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031 世界を救うはずの勇者が、禁呪に手を出す理由

 ロウィンとアイリスの試合が始まる直前。

 ソウルヴァース学園の地下深く、一般には立ち入りが許されない秘密の場所に、マスターの一人、アダム・グラハムとアイリスはいた。彼の顔には狂気がにじみ出ている。


「役立たずのロウィンがバトルリーグを制覇せいはするだと? そんなことは許されない。村人ごときが、未来の勇者を倒すなんてありえない」


 アダムは、無数の魔法の文字が浮かび上がる石壁と、その手前にある古い台座を見つめた。その上で、学園が厳重に守る「魂の源」が静かに光を放っている。


「ロウィン……貴様に未来など、与えるものか」


 彼はそうつぶやき、台座に手を伸ばす。すると、地下空間がわずかに揺れた。彼は自らの手で世界の流れを変えようとしていた。


「アイリス、これはお前に与えられた試練だ」


 冷たい声が響く。

 彼はこれまでも、彼女を勇者の道へと導くために、数々の試練を与えてきた。


「お前が求めるものは一つ――『勇者』という称号だろう?」


 彼は冷ややかにアイリスを見下ろす。


「だが、どれだけ努力しても、普通のやり方ではなれない。お前も分かっているはずだ」


 アイリスは無言でうなずいた。


 彼女の遠い目の奥には、反発の色があった。しかし、深い絶望がそれをかき消している。平凡だった頃の自分が、まるで息の詰まる幻影のように彼女を苦しめていた。


「勇者になれない者に価値はない。お前はただの、つまらないゴミクズだ」


 その言葉が胸を突いた。


「残された道は一つだ。学園に入った理由を思い出せ。力を手に入れるためだろう」


 アイリスの胸が締め付けられた。誰よりも強くなって、期待に応えたかった。それだけで十分だと思っていたが、今の自分にはそれでは足りないのかもしれない。これまでの方法では届かない、圧倒的な強さが彼女には必要だった。


 そのとき、アダムが不気味に笑った。


「勇者になりたいのだろう?ならば手段など選ぶな。全てはお前次第だ」


 彼は続けた。


「ただし警告しておこう。『魂の源』の力は危険だ。お前もそのことは知っているはずだが?」


 アイリスの瞳がわずかに見開かれる。選ばれし者のみが扱える、禁断の力。それでも、この道しか残されていなかった。


 アダムは、アイリスの動揺を見抜いていた。


「俺に逆らうつもりか? いや、そうではないだろう」


 彼の言葉に、アイリスは反論する術を失った。深く息を吸い込み、震える手を落ち着かせる。そして、静かに答えた。


「――わかりました」


 その一言が、彼女の決意の全てだった。どんな代償を払っても、勇者になる。

 刻一刻と、試合の開始が迫っていた。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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