あの夏の終わりに
たぶんかなり変です……。
でも! 読んでいただければ光栄です。
(想像して読んでいただけるとうれしいです)
最初っから君を好きにならなかったら、こんな思いはしないで済んだのかもしれない。
あの、夏の終わりに……。
その日は空気が澄んでいて、青々とした空はどこまでも広がっていた。
雲のないその日は太陽さえ近く感じた。
年に2回しかないお祭り。夏の風物詩、花火大会。
ここの花火はどこよりも多く打ち上げられることで有名だ。とくに、ラストを飾るスターマイン(速射連発)や四尺玉花火(直径800メートル、重さ420キログラム)は見る者の心を虜にする。
このお祭の花火を見るために足を運ぶ観光客も少なくない。
もちろん、俺もこの花火を見に来た観光客だ。
俺の名前は北神修哉。どこにでもいる普通の大学生だ。
「ちょっと、修!」
この女なのか男なのかわからない人は甲斐夏美。同じ大学に通う俺の幼馴染で恋人だ。
一緒に今日の花火を見に来た。
「ねぇ、先に行くなんてひどくない?」
「悪い。気持ちが高ぶっちまってな」
そりゃあ高ぶるだろ。そんな花火そうそう見に来られないんだから。
「夏美、花火が上がるまで出店でもまわるか」
「うん」
夏美の手を引いて立ち並ぶ出店を見ていく。
お面屋さん。
わたあめ。
射的。
金魚すくい。
「修、金魚すくいやりたい!」
「好きだなぁー。下手なくせに」
「いいでしょ、別に」
夏美ははっきりした奴だ。好きなものはお祭に読書に甘いもの。
嫌いなものはほとんどない。どんなに嫌いな食べ物でも決して残したりはしない。もったいないのが一番嫌いらしい。
好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。そんなまっすぐな夏美が好きだった。
「おじさん! もう一回!」
「夏美、どれ、貸してみ」
俺は夏美から網を取って、ひょいと一匹すくい上げた。
「修は昔から金魚すくい上手だね」
「あたりまえだろ」
俺は夏美にコツを教えた。
金魚すくいなんて、網の入れ方の角度さえうまくいけばいくらでもすくえるんだ。
1人で声を出しながら金魚を追いかける。
「ばか! 袖濡れてるぞ!」
「え? わっ! やばい!」
夏美がこの日のために新しく買った浴衣の袖はびしょびしょだった。
「ほんと、ばかだなー」
「なによぉ。でもいいもんね。一匹とれたから」
手には袋に入った金魚が一匹いた。
「てか、その金魚俺がとったのじゃん……」
「ありがとね」
そのときの笑顔は悔しいくらいかわいかった。
それからいろいろな出店をまわった。
夏美に連れられてある出店に来た。
……りんご飴か。
昔からりんご飴大好きだったよなぁー。
りんご飴を買ってあげるとうれしそうに舐めていた。
なんだかんだで空は暗くなってきて、花火が打ち上がる時刻だった。
ひとつ目の音がして、夜空を染めた大輪の花。
「ヤバっ! 急ぐぞ、夏美」
手をとり、走る。
ふたつ目の音が消えた。
夏美は笑いながら、おぼつかない足取りで走っていた。
海風と火薬の匂い。
あともう少し。
三つ目の花火は赤色の大輪だった。
「きれい……」
「あぁ、きれいだ」
素直に感激した。
近くの石段に座り打ち上がる花火を眺める。
夏美の手を握る。
つないだ手のひらに、鼓動の早さが伝わりそうだった。
つないだ手のひらに、秋の気配を感じさせる風が通った。
夏美の横顔を眺めた。
「夏美、好きだ」
「な、どうしたのよ突然」
顔を近づける。
「え、ちょっと……」
りんご飴の甘い味がした。
初めてのくちづけにまぶたを染めた。
繰り返す音の波に瞳を閉じた。
これが最後と告げぬまま、身を焦がす打ち上げ花火。
言葉にならなかった。
こんな気持ちは初めてだった。
煙る夜空をあきらめて、ひとり、ふたり、背を向けて歩き出す。
あの夏の終わりに、肩を並べて夢を数えた。
あの夏の終わりに、伝えそびれた言葉。
あの夏の終わりに、つないだ手のひらに鼓動の早さが伝わりそうで。
あの夏の終わりに、秋の気配を感じさせる風が通った。
「なぁ、夏美。世界の終わりが今訪れたとしたら、全部投げ出してふたり永遠になれるかな?」
「なれるよ。大丈夫、ふたりは永遠だよ」
帰りはバスに乗った。疲れきった夏美は小さく寝息を立てていた。
俺も疲れたな。到着までかなり時間あるし、寝るか。
目が覚めた。
そこは白いカーテン、知らない天井、ナースコール。
まぎれもなく、病院だった。
……なんで病院。
「あら、気付かれたんですね、よかった」
目の前にはナースがいた。
「あの、なんで俺こんなところに……」
「覚えてないのも仕方がありません。あれから5日経ちますから」
……5日?
「花火大会があったあの日、バスの横転事故があったんです。」
え。
なんだよ、それ。
!
「あの! ここに甲斐夏美はいますか!」
「いますが、会われますか?」
「どういう意味ですか……」
「彼女は事故で重症を負っています。たぶん、2度と歩くことはできないと医師は言っています」
うそだ。
うそだ。うそだ。
そんな……。
夏美が歩けないなんて。
「くそっ!! なんでだよ! なんでなんだよ! なんで……。なんで夏美なんだよ……」
「あなた方は幸せなほうよ。あのバスに乗っていた乗客で生きていたのはあなた方入れて5人だけよ」
「なにが幸せだ。なんならいっそ死んだほうがよかった……」
「……ほんとうにそう思ってるの」
?
「その夏美さんは生きたいって言ってたわ。あなたと一緒にね」
夏美が……。
「あなたは夏美さんと生きなきゃいけない。たとえどんなにつらくても。」
――なれるよ。大丈夫、ふたりは永遠だよ
泣くしかできなかった。ただ、ただ泣くしか。
あの夏の終わりに、花火大会に行かなければこんな惨劇は起きなかったのだろうか。
君を好きにならなかったら、こんな惨劇は起きなかったのだろうか。
わからない。
過去のことを振り返ってもなにもはじまらない。
ただ、ひとつ言えるのは、最初っから君を好きでいられてよかったってことだ。
なんか変ですいません……。
読んでいただきありがとうございました。