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━━━━━━━エリスの追憶━━━━━━━━
帝国最大のダンジョンであるラグナロク100層。
そこには、冒険者にしては、しっかりとした格好をした集団がいた。
「団長!今日は遂に、最深部への潜入ですね!」
「そうだね、トレーク。ここからは、私たちでも死ぬ可能性があるのだから気を引き締めなくちゃだめだよ」
「そうだぞ、トレーク。俺たちは、確かに強いが最深部は、未だに、制覇されていない。S級冒険者すら行くのは、嫌だと言うくらいだ」
この集団は、モルタ帝国軍、最強の部隊である。
ネームド『シュヴァルツ』を団長に各々が隊を引き連れるレベルである。
「わかってますよ団長。」
一行は、順調に進んで行き魔術陣が展開されている部屋を見つけた。
「ここがボス部屋に、行く魔術陣でしょうか?」
「そうっぽいね!」
「どんな〜ボスがいるのでしょうか〜」
シュヴァルツは、真剣に魔術陣を読み取りそれ以外の者は、休憩や次の戦いに向け瞑想をしている者様々だ。
「エット フィーラ トレーク 貴方達は、本当に自由ですね。団長は、あんなに真剣にしてるのに。」
「「そんなことありません!」」
「はぁ。」
「皆は、終わったよ。よし行こうか」
「「はっ!」」
魔法陣を抜けた先は、凄まじく広い空間だった。一言で言えば、荘厳、だろうか。
長方形にかたちどられた、大聖堂ぐらいの広さを持つ宮殿の広間。部屋の隅には何本もの太い柱が立っている。天井は見上げるほどに高い。地面は黒いタイルのようになっており、一つ一つに複雑な文様をしたレリーフが刻まれている。
「おぉ……!」
その白の宮殿の奥には、一体の魔物がいた。
巨大な魔物である。シュヴァルツいや皆は、これほど大きな魔物と戦ったことはなかった。
大きさは、赤竜の約2倍。遠目からでも、エメラルドグリーンの鱗がキラキラと輝いているのがわかる。ずんぐりとした胴体。そこから、何本もの首が生えていた。
「ヒュドラですか……」
ノルの呟きが聞こえた。そう、ヒュドラだ。九本の首を持つ巨大な龍種。8歳の時に倒した竜とは、圧倒的な力の差がある龍種のいったいであるヒドラ。
「さぁ狩の時間だよ!」
「「はっ!!」」
シュヴァルツの言葉で、全員が気合いを入れる。
大きな部屋にどっしりと構えるヒュドラ。
「よし、いくぜ!」
最初に声をあげトヴェリが走る。犬のように低い姿勢で、風のように速く。何もかもを置いてけぼりにする速度で。
更には、ノル、トレークも付いていっている。
その後ろからシュヴァルツ フィーラ最後尾には、治癒 魔術と付与師であるエットがいる。
「らあぁぁぁ!」
トヴェリがヒュドラに到達する。同時に、ヒュドラの三つの頭が動いた。大きさに対して、ヒュドラは素早い。首の一つ一つが野生の蛇であるかのように俊敏に動く。
しかし。トヴェリが一瞬ブレた瞬間、首のうちの一つが切断されていた。
「ファイアボール!」
ノルの火魔術がヒュドラへと飛ぶ。
――が、ダメだった。
火球弾はヒュドラに近づくにつれて小さくなり、着弾と同時に消え去った。
「やはり近接してぶち込むしかないか」
近寄らなければ、倒すことはできない。至近距離で火魔術をぶちかまして、傷口を焼き落とすしか無い。
「予定通りですね。フィーラいけますか?」
「団長、私だってやる時はやりますから!」
「シャアアァァァァ!」
三つの首が同時に攻撃を仕掛けてくる。ヒュドラは4つ以上の首を動かさない。そこまでのキャパシティが無いのか。
それとも、単に他の首が邪魔になるからなのか。わからないが、とにかく好都合である。
ノル トレークが1つずつの首を受け流し。トヴェリが一気に首を切り落とす。
切り落とされた首はビクビクと地面をのたうちまわった。
「いま!」
「はいっ!」
『獄炎よ燃やしつくせ』
シュヴァルツの声を聞いて、フィーラはのたうち回る首に『魔法』を放つ。は周囲を明るく照らしながらヒュドラの首に着弾。その傷口をブスブスと音を立てながら焼き、黒焦げに変えた。シュヴァルツ達は、色々な文献や冒険者に魔物の特性などを聴き周り、ヒドラなど沢山の魔物について調べた。そして、最上位の魔物は、ごく稀に『アンチスキル』を持っており、直接切るか別の方法しかないということに気がついた。
そして、物理攻撃以外にも。
「きいた?」
