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そしてヨーロッパ  作者: 船木千滉
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第4話 (その2)

「会議でお前が言うこと、俺には最初から最後までチンプンカンプンで、なにも分からんかった……」


 A&Bの本社ビルを出た所で、弘明は古賀からそう声を掛けられた。ロビーで監督と立ち話した後で出て来た古賀は、外連味のない表情で笑っていた。


 会議で質問が出たのは、まず芙蓉が点検した金物の破損状況だった。


 コンテナの固縛金物は大きく分けて二種類あり、船体やハッチに溶接した「Fixed gear」と単体の「Loose gear」である。本船の場合当然Fixedの方は船主側のA&B所掌だが、Looseは傭船社の手配だった。


 弘明が持参した資料で明らかなことは、ハッチカバー上に残ったLooseは数少なく破損が激しい。ただハッチカバー上のFixedは一部に破損はあるが破断はない。


 つまりコンテナ流失はLooseの破損に依ると考えるのが妥当であり、それを裏付けるのは船上に残ったFixedを工場試験場に持ち込んだ試験結果だった。


 更に重要なことはFixedの許容値を越える荷重が掛かった。つまりコンテナの過積載か、忌避すべき荒天海域を航行したか。弘明の見せた資料は傭船側の運航管理に問題があった、という事実を証明し得るものなのであった。


「お前は何者や――って、監督が言うてたで」

 地下鉄の駅へ向かいながら興奮気味に話す古賀に、弘明は面映ゆかった。


 ただ2時間を越えて喋った弘明は、いまだアドレナリンが消費し切れていないのか興奮冷めやらず、どこか古賀の言葉も上の空だった。


「ああ監督がなあ、うちの在庫がLiverpoolの船具屋にあるから、寄って行ってくれって言うてたわ……」

「ああ、A&Bから注文もらった金物ですね」


 前日古賀と打ち合せしたが、A&B向けコンテナ金物を指定の船具屋に送ったものの先方の在庫が滞っていた。 


(リバプールなのか)と思う弘明はふと、

「Manchester & Liverpool……」

 と歌が浮かんだ。


 どこか儚い女性の声、(誰の歌だっけ)と思う弘明に、

「明日は時間ないから、ビートルズのパブには行けんな」

 と、いかにも残念と言った風に、古賀が舌打ちした。


「ああ、ビートルズはリバプール生まれですか」

「なんやお前、ビートルズの歴史を知らんのか?」


「いや、私はモンキーズの方が好きで……」

「あかんあかん、あいつらは寄せ集めやで」


 他愛もない会話に、弘明は平静を取り戻していた。


(つづく)

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