出会い
プロローグ
「……は?」
なんてことのない、ただの日常の一コマ。俺はそいつに出くわした。
「曇りって良いよね。皆が平等にジメジメしてくれるから」
持参したマイバックに数分前購入した新作の漫画を入れ、ミルクティー片手に気分よく本屋から帰宅をしている最中であった。
通りすぎる自転車。犬と散歩をしている小学生。側から聞こえてくる軽トラックの走行音。驚きのあまり落下させてしまい、画面にヒビが入ったスマートフォン。
目の前の光景……いや、周りの反応を見るに、自分以外の存在は正常な時間が流れているようであり、あくまで自分だけが受け入れ難い幻を見ているようであった。
知らぬ間に何かやばい植物でも口にしたのだろうか。それとも日頃の生活リズムの悪さが体への悪影響を及ぼした結果、このような症状が現れたのだろうか。ただ、思い当たる節はない。
悪い想像が膨らんでいく。気のせいだと思いたいけれど、全身を突き抜ける強めの春風が現実味を押し付けてくる。
脳が理解を拒み、異常な光景だと判断する。
「りゅ、竜……」
俺は頭に思い浮かんだままに、小さく呟いた。竜と。
「りゅう……、竜ですか。君がそう思うのならそうなんだろうね。君が正しい。君は間違っていない」
そいつはゲームに登場するキャラクターのように鱗があるわけでも、鋭い目つきというわけでもなく、シルエットも全体的に丸々としており、威圧感を感じられないデザインであった。けれども、背中から伸びた翼をゆっくりと動かしホバリングする様は、竜と言い表すのが最適に思われた。
おそらく周りからは見えていない、自分だけが見えている目の前の存在。そいつは呆気に取られ立ち尽くす以外にリアクションすることのできない俺を見ると、ため息混じりに言葉を発した。
「勘違いしてほしくないんだけど、僕は被害者なんだからね。今時じゃ珍しい可哀想なヒロインなんだ」
そいつは最後に言葉を付け加えると、再び目の前から去っていった。
「君が思ってる以上に、人は君のことなんて見ていないよ。まったくね」




