004 タイムリーパーの覚醒
<エリス&マリス>
ロウィンが「はじまりの町」を出て少し進むと、前方に二人の女性が見えた。彼女たちは何かに追われているらしく、息も荒く走っている。その背後からは異形の魔物が迫り、地面を揺らす足音が響いていた。
エリスは疲れ切った顔で必死に足を動かし、その肩にはマリスがしがみついていた。マリスはふらつきながらも声を震わせて叫んだ。
「もう無理よ!」
「まだ……まだ!」
エリスは涙をこらえ、必死に答える。
ロウィンは二人が追い詰められる様子を目にした。魔物は巨大で、背中に無数の触手を引きずりながら迫ってくる。恐怖に満ちたその姿に、エリスとマリスは限界に近づいていた。
「逃げて! 早く!」
ロウィンは叫びながら駆け寄るが……。
「来ないで!」
エリスが体を張ってロウィンを制止する。
「あなたも巻き込まれるだけよ!」
しかしロウィンは声を無視し、二人の前に立った。魔物の足音が大きくなる中、ロウィンは深く息を吸った。すると、エリスが急に動きを止め、手を伸ばした。
「お願い、離れて!」
その声には恐怖と切迫感が込められていた。
そして、彼女の前の時間が静止している気配があった。その異様な感覚にロウィンは立ち止まった。
「何だ……これは?」
心が揺らぎ、体の中で何かが反応した。視界に光の軌跡が走り抜けた。
その瞬間、ロウィンの中の眠れる力が一気に解き放たれた。無意識に両手を前に突き出し、心の中で叫んだ。
「今だ、時間を!」
その言葉とともに、時間が逆行する感覚が体を貫いた。目の前で魔物が逆向きに動き出し、触手が不自然に後ろへ戻り、巨体が少しずつ下がる。
周囲の景色も揺らぎ、時間の流れが不安定になる。
「この力は……!」
ロウィンはその隙にエリスとマリスを安全な場所へ導いた。
エリスは震える声でロウィンを見上げた。
「あなた……何をしたの?」
「わからない」
ロウィンは息を整え、真剣に答えた。マリスも驚いた顔で彼を見つめる。
「時間を戻したの?」
「多分……」
ロウィンは自分でも信じられない様子で言った。
「でも確かに何かが起こった」
その時、エリスが近づき、ロウィンの肩に手を置いた。
「もしかして……あなたも『タイムリーパー』?」
ロウィンはその言葉に驚いた。
「なんだそれは?」
「時間を操る者のことよ」
エリスは静かに言った。
「あなたもその力を持っているなら、力を合わせる時なのかもしれない」
ロウィンはその言葉に心が揺れ、自分の力が偶然ではないことに気づいた。何かが確かに動き始めている。
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