにした。
「ふざけるな! 俺を侮辱した罰を受けろ!」
その瞬間、シルヴァーナの背後で気配を感じた。ロウィン、唯奈、そしてフェリシアが駆けつける。
ロウィンはアルヴァスの動きをじっと見つめていた。
その隣で、フェリシアはシルヴァーナに問いかける。
「戦わなければいいのですね?」
シルヴァーナは無言で頷いた。
「私に任せてください」
フェリシアは目を閉じ、呪文を唱えた。
「エスパニオール・ドゥーム……」
まるで呪いのように響き渡り、アルヴァスの心に直接届いた。顔色は一瞬で青ざめ、軍勢の動きも止まった。自然と武器を握る手が緩み、戦意も消えていく。
「どうしてこんなことに……!」
アルヴァスの叫びだけが、静まり返った戦場に響いた。
フェリシアは大きく息を吐き、言った。
「今のあなたに戦う意思はありません」
アルヴァスは肩を落とし、やっとのことで呟いた。
「引き揚げろ……」
軍勢は無言で去っていった。
シルヴァーナはフェリシアに向き直った。
「あなたの力がなければ、事態はさらに深刻になったかもしれません」
フェリシアは微笑んだ。
「戦わずして勝つことができるのなら、それが最善ですから」
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