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学校一の美少女は学校一嫌いな奴だった  作者: 夏斗輝明
第三章:恋する私と恋をした彼
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第三十話:矛盾の納得

文化祭二日目、最終日。


 晴輝は今日も黙々とパスタで使う食材の準備をしていた。昨日と違う点は調理室には晴輝と伊織しかいないことだ。


「なぁ晴、今日なんか変じゃないか?」

「なにが」

「いや、ずっと上の空だしよ、その上何回も包丁で指切ってるし」


そう言われ晴輝は自分の左手を見つめる。そこには痛々しい絆創膏が何枚も巻かれていた。


「体調悪いなら、変わってもらうか?」

「昼までには全部終わるから大丈夫」


伊織は「ならいいけど」とまな板に目線を戻した。


 昨日の夜からずっと考え事をしていた。

それもそうだ、友達だと思っていたやつに恋をしていると気づき、告白もしていないのにフラれたからだ。


 今朝も岡村を見かけたが、いつもと見える景色が全くと言っていいほど違って見えた。彼女を目で追ってしまい、こちらと目線が合いそうになると逸らしてしまう。

 何もしていないし、されてもいないのに胸が苦しくなる。

 そして、岡村のことを考えていると4回も自分の血液が飛び出るのを見る羽目になった。



「伊織、今日は何時からメンズと回るんだ?」


昨日、ふと伊織が言っていたことを思い出し、そのスケジュールを聞いた。


「あーそのことなんだけど・・」


少し困ったような顔をして伊織は目線を合わせようとしない。「どうした」ともう一度疑問形で尋ねるとこんな返答がきた。


「えっと、その俺、今日も未来と回ることになったっていうか。あと久保も、他のやつに誘われて回るって言ってた」

「え、俺一人かよ」


そう悪態をつき、伊織を少し睨む。


「いや・・、一人ってわけじゃないと思うんだけど・・」


この煮え切らない態度。こいつ、何か隠している。分かる。伊織が俺の嘘を見抜けるように俺もこいつが何か企んでいることくらいは推測できる。


「お前、何企んでるか吐け」

「いや、なぁんにもないよ?あ、僕の分の食材終わったからもう行くね。営業の方も今日は順調そうだし、晴も文化祭を楽しむと良い。では!」

「おい、お前!逃げんな!」


そう言うが遅く、小谷伊織は調理室を飛び出して行った。右腕はその鋭利なものを投げようとするモーションで止まっていた。

危ない危ないとそのブツを静かに下ろした。




晴輝は全ての食材を切り終わり、調理室の三脚椅子に一人で座っていた。


「最後の文化祭でボッチは笑えてくるよな」


 今までの行事は伊織と回っていただけに、ここにきて一人で祭りを巡回できる度胸も気力も今の自分にはなかった。

 少し隣の部屋から騒がしい音がするが、模擬店が繁盛している証拠だろう。黒字はもう確実に取れていると先ほど岡島から連絡が入った。


「なんか俺の青春ってこんなものなのかな」

「そんなことないと思うけど?」

「え」


調理室の入り口から聞こえてきたその声は昨日、背中越しに聞こえた人間の声だった。

なんでここにいるんだよ。今は自分の中でこの気持ちを消化しきれていないのに。


「ひとりごと言うならドア閉めとかないと。ていうかまだ食材切ってるの?さっき小谷君が全部の食材切れたって言ってたけど」


そう言いながら岡村は中へと入ってくる。

すぐに心拍がうねりをあげ、その数を増加させていく。


「いや、文化祭回る相手がいなくなったから動くに動けなかった」

「そうなんだ」


自分で言って恥ずかしくなると同時に惨めさが押し寄せてくる。好きな人の前ですら威張れず、ボッチの自分が誰よりも低く感じて仕方なかった。


それはそれとして気になったことがあった。


「岡村、その格好どうした」


下は男装用のズボンを履いているが、上は大きめの黒いパーカーを着ていてさらに男子に人気の萌え袖をしている。頭にはそのパーカーのフードをかぶっていた。到底、高校の文化祭で着用する格好ではないのはわかった。


「あぁ、これね。昨日から『写真撮ってください』とか『一緒に文化祭回ろう』とか言われることが多くて、昨日は全然そんな余裕なかったし今日も言われるのしんどいからその対策に」


そうか、この子も学校一の人気者だもんな。

それに比べて俺は暇を持て余して一人寂しくスマホゲームや憐れな独り言を呟いていた。


自分の立場を理解しているのは結構だがいつしか岡村に言われた通り、自分は陰キャで伊織や久保たちと行動をともにしているのが不自然なのかもしれない。


「人気者は大変だな。俺はそんなものないからここを拠点にしてる」

「何言ってんのよ。一ノ瀬、これ」


岡村はある紙袋を差し出した。袋の中を確認するとその中には黒色の無地のパーカーが入っていた。


「なんだよこれ」

「私と同じパーカー。今から一緒に文化祭回ろ」


こちらこそ何言ってんだ?と言いたくなった。

思考を巡らせるが答えは出てこない。学年7位の頭脳でさえ全く予測もつかない。


「いや、意味がわからないぞ」

「一ノ瀬が言ったんでしょ。文化祭で思い出作ろうって。今はみんな忙しそうだけど私は今日はもうシフト終わったから。さぁ、着替えて」

「そうは言ったがなんで俺もパーカーを着るんだよ」

「身バレ防止もあるけど、ハロウィンも近いからみんな制服以外の衣装も着てる。だから、ちょっとでも文化祭ぽくなるかなって」


 これも『面白い友達』としての誘いなのだろうか。こんなにも純粋な目で誘われると自分の想いなど悟られない方が彼女にとって幸せだと言うのが分かる。


 それに彼女は告白をされるのが嫌なわけではないが、困る要因には大いになり得る。


(そういえばこいつ、昨日久保に告白された割にはケロッとしてるな)



「で?一緒に回ってくれないの?」

「あ、いや俺じゃなくても岡島とか・・」


そう言われると岡村はムッとした顔を示し、心情が穏やかではないのが見てとれた。


「・・じゃあ、いい」


やってしまった。単に友達としてでも、自分を気遣ってくれての行動だとしたらとてもモラルに欠ける言葉を吐いてしまった。


「ぶぅぅぅ」


その時、晴輝の携帯がなった。机の上に置いていたスマホに無意識に目を向ける。

アイコンは伊織の顔のアップ画像。伊織からのラインだった。


小谷伊織:はーるー。今、未来と久保と岡島さんと体育館に居るんだけど3時から始まる軽音のライブ観ないか?あ、それと女子が一人足りないからかぁわいい女の子一人連れてきてね


「ぶぅぅぅ」


さらにもう一度携帯が鳴った。


久保明人:小谷から聞いたか?みんなで軽音のライブ見るんだけど、腹減ったから人数分のご飯買ってきてくれないか?いっぱい回って決めていいからさー。お金は後で渡すぞ。あ、ちなみに可愛い子は絶対な!


なんだよそれ。


その二人のラインを見るとただのパシリにされている文面だが、自分も先ほどからお腹を鳴らしていた。

普段なら「自分で行け」と言うところだが今回はどうも違う。


最後の「可愛い子」は今の俺の中には一人しかいない。それは昨日判明した。この気持ちをどう処理すればいいかまだ分からないが、この胸の高鳴りや苦しみには自分でも驚くほど納得していた。


調理室から出ようとするその人物に声をかける。


「岡村、パーカーのサイズ教えて」

「・・一応2Lにしといた」





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