010 シルヴァーナ、再び
ロウィンの視界が揺れた。空間がひずみ、足元から広がった光の波が身体を包む。エリスとマリスも同様に、その光へと引きこまれていった。
「な、何が起きているの!?」
エリスの声が耳に届くが、音は急速に遠のき、光に呑まれていく。ロウィンは平静を保とうとしながらも、鼓動が速まり、時間の流れそのものが崩れる不穏な感覚にとらわれた。
「これは……!」
ただの転移ではない。何か巨大な力が、自分たちをどこかへ連れていこうとしている。しかもその力が、サラという名に応えていた。
光の中に、断続的な映像が浮かび上がる。サラがルミナス・フェザーを掲げる姿、アスヴァルと冥王軍艦隊の交戦、さらにはダークエルフ、ダークドラゴン、ブラックデーモンの軍勢。情景はめまぐるしく切り替わり、時の壁を超えていると錯覚するほどだった。
やがて光が消え、静けさが広がった。
目を開けると、そこには現実と思える風景があった。だが、ロウィンの知る世界ではなかった。大地は焼かれ、空には黒煙が漂い、魔王軍と冥王軍が人間界を蹂躙している最中だった。
その中心にいたのは、かつて勇者パーティーの一員だった天星かなえ。今や魔王として目覚め、アスヴァルやアリスティアを率い、圧倒的な軍勢を指揮している。冥王軍艦隊までもが、その勢力に加わっていた。
勇者側には、サラとレイナのふたりしかいない。それでもサラは怯まず、放たれた魔法が空間をねじ曲げていく。その魔法、「カオス・ゴッド・チャーム」は、もはや常識を超えた領域の力だった。空気が震え、空間に異様な重みが生まれる。
「みんな、来てくれてありがとニャ!」
サラの声とともに、光の柱がいくつも出現し、異世界から帰還した勇者たちが現れる。ロウィン、エリス、マリス。クラスメイトやスライム、聖剣の使い手たち――多種多様な力を持つ者たちが集結していた。
ロウィンの目がある人物をとらえた。
「あれは……!」
ラグナヴィアから戻ってきたダリウスだ。彼はエルフ、ユニコーン、フェンリルといった異種族を率い、人間界へと再び姿を現した。その背後には、彼に従う戦士たちが連なり、戦局に新たな希望をもたらす。
「みんな、頼んだニャ!」
サラは微笑み、仲間たちに言葉を投げかける。彼女のまわりには、決意に満ちた顔がそろい始めていた。
そのとき、ロウィンの視線が止まった。ダークエルフ部隊の先頭に立つ女性。その姿を見た瞬間、胸の奥が強く揺さぶられた。
「……シルヴァーナ?」
記憶に刻まれた面影。そのままの姿がそこにいた。彼女がなぜこの時代にいるのか、ロウィンにはわからない。ただ、再会の意味を知るには、この戦いを超える必要がある――そう理解していた。
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