246 ルミナ外伝『俺だけ、スマホがつながらない世界で。』 007《ピーちゃんとミサキ、最強のバディ》
昔からの幼馴染、ミサキ。彼女はピンクのタブレットを手に、驚くべき力を持っていた――
<ミサキ>
塔との接続は安定せず、スマホの画面に「再調整中」のメッセージが流れていた。
スキルの衝突による負荷か、基底領域での覚醒に伴う余波か。いずれにせよ、しばらくは動けない。
放課後。校舎裏のフェンスに背を預け、ハルトはひとり立っていた。
夕陽が、使われなくなった倉庫棟のガラス窓を赤く染める。
「……久しぶりに、静かだな。」
人工音が響かない時間に、不思議な懐かしさを覚える。
そんなときだった。
「そういう時って、昔のことを思い出すよね。……たとえば、屋上に隠れてサボってたあんたの顔とか。」
背後から聞こえた声に、ハルトは思わず振り向いた。そこには、幼馴染のミサキが立っていた。
「ミサキ?」
ハルトは驚きと少しの戸惑いを交えた表情を浮かべながら、言った。
ミサキは、黒髪を風になびかせ、無造作に着こなした制服がなんとも似合っていた。
彼女のいつもの元気な雰囲気とは裏腹に、今日は少し大人びた印象を受ける。だが、その瞳には変わらぬ懐かしさが宿っていた。
「なんだよ、いきなり。びっくりしたな。」
ハルトは少し照れくさそうに言った。
ミサキは肩をすくめて、少しふてくされたように答える。
「別に、びっくりするほどでもないでしょ? あんたが一人で校舎裏にいるから、気になって来てみただけよ。」
言いながら、彼女はハルトの隣に並んで立った。
その手には、ピンクの小さなタブレットが握られている。
「それ、何?」
ハルトが尋ねると、ミサキはちょっと得意げに言った。
「これ、私のスキルで使える道具。魔物を使役できるんだ。」
「魔物?」
ハルトは眉をひそめた。
「ええ、まあね。画像フォルダにおさめた魔物を呼び出して、60秒間だけ使役できるっていう特殊なスキルよ。」
ミサキは画面を操作し、数枚の画像を選び始めた。
「え、待って、どうやって使うんだ?」
ハルトが驚いて尋ねると、ミサキはにやっと笑って言った。
「ほら、あんたもさっきみたいにボーッとしてるから、私が見せてあげるわ。」
タブレットの画面に魔物の画像が現れる。
「これ、たとえばこの魔物。『火竜』って呼ばれるやつだけど、これを呼ぶと、60秒だけ使えるの。」
ミサキが画面に触れると、突然、空間がゆがみ、巨大な火竜が目の前に現れた。
炎の翼がゆらめき、周囲の空気が熱を帯びる。
「す、すごい……!」
ハルトは驚き、後ろに一歩下がったが、ミサキは余裕そうに見守っている。
「ほら、見てなさいよ、もうすぐ時間切れだから。」
言ってから、ミサキは魔物に向かって命令を出す。
「ピーちゃん、ちょっとだけ周囲を守って。」
火竜は、ミサキの指示通りに周りを飛び回り、炎のブレスを空に向けて放つ。
「これ、60秒以内に終わらないと、魔物は消えちゃうから。クールタイムも必要だし。」
ミサキが笑いながら、タブレットの画面を操作していると、火竜は次第に消えていった。
「ちょっとクールタイムがあって、次に使えるまで30分かかるんだけど、それでもこんな魔物が短時間でも使えるのは便利よ。」
ミサキはそう言って、タブレットを閉じた。
「え、すごっ……。俺にも貸してくれよ。」
ハルトは感心しながら言った。
「冗談じゃないわよ、あんたにはまだ使えないわ。」
ミサキは手を振り、楽しげに笑った。
「でも、まあ、私のスキルなら、たぶん役に立つと思う。いざって時に、あんたの力になれるから。」
その言葉には、少し照れくさい気持ちが混じっていた。
「……ありがとう、ミサキ。」
ハルトは少し照れながら答える。
その時、また魔物の召喚クールタイムが終わり、ミサキは新たに別の魔物を召喚しようとタブレットを開いた。
「次は『影狼』。あんたも何か召喚してみたら?」
ミサキは半分冗談っぽく言ったが、ハルトはその言葉に少し考えこんだ。
「まだその時じゃない。だけど、いずれ、お前のスキルが俺にも役立つ時が来るかもしれない。」
ハルトの言葉に、ミサキは小さく笑った。
「まあ、無理しないで。私がいるんだから、安心しなさい。」
そう言って、ミサキはまたタブレットの画面に目を落とした。
彼女のスキルは、確かに強力だ。そして、ハルトにとって、彼女は頼もしい仲間となるだろう。
この先、どんな冒険が待っているのか、二人ともその未来に少しだけ胸を膨らませていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。