013 永遠の誓い、別れの先に
サラは戦神ヴァルグリムに導かれ、選ばれし勇者として覚醒した。
神威がその身を包み、血潮のように力が脈打つ。
「立ち塞がるなら誰であろうと斬り伏せる――これが勇者の誓いニャ!」
サラは「エターナル・ハーモニー・リヴァイブ」で、魔王と化したかなえの心を救い出した。
その瞳には決意の光が宿る。
「神光の天罰――《光刃雷竜》!」
天地を裂く轟音とともに、八つの首をもつ雷竜が顕現した。
その咆哮は大気を震わせ、魔王軍と冥王軍を暴風の光で呑み込み、跡形もなく消し去った。
参謀アスヴァルは倒れた。だが、その肉体は崩れ落ちることなく、黒き炎に包まれてゆく。
大地から瘴気が溢れ、虚空に轟音が響いた。
その媒介を通じ――魔王アスタロスが現世に姿を取り戻した。
「ヴァルグリムよ……私に力を! あの魔を、討ち払うニャ!」
アスタロスは魔界の扉を開き、ケルベリス・ノクスを召喚。
対するサラは戦神の力を使い、天使セラフィナを呼び出した。
サラは「ヘブンズ・レクイエム」でアスタロスを打ち倒し、「光の牢獄 (プリズン・オブ・ライト)」でその魂を封じようとする。
「光よ、永遠の牢獄となれ――!」
だが、冥王ハルバス・ドラウグスが割って入り、アスタロスの魂を奪い去った。
「愚かなる勇者よ。アスタロスはただの器にすぎぬ。我が覇道の礎と化すのじゃ」
そして、闇の渦となりながら、その姿は消えた。
サラは悔しげに呟く。
「……アスタロスを討ち果たしたはずなのに……冥王まで現れるニャンんて……!」
セラフィナが静かに頷く。
「けれど、あなたの光はまだ揺らいでいません。勇者サラ――次に立ち塞がる闇も、必ず討てます」
サラの瞳が力強く輝いた。
「うん……もう迷わないニャ。たとえ冥王だろうと、私が必ず――光で打ち砕く!」
*
ロウィンは揺らぐ景色の中、静かにエリスとマリスの姿を見つめていた。
二人とも何も言わず、ただ立っている。その沈黙が妙に重い。
「お前たち、何か隠してるな」
ロウィンの問いかけに、エリスは目を伏せた。深く息を吐き、ゆっくりと顔を上げる。
「もう……あなたと一緒には戦えない」
その声は落ち着いていたが、目に浮かぶ感情までは隠せなかった。
ロウィンは動けなかった。言葉の意味がすぐには呑み込めず、胸の奥で何かが崩れた。
マリスも何も言わず、ただ見つめている。
「なぜだ……?」
声が震える。どうしてそんなことを言われるのか、理由が知りたかった。
「私たちには、言えないことがある」
エリスの言葉が刺さる。ロウィンは目を細めて彼女を見た。
その瞳の奥に、かつての仲間の面影はもうなかった。
「言えないこと?」
ロウィンが問い返すと、エリスはゆっくりと深呼吸し、視線を戻す。
「それが今の私たちにとって、一番大事なことなの」
静かだが強い意志を感じさせる声だった。
ロウィンは足を止め、心の中で何かがこぼれそうになるのを押しとどめる。
言葉にすれば、きっと壊れてしまう――
「……ずっと一緒に戦ってきたんだぞ」
弱々しく呟き、声が途切れそうになる。
「数えきれない敵を倒して、死ぬほどきつい戦いも、全部乗り越えてきたじゃないか。俺は……お前たちを信じてる。仲間だって、俺は信頼しているから」
沈黙を破ったのは、マリスだった。
「私たちも、同じ気持ちよ。今でも、変わらずそう思ってる」
その眼差しは、断固たるものだった。
「でも、私たちが戦う理由は、それだけじゃないの」
エリスが歩み寄り、ロウィンの目をまっすぐに見つめる。
「あなたが好きなの」
はっきりと、揺るぎない声だった。
「それが理由」
ロウィンは言葉を失った。心の中に波紋が広がる。
エリスの視線は逸れず、真正面から彼を射抜いていた。
「エリス……マリス……」
ようやく口に出した名に、思いが詰まっていた。
何をどう返せばいいのか分からないまま、立ち尽くす。
二人はそっと視線を交わし、小さく頷く。その表情には寂しさがにじむ。
「でもまた、あなたの力が必要になるときが来る。そのときは――」
エリスが強い声で言った。
「私たちのもとに、戻ってきてほしい」
マリスも、かすかな笑みを浮かべて続ける。
ロウィンは目を閉じ、短く息を吐き、ゆっくりと顔を上げた。
二人を見据え、言葉を放つ。
「わかった。どんなときでも、助けが必要なら必ず力を貸す」
「ありがとう、ロウィン」
エリスの声には、優しさとわずかな別れの色が混じっていた。
「またね。必ず会いに行くから」
マリスは涙をこらえながら言う。
ロウィンは、ゆっくりと離れていく二人の背を見つめていた。
湧き上がる想いを胸に抱え、彼もまた歩き出す。
「じゃあな……エリス、マリス」
その声には、過去への感謝と、これから進む未来への力がこもっていた。
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