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天井の模様

作者: 小城

 私の家の天井には、模様が描かれていた。おそらく、前の住人が残していった物なのだろう。その模様は一見すると、何のことはない幾何学模様の羅列に過ぎない。だが、最近、気が付いたことに、その模様のひとつひとつは、微妙に異なっている。草の蔓のような物が周囲に描かれ、その中央には、天秤が描かれている。奇妙なところは、その天秤に吊されている両方の皿の上からは、何故か腕が生えていることである。

「何の模様なのだろうか?」

そう思い、一度、調べてみたことがあった。毎日、何もやることがない私は、市の図書館へ行き、『世界紋様印章図案集』という書物を開いてみた。それによると、世界的に天秤は、正義や公平の象徴として使われているらしい。腕に関しては、結局、分からずじまいであったが、ヨーロッパ中世では、ギルド(組合)で、薬屋や錬金術を表すのに、天秤の紋様が使われていたらしい。

 家に帰って、もう一度、天井の模様を眺めてみる。じっくりと眺めて見ると、ひとつひとつが、細かい点で異なっているのは、それらがいちいち手で描かれているからだろうことが分かった。大家さんに尋ねてみたら、前の住人は、どうやら画家かデザイン関係の職業人だったらしい。きっと前の住人は、我が家の天井の模様も、ひとつひとつ自らの手で彩っていったのだろう。かつては、どこまで、描かれていたのかは、知れないが、今では、もう、その模様はところどころ消えてしまっている。それもそのはずで、私がこの家に住み始めてからも、既に30年近くが経っているのである。

 何もやることがないと、どうしても、私の意識というものは、内へ内へ、些細な点へと向かっていってしまう。それは、人から、よく言われるように、時には、重箱の隅を突くような、煩さを、特に、日々、何かを守ることに懸命に生きている人々には、感じさせてしまう。天井の模様を眺めている私の意識は、何十年も前に、その模様を描いた未知の人物に向かっている。その人物はもうこの世にはいないかもしれないし、どこかで、余生を過ごしているのかもしれない。それは、もしかしたら、今、天井の模様を眺めている私の境遇と似通った状態なのだろうかと思う。

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