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学校一の美少女は学校一嫌いな奴だった  作者: 夏斗輝明
第三章:恋する私と恋をした彼
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第十九話:約束

 9月3日、二学期に入り始めての予備校の日。そして初めての約束の日。


「ありがとうございました」

講師にお礼を言い、晴輝は部屋を後にする。


 晴輝は重大なミスをしていた。放課後に予備校に行くため、夏休みの時とは違って終わる時間がどうしても遅くなる。

さらに、今日は新学期明けの模試があった。

岡村のラインを持っていないため、連絡する術を持っていない。


 午後8時が近い。流石に岡村は怒ってとっくに帰っているだろう。明日、謝らなければ。


 でも、今日は会わなくて良かったかもしれない。この前、伊織に言われたことがまだ頭に残っている。


 ペットボトルのコーヒーを握りしめながら改札をくぐり、下りのホームへと向かう。

 今日は岡村を待つ必要がないがいつも待ち合わせをしていたベンチに無意識に足が進む。


 「誰かいる」


 ベンチは階段を降りた時には背を向けている。

そこには人が座っており、その人も後頭部しか見えない。


 知らない人の横に座るほど疲れていないし、そのベンチを通り過ぎようとする。


横を通り過ぎる時に座っている人物を見た。同じ制服を着ていたから尚気になった。


「え、岡村?」

その人物はいるはずのない岡村だった。だが、何かおかしい。


「寝てる?」


岡村は「スゥー」と寝音を立てながら等間隔で胸が膨らみ、また元に戻る。

つい美少女の寝顔に見入ってしまう。


「んー」

寝ていた岡村はゆっくりと目を開けた。


「・・一ノ瀬?」

「ごめん、連絡できれば良かったんだけど」

「遅い」


不満げな顔をされるがまだ半分は寝ている状態だ。


「待っててくれたのか?」

「だって、約束したじゃん。一緒に帰ろうって」


急に胸に大きな衝撃が走る。またプールの時のように上目遣いで見られる。


(約束はしたけど、ここまで無理しなくてもよかったのに)


期待していなかった分驚いた。もし俺が帰っていたらどうするつもりなんだと突っ込みたくなった。

だが、健気に待ってくれていた彼女に感謝の言葉を述べた。

「ありがとうな、岡村」

「うん」


『下り電車が参ります、黄色い線の内側までお下がりください』

ホーム内に電車が到着するアナウンスが響き渡る。それを合図に彼女は立ち上がる。

「帰ろ一ノ瀬」

「あぁ」


 美少女にそう誘われ、自然と了承の返事をする。

自分が望んでいた関係がここにある。会わなくてよかったと思っていた、数分前の自分を殴ってやりたいほど幸せな感情が溢れる。


 夏休みと同じように岡村を隣に添えて座席に座る。

今の時間は人も少なく、主に若い大学生などが多いように思える。逆に制服を着ている自分達は逆に目立つだろう。


「一ノ瀬、今日はなんで遅かったの?」

「ごめん、今日は模試があったんだ」

「そっか」といつもの如くスマホに目を落とす。


10秒ほど経っただろうか、自分の目の前にスマホが出てきた。


「私のライン。これからは連絡してくれたら、その辺で時間潰せるし」

「いいのか?」

「いいも何も、これだけ一緒にいるのにライン持ってないなんておかしいでしょ」


最もな正論だったが、俺が遅くなっても帰るではなく時間を潰すと言った。そんな小さなことで口角が吊り上がりそうになる。


「わかった、ありがとう」

 初めて女子と連絡を交換した。ライン名は当たり前だが『玲奈』と表示されている。アイコンを見ると伊藤と岡島と3人で写っていた。この服装はプールに行った時のものだろう。


