012 眠れる勇者を目覚めさせる魔法
魔王軍と冥王軍が激しく衝突する戦場の中、神の勇者サラは回復のために深い眠りについていた。
そのあいだにも、時間は進んでいく。
「新魔王 天星かなえ」と「神託の使者 レイナ」の戦いは、周囲の空間すらねじれるような異常な光景を生み出していた。目に映るものすべてが現実とは思えないほど、感覚が狂わされる。
ロウィン、エリス、マリスも最前線で応戦していたが、表面上の優勢とは裏腹に、彼らはじわじわと追い詰められていた。
彼の頭には、ダークエルフの指揮官――あの妙に陽気で、お尻をつねりながら呪文を唱える女のことが引っかかっていた。彼女がシルヴァーナだと確信はないが、妙に気になる存在だった。
「何度タイムリープを繰り返しても、最終的に魔王アスタロスは復活する。打開するには……サラを起こすしかない」
エリスが不安そうに声を上げる。
「でも、サラが目覚めるタイミングは決まってるはずよ? どうやって?」
ロウィンは小さく笑って答えた。
「目覚めれば状況が大きく変わる。その可能性があるなら、試すしかない」
マリスが顔をしかめる。
「とはいえ、普通に声をかけたって……間に合わないかも」
「だからこそ、あれを使うんだ」
「“あれ”?」
エリスが首をかしげると、ロウィンは迷いのない声で言った。
「“ご飯の時間”だ」
マリスは目を見開く。
「えっ、それ本気?」
ロウィンはうなずく。
「サラは食べ物に目がない。寝ていても、“ご飯”の一言で飛び起きる。確実に」
エリスが笑いをこらえながらつぶやいた。
「それなら……試してみる価値はあるかもね」
「このループも限界だ。サラが動けば、流れが変わる」
マリスはあきれ気味に言った。
「じゃあ……ロウィン、叫んでみなさいよ」
ロウィンは深呼吸してから、サラに向かって大声を放った。
「サラ、起きろ――ご飯の時間だ!」
沈黙が流れた。しばらくして、サラの耳がぴくりと動く。
目を開けた彼女の表情が、ぱっと明るくなった。
「ご飯!? どこニャ!?」
猫のように跳ね起きたサラは、あたりをきょろきょろ見回す。その動きの素早さに、エリスは思わず吹き出した。
「本当に……ご飯で起きた」
ロウィンは満足そうにうなずいた。
「よし。サラ、食べ終わったらすぐ出撃準備だ」
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