011 敵のフリをして、あなたを追いかけてる
シルヴァーナは、ロウィンの行方が心配だった。彼の手がかりを求め、記憶を保ったまま、勇者養成RPGゲーム《吾輩は異世界から来たニャン娘なり!》をプレイし続けていた。
そしてゲーム内イベントをきっかけに、彼女は現実世界を飛び越え、過去の時代に飛ばされてしまった。そこで彼女は、冥王軍のダークエルフ部隊を率いる指揮官となっていた。
(ふふ、まさかこんな形で再会するなんてね。私はただ、あなたを追ってきただけなのに。敵になって顔を合わせることになるなんて、想像もしなかったよ。でも……別にいいの。こうしてロウィンの姿を見られるなら、それだけで十分)
シルヴァーナは内心の言葉をじっくりと噛みしめながら、さらに続けた。
(好きだなんて言えるわけないけど、ずっと言いたかった。ずっとずっと、ね)
表向きは淡々と戦況に集中しているふりをしていたが、胸の奥ではまったく違う感情が渦巻いていた。ロウィンが放つ不思議な力、それを感じるだけで嬉しくて、体が軽くなる気がした。
冷ややかな顔の裏で、気を抜けば口元が緩みそうになるのを懸命に抑えている。浮かれた気分を振り払うため、そっと自分の尻をつねった。
「このままでは……」
棒読みのセリフで、深刻な情勢を装う。だが実際には、心は別のところにあった。ロウィンの動きが視界に入るたび、胸が熱を帯びていく。
「ああ、ほんと……かっこよすぎるんだから」
ぽつりとこぼれた言葉に、自分で驚いて口を押さえる。彼の力は、目に見えない形で周囲を惹きつけている。
(でも、あの子たち……)
ロウィンのそばには、エリスとマリスがいる。そのことが、少しだけ胸に引っかかった。二人とも彼を守り抜く覚悟を持っているのだろう。でも、それでも。
(ううん、絶対に負けない)
戦況は混乱していた。ダークドラゴンのアルザスが咆哮を上げて火を吐き、ブラックデーモンのヴェルガスは巨躯を武器に前線を押し上げていた。
(こんな火力じゃ、ロウィンには届かない。やるだけ無駄なのに)
シルヴァーナは戦いに全力を注ぐふりをし、内心ではほとんど真剣に取り合っていなかった。状況報告など形だけで十分、結果はどうとでも言い繕える。自分の興味は、別の場所にある。
「撤退!」
威厳を込めた声で指示を出すと、ダークエルフたちは慌ただしく引いていく。その裏で、シルヴァーナは小さく笑った。指揮官としての責務など、今の彼女にはどうでもよかった。
(これでまた近づける。敵とか味方とか、そんなの関係ない。私は……あの人の姿が好きなだけ)
彼女は、そっと笑みを浮かべる。その感情は誰にも悟らせていない。
けれど、その胸の奥には確かに――甘くて、熱を帯びたものが、静かに灯っていた。
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