 晴輝のラインの友達の数が今年に入ってまた一人増えた。


「え、家庭科部だったの?主夫にでもなるつもり?」

「違う、幽霊部員だよ」とすぐに訂正した。


 予備校の帰りの電車に揺られながら、いつもみたいに他愛もない話をしていたら「中学は何部だったの?」と急に聞かれ、答えたらこの反応をされた。


「中学は強制で部活に入れられたから、楽そうな家庭科部に入ったんだ。調理実習にしか行かなかったけど」

「へぇー。じゃあ、料理は得意なんだね」

「まぁ、人並み程度には」

「じゃあ、元家庭科部さん。模擬店の料理は何が良いとかありますか?」


マイクを差し出すように岡村が拳を突き出してくる。


 文化祭の出し物、模擬店。原価が低く、それなりに高く売れるものが良いのは当然だが、それが沢山売れるかといったらまた別の話になる。


 祭りなどで人気なたこ焼きはタコがそこそこの値段になる。

さらに小麦粉自体も高い。なので、お好み焼きなどの粉物は向かないだろう。


 食中毒などの観点から、生肉などの加熱を必要とするものや長期保存に向かない乳製品は調理できない。

 加工食品のベーコンやソーセージなどで加熱をしなくても食べられるものは可能となる。


「原価とかを考えると小麦は使っているけど、麺が安い焼きそばとかパスタとかかな」

「パスタってカルボナーラとか?でも、乳製品ダメでしょ」

「いや、ペペロンチーノとかだよ。あれは材料費が少なくて済む」

「でも、パスタの麺って6人前で400円くらいじゃない?結構高い気がするけど」

「市販のパスタの一人前は模擬店ではかなり量が多いと思う。だからその3分の1か半分の量でも売れると思う。焼きそば一玉の値段は安いけど、最近は野菜の値段も高くなってるからパスタの方が安いかも」


出していた手をしまい、岡村はポカンと口を開けている。

「へぇー見直したよ」

「逆に見損なってたのかよ」


一つ鼻で笑われる。


「違うよ。意外とクラスのこと考えてるんだなーって」

「別に。まぁ最後の文化祭だしな。他の案に決まるかもしれないけど」


 次の日、伊織が指定した模擬店の出し物を決める日。放課後にクラス全員が集まり、教団の上に立つ伊織と書記役の久保に注目が集まっていた。


「じゃあ、今から模擬店の料理を決めたいと思います。意見がある人から言ってください」

そう伊織が言った途端クラス中から声が上がる。


「俺はたこ焼き一択だ!」

「私はパンケーキがいいな」

「いやいや、無難にポテトだろ」

「それはみんなで調理しないから面白くないな」

「カレーとかはどうだ?」


もうめちゃくちゃだった。久保も黒板に書くスピードが追いついていない。


「あー、みんなごめん!やっぱり挙手制でお願いします」


 クラスが数分すると落ち着き、各々の考えてきた料理名を上げていく。


 学校のルールに則って残ったのは、ソーセージカレー、たこ焼き、お好み焼き、焼きそばが残った。ポテトやフランクフルトも案として出てきたが、学生が主体のため、焼くだけなどの手間が極端に少ないものはダメだということで棄却された。


「はい」


急に隣の女子が手をあげる。


「お!岡村さん、どうぞ」

(まさか・・)


「パスタとかいいと思う。原価も安いらしいし」

「パスタか。ちなみにどんなパスタを作るんですか?」


伊織が尋ね、次は岡村に注目が集まる。

数秒黙り込む岡村。そしてこちらに目を向けられる。

やめろと首を振る。


「・・て、一ノ瀬が言ってた」


真横から指を刺される。

今一度言おう、この白状者め。


「晴そうなのか?」

「・・まぁ、そうだな。原価が安いのはペペロンチーノとかかな」


 晴輝はため息をつきながら昨日岡村にしたのと同様に、クラス全員に説明した。


「なるほど、確かに原価は安くていいかもな。逆にパスタの模擬店ってあんまりないし、話題性もあると思う。意外に考えてくれてて感心したぜ、晴」

「俺もいいと思うぞ一ノ瀬」

黒板前にいる二人にお褒めの言葉をいただいた。


「みんな晴の案、どう思う?」

「いいかもな!なんかシェフっぽくて!」

「おしゃれでいいかも」

と、意外にもクラスから賛成の声が多く出た。


「じゃあ、パスタで決まりでいいかな」と伊織が話し合いを終わらせようとする。

クラスの皆も「異議なーし」と声をあげる。


晴輝は慌てて、言葉を繋ぐ。


「いやいや、待ってくれ。確かに原価は安いけど、仕込みに時間がかかるんだよ。あと、茹でるものだから、ソースを吸って伸びると美味しくない。だから回転率とかも考えないといけないし」

「それをみんなで考えるんだろ?一ノ瀬」


久保にそう釘を刺される。あまり久保の顔を直視できない自分がいる。


「まぁ、そうなんだけど・・」

「そうだぞ晴。じゃあ、パスタで決まりとします。解散!」


伊織は半ば強制的にクラス会議を終わらせた。


「よかったじゃん、自分の意見が通って」

隣の白状者がニコニコと笑って言う。

「この野郎・・」



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