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ステータス・NULL  作者: 般若湯
見知らぬ世界
7/9

悩み

 この日は、マナ式呼吸を習得した。そのおかげか、感覚が研ぎ澄まされたようだった。周りの空気感が分かるというかなんというか、きっとこれがマナを感じるということだろう。たとえ目を閉じていても朧げに周りを感じ取ることができる。

 気まずいことに……。


 今、長い特訓が終わって、マイスマ曰く早いそうだが、今は床に就いている。そう、あの小さな小屋で。隣には、マイスマが眠っている。そこにいるとわかってしまう。というか意識してしまう。

 たとえ、子供の様な身長でも、見た目も行動もしっかりと大人なのだ。

床に就くときは気絶するように倒れたのに、今は全く寝れる気がしない。今は何時か分からないが朝はまだだろう。


 仕方ないので起きて、外に出る。この世界の季節感は知らないが、昼は過ごしやすかったが、夜は少し肌寒い。自分の恰好を見ると寝巻にしている甚兵衛を着ている。向こうの世界から持ってきた数少ない物の一つだ。

 そうそう、この世界に来る前に幾つかの小物掴んでいた。それらはどうやらマイスマが拾ってくれていたらしい。

 小物は、安価なアナログ時計とアクセサリーとしての指輪、カチューシャだけだった。指輪とカチューシャは正直いらないが、時計で意外な発見があった。いや、今となってはそこまでだが、どうやら一日の時間が長いようだ。

 最初は転移の勢いでぶっ壊れたのかと思ったが、傷ついている様子もないし、重力が違うのなら自転の速さが違ってもおかしくはない。なんなら、天動説を地で行く世界かもしれない。


 空を見上げる。夜空には様々な星がある。星々は七色に光り、2割ほどの流星であり、尾の付いた流星が空に無数の線を描く。

 それに、月ほどの大きさはないが、大小さまざまの衛星がある。正直衛星かどうかは分からないが、向こうの世界での一等星より大きい星が30はある。


 天動説どうのこうの話じゃないくらいに異世界してる夜空だった。


 で、話を時間に戻すと、マイスマの小屋にあった時計(水銀の温度計みたいな見た目だった)と、俺の時計を見比べて、だいたい30時間ほどの様だ。今日はやたら疲れたと思ったが、特訓や体調不良ではなく、活動時間が長いせいだったのかもしれない。

 ならなおさら寝ろよと言う話だが、目が覚めてしまった以上仕方がない。体調不良自体は特訓を続けていればなんとかなりそうだが、生活習慣ばかりはどうにもならないかもしれない。

 重力と体格同様、生き物の体は24時間をルーティンとしてできている。これは毎日寝不足になるやも。

 まあ、明日目元に隈ができていてもそれは今の夜更かしのせいなのだが。


とりあえず、マナの訓練をこなせればひとまずの目標である生命の危機は、ひとまず一件落着する。そうなると、今度は今後の身の振り方を考えねばならない。

 つまり、ここで暮らすのか、元の世界に帰るのかだ。とは言っても、元世界に帰る方法が分からない以上、探しながらここで暮らすというのが結論なのだが。

 

 問題は、さほど元の世界に帰りたいとはさほど思わないことだ。

 古今東西やむを得ない理由で故郷を離れる物語なんて山ほどあるが、それらの話の登場人物は皆一様に悲しんでいた。正直、親の出張とかもなく、ずっと同じ町で過ごした俺にはそういうものかとただ知り、帰属意識や社会的欲求という意識がるのだとただ理解していた。

 しかし、実際に経験してみればそんなことはなかった。あれらの物語はフィクションだったのかもしれないし、物語特有の盛り上げだったのかもしれない。


 だが、ただただ俺がそういう社会的な意識がやや欠如しているのかもしれない。勿論帰りたくないというわけではない。向こうにはボイスチャットでよく遊ぶ友達もいるし、好きな銘柄の酒もある。まだまだ知らない未知もあるし、過ごしなれた家もある。

 それらを惜しいと思うと同時に、変わりが効くものだとも思ってしまった。だが、思ってしまったと言うが、割と昔から日常的な話であった。

 

 きっと俺は、恵まれていたのだろう。それ故にモノに対する思いいれがない。モノは大事にするが、失っても仕方がないと思ってしまう。もう満足しきっている。


 それ故か、この新しい世界に対する関心のほうが勝っているように感じる。

 元の世界への帰り方はこれからずっと探すだろう。しかし、本当に帰るかどうかは今は分からない。もしかしたらその時には、この世界に満足しているかもしれないし。


 でも、これら全てはあくまで訓練がうまくいったらの話だ。いい加減寝ないとならないな。明日は、マナを全身にまとわせることによる身体強化の訓練だ。これで、この重い重力にもおさらばできるだろう。


 小屋の屋根にも届きそうな、この体を揺らしながら寝床へ帰る。





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