表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そしてヨーロッパ  作者: 船木千滉
4/40

第1話 (その4)

 他の客と共にイミグレへ走り、上着からパスポートを出すのがもどかしく、なんとかカウンターへ置くと、目にも止まらぬ速さでポンポンと税関はスタンプを押した。思わず厳めしい白人職員の顔を見たが、何も言わない。


(案ずるよりも産むが易し)と、変なことを思い起こしながら、弘明は荷を担ぎ直し待合室を駆け抜けた。


 そのままボーディングブリッジへ向かったが、いかにも両手の荷が重く、一度止まって担ぎ直した。もう弘明の上着の中は蒸し風呂で、背中といわず鳩尾といわず汗が流れ出していた。


 気がつけば最後の客になったらしく、外に開いたドアの前でスチワーデスがカムカムと手を振る。そしてスレンダーな体でドアハンドルを抑えながら、閉めるよと言わんばかりに股を開いて踏ん張った。


 思わぬ姿態に、(良い女やなあ)と思いながら、サンクスと伝法な物言いをした弘明は、どっと機内に飛び込んだ。


 息を切らして中へ入ると、ドーンと後ろでドアが閉まる。

 出迎えたスチワーデスが、無言で客室を指差した。


 ふっと奥を見ると、薄暗い中で蠢く乗客の目・目・目、居並ぶその数に圧倒されて、弘明は思わず目を逸らした。


(なんや、俺のせいやないで)

 と叫びたい思いを込めて、ゼイゼイと肩で息を継ぐしかなかった。


 意気消沈したままバックを下ろし狭い通路を行くと、3人掛けの中の席が一つ空いていた。ここか?とばかりに後ろを振り向くと、さっきドアを閉めたスチワーデスの笑顔があった。


 仕方なく顔を歪めて笑顔を返すと、一度両手の荷を床に降ろした。背を伸ばして頭上のロッカーを開けようとしたが、パチッとロックを外した途端、ドッと中の荷物が崩れ出し、慌ててそのまま締め直す始末。


 後ろのロッカーも当たってみたが、以下同様。気がつけば機体が動き出していて、乗務員用の椅子に座ったスチワーデスが腰を上げて、弘明に向かって無言の圧力を掛けていた。


 もう最後の手段、先にバックを一つ、自分の席の足元に放り込むと、片方を両手で抱いて通路側に座る男にエクスキューズミーと断って、なんとか席に座り込んだ。


 汗を拭く暇もなくシートベルトを締めた瞬間、ドドドド――と機体が動き出すと、冷たい背にGが掛かった。


 一度上がった息は治まらず、額の汗が目に入り、それでも体を動かすことは出来なかった。グワーと機体が飛び上がった途端、やっとほっと一息つく弘明だった。


(第2話へつづく)

第2話へ、明日につづきます。

よろしくお願いします。船木

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