014 告白の瞬間
勇者たちとの戦いを終え、ダークエルフ部隊の指揮官シルヴァーナは冥界へと戻っていた。
ロウィンとの出会いから数ヶ月が過ぎ、その記憶は色褪せるどころか、胸の内で日増しに強くなっていった。
彼との戦闘は、単なる任務ではなかった。ロウィンの判断力、周囲への洞察、隙を見せぬ立ち回り──その姿は、シルヴァーナの心に強烈な印象を刻み込んだ。
剣を交えたあのとき、何度も彼の目を見た。その眼差しの奥に潜むものに、意識が引き寄せられていくのを自覚していた。
戦いの終わり際、彼が何気なく放った言葉は、深く胸に残っている。
「俺の知っている女性に、どこか似てるんだ」
その言葉を聞いたとき、シルヴァーナは息を詰めた。
誰かの面影を重ねていたのか、それともただの感想だったのか。意味を測りかねたまま、彼の次のひと言が心を揺らした。
「シルヴァーナ、だよな?」
名前を口にされたというだけで、心の奥が熱くなった。戦場の喧騒の中で交わされた短い会話だったが、その記憶は鮮明に残り続けていた。
やがて、シルヴァーナは決意した。ロウィンにもう一度会いたい。その気持ちが、命令や立場を超えて心の中心にあった。
彼がどれほど変わっていたとしても、自分の目で確かめたい──そう願った。
「また会えるなら、それだけでいい」
ロウィンが、かつてとは違う人格でゲームの世界に入り込んでいることは知っていた。
けれど、それでも構わなかった。たとえ遠く離れていても、彼を理解したいと思った。再会を信じ、歩き出す決意を胸に刻んだ。
*
数日後。シルヴァーナは人間界の街に降り立った。
そこには予想とは違う、穏やかな日常が広がっていた。ロウィンが見せた戦闘時の鋭さとはまるで対照的な、静かな世界だった。
戸惑いを覚えながらも、シルヴァーナは彼を探して歩き出す。
そして──見つけた。
彼は街中で誰かと話していた。歩く姿も、声のトーンも、以前の戦場で見せた顔とは少し違っていた。
「ロウィン……」
思わず呼びかけていた。彼が振り向き、こちらを見る。
その目にわずかに驚きが走り、すぐに落ち着いた表情へと戻る。
「シルヴァーナか。どうしてここに?」
短い問いかけ。それだけで、胸が熱くなった。彼の声が、確かに自分を見ていると伝えてくる。
「話があるの。あのときのこと、そして……私の気持ちについて」
そう伝えると、ロウィンは少しだけ間を空けてから応じた。
「わかった。少しだけ待ってくれ」
彼が話していたのは、人間界の勇者たちだった。仲間として情報を共有している様子がうかがえる。
それを確認し、彼とともに人気の少ない場所へと歩く。
道を進むあいだ、シルヴァーナの鼓動は早まっていた。もう後戻りはできなかった。
立ち止まり、ひと呼吸おいて彼の方を向く。
「……会いたかったの」
短く、でもすべてを込めて伝えた。ロウィンは言葉を返さず、それを受け止めるように視線を向けてきた。
少し沈黙が流れ、彼が口を開く。
「俺は……お前を傷つけたくない」
シルヴァーナは驚いた。思わず呼吸が浅くなる。彼の中にある何かを、直感的に感じ取った。
「私が望んでいるのは、あなたと向き合うことだけ」
彼の痛みを、自分も抱えていきたいと思った。
「だから……一緒にいてほしい」
それは、長く心に秘めていた想いだった。飾らず、誤魔化さず、すべての言葉をそのまま差し出すように、シルヴァーナは伝えた。
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