瘴気
「マイスマは、なんで一人で暮らしているんだ?」
「そうだね、ちょうどいいし治療も踏まえて話そうかな」
身構えて質問をしたが、あっさりと答えてくれた。まるで、得意不得意を話すかのような気軽さで話し始める。
まずは、マナの不循環の治療法から始まった。
「結局の話、マナの不循環、オドの不循環もだけど不慣れなせいなの。だから、治療法はできるだけ多くマナに触れるだけ」
「そんなもんなのか、でも確かに一刻を争う状態だとなんとも悠長な話だな」
「そう、でもそれはあくまで未成熟な赤ちゃんだから、感覚的に教えてあげるしかないためなの。もし、患者がそれなりに成熟していれば、知識として慣れることができるからもっと早く治る可能性がある……って書いてる」
「つまるところマナの勉強をすればいいてことか。でもそれがさっきの話にどうつながるんだ?」
「それはもう少し先。まずは、マナの具体的な話とそれを知覚する方法ね
マナとは、ミキくんが言っていた通り、自然界のどこにでもあるものなの。で、マナは肉