特訓
マナ越しに見る世界はすべてがはっきりと見える。生まれてからずっと目はいいつもりだが、更によくなったような感じがする。きっと視力の悪い人が、眼鏡をかけるときはこんな感じなのだろう。
「ん? どうしたのミキくんボーとして。まだ気分がすぐれない?」
「ああいや、マナが見えるようになったんだ」
「見える?」
「ああ、見える。景色が一段と綺麗に見える。なんだかこことも晴れやかになっていく気がする」
「すごい珍しい。目で感じるようになったんだ」
「珍しいて、マイスマは違うのか?」
「んー私というか大半の人は、目とか耳とかじゃなくてなんていうか、気配を感じるんだよねマナの。
たまに、マナを見たり聞いたりできる人がいるの。どういう人がそうなるかはあんまりわかってないんだけどね」
見えるようになるというのは少し語弊のある表現だが、マナが見える云々の傾向は何となく想像はつく。
さっき俺は、マナを捉える感覚が目に置換されたと言ったが、それはきっと何でもかんでも目にとやっているからだろう。
俺は、マナを感じるのではなく見ようとした。きっとそのせいだろう。
脳科学的にどういう事だよと、1年程前にかじった程度の知識が文句を言うが、マイスマも武技の閃光自体は見えているようだし、もしかしたらマナは光に干渉することができるのかもしれない。
全部大した根拠もないが、そんなところだろう。きっと多分。
「見えるようにったのなら、次は動かしてしてみる訓練ね」
マイスマずっとつないでいた手に再度、閃光を走らせる。
「じゃあマナを手で払いのけてみて」
つないでいた手を広げ、反対の手で払いのけるジェスチャーをする。それに倣いマイスマの手のひらで手を動かす。
マイスマは擽ったそうにしているが、それは俺も一緒でマナの不思議な感触に驚いている。
砂の様にきめ細やかなのに、炭酸水の様な刺激を持ち合わせている。なんともむずがゆい。
子供の様に小さいしかし、大人らしく線の細い手から、閃光を救い上げる。しかし、閃光はすぐに霧散し、マナに戻る。
「うん、じゃあ次。次は指先に集まるように想像してみて」
「想像? 考えるだけでいいのか、手で動かすのではなく?」
「そう、武技を発動するとき私は、手でかき集めてないでしょ。慣れればマナもオドも体の一部の様に使えるの。得意不得意があるけど」
体の一部と言われても、別にマナを知って見えるようになったからと言って、異物感、基、乖離感があるのは確かだ。
まあ、とりあえず想像しろと言うからには、血肉や神経がつながっているところを思い描くしかない。話が余りにも突発すぎてどうすればいいか分からない。
だが、やり方はあっていたようだ。肺を満たしているマナ同様、指先にマナが溜まっていく。指を曲げると、マナの溜まりがついてくる。が、マイスマの手から離れたことにより、閃光から色が抜け白くなり、LEDの様な安定した光になる。
「おお早い。それに、すごく真っ白、ほとんど、いや全くオドの影響を受けてない。やっぱり、ミキくんにはオドがないのね」
「……異世界生まれの人間ないのは、そりゃそうだという気はするが、無いと言い切られるのは結構ショックだな」
「そうね、オドがないならオドを使った魔法は使えないけど、オドがないなら武技にいらぬ干渉を与えないからね。
基本的にオドが多い人は魔法が得意で、武技が苦手。少ない人は魔法が苦手で、武技が得意なの。中途半端よりはよかったんじゃない?」
「お、おう。そういう事にしとくが、今更っと魔法って単語が得てきたな。もう武技が魔法の様な気がするが」
「まあ、武技を知らないなら魔法も知らないよね。でも魔法の話は武技を習得してからね」
「了解」
#NULL!
そのあと、指先だけでなく全身でマナを操る訓練をした。最初は一番マナを感じられる肺の中だ。正直体内で試すのは恐怖でしかないが、やらねばならない。
ひとまず始めたのは呼吸の練習である。哺乳類の肺は出入り口が一つしかないため、酸素を吸うと二酸化炭素を吐くを同時にできない。
それに、窓が一つしかない部屋は上手く空気が循環しない。どこかで聞いたが一呼吸では肺の3分の1しか空気が入れ替わらないらしい。
しかし、鳥類や恐竜は“気のう”を持っていて、具体的な仕組みは上手く説明できないが、結論だけ言うと吸う、吐くそれぞれで肺の空気全てを循環できるらしい。
やらうとしているのはこれの模倣だ。だが、別にマナを動かすだけで、気のうを作れるわけではない。
作るはマナを使ったサーキュレーターである。胸式呼吸でも腹式呼吸でもなくマナ式呼吸だそうだ。鳥の様に山より高い場所でも平気とはいかないだろうが、素の状態だと酸素中毒になるかもしれない。
しかし、次の特訓を考えると必要になるかもとのことなんで今日は、念入りにこの訓練に時間を費やした。