シュヴァルツはバックステップを踏みつつ、傷口を見る。
まだわからない。すぐに別の首が襲い掛かってくる。トヴェリが受け止める。トレークが盾で受け流す。視界の端で、ノルから血しぶきが上がる。
「くっ!」
「彼の者を癒したまえ ヒール!」
ノルが傷を負うと、すぐにエットが詠唱しながら走っていき、その傷を癒やす。
「……」
首は、傷口はどうだ。炭化した切断面は再生するのか。
「……よし」
再生しない。奴の傷はそのままだ。肉が盛り上がり復活する事はない。
「有効です!」
「よっしゃ!」
トヴェリが叫び、次の首を切り落とした。フィーラがその首を焼く。凄まじい熱。息苦しくなるほどの熱量が後ろにまで届く。トヴェリも額に汗を垂らしている。
だが、これぐらいの火力を出さなければ、切断面を焼けない。生焼けでは再生される可能性だってあるのだ。
この調子でいけば……。
「ッチ、まずい」
天理眼の1つの能力がヒュドラの動きを捉えた。片方は回避出来る。しかしもう片方は回避した先を狙ってくるだろう。
「任せでください!」
シュヴァルツが片方の首を避けた所でもう1つの首が飛び込んでくる。だが、ノルが受け流しトレークが受け止めるが固く鋭い鱗がトレークの体を掠り血を流す。
「クッ」
「彼の者を癒したまえ ヒール!」
人間とヒドラの戦いは、徐々に苛烈になりダンジョン全体が揺れているかのように思える。
「ッチこいつ硬すぎる。超速再生にアンチスキルってバケモンだな」
「そうでねー。大きなダメージを与えるには団長以外では、力不足ですし。どうすれば…」
「シャアアアアアアア!!」
「避けろ!くるぞ!!」
「クソっ!よけれねぇ…」
シュヴァルツトヴェリを庇ったことによりヒュドラの7つの頭による属性攻撃としとげのような尻尾により思わぬ攻撃を食らうことになる。
「うグッ。こんな蛇に腹を貫かれるなんて…」
「団長ちょう!!どうして!」
「団長!」
「すぐ治るから体制をもちなおす!!エットは私の回復、トヴェリ ノル トレークはヒュドラの気を引け!」
「「はっ!」」
このチームは冒険者では無い軍人だ。上司の命令は絶対なのだ。すぐ切り替えシュヴァルツの指示ですぐ動く。
「星を巡る水よ、癒しを与えたまえ 水雫回復」
「ありがとエット」
「いえ、当たり前のことをしたまでです」
「うーん、このキズはしばらく治りそうにないね。私の体を侵食しようとしてるよ」
「全力を注ぎます!」
「潜む力を出せ!潜在・解放」
「こっちだ蛇!オラァ!」
「蛇、潰れろ!!重力」
「キシャアアアアア」
ノルのスキルで底上げされたトヴェリの物理とトレークの魔法スキルは、ヒュドラにも効き悲鳴をあげる。
「よっし、このまま折りたたむぞ!」
トヴェリは、前傾姿勢のままもう一本の大剣を手に持ち
ヒュドラの視線から一瞬で消え上空から2本の大剣を振り落としヒュドラの半身を切り裂いた。
「いけトレーク」
「水魔法 開け・天の・窓」
「こんな狭いところでこんなに魔法使う!?もう後処理をやるのは私なんだかね!
土魔法 空を覆う壁!!」
その瞬間、魔法陣から大粒の雨が降り始めた。いや、ただの大粒の雨と言うには生易しい。それは大鍋をひっくり返したかのような勢いで振り始め、雨と言うよりかは滝という言葉が相応しいように思える。ザーザーという擬音語も適切ではなく、ガガガガガガ! というような表し方が相応しい。それがヒュドラの再生しようとする体をに打ち付け徐々にヒュドラを追い詰める。
「さすが君たちだ、龍種の中でも厄介なヒュドラを倒そうとするなんて」
「団長治ったんですね!」
「団長ー!」
「うん、治ったと思う。最後は、私が貰ってくよ」
『我求めるは、甘美な殺戮。
その鋭利な一撃をもって
立ちはだかる愚者を貫かん』
『悪神の神槍』
魔術陣によってダンジョン内に空間が裂け虚空か出現した瞬間に黒く光り団員が目を塞ぐ。
「これは…」
「ウソだろ」
「…」
「これが団長の力…」
「凄すぎるよー」
本来、ダンジョンの壁や床は永久不滅であり傷がついても一瞬でも再生してしまうのだが、今目の前で怒ったのは、
そこにいたはずのヒュドラが塵一つ残さず消え去り残ったの床に大穴があいてそこに金色塗られた物に赤黒い蛇のような腕が巻きついている大槍が刺さっていた。
「いやーさすがだね〜。じゃあみんな帰るよー!」
「「は、はい…」」
自分たちの努力はなんだったんだと団員達は思った。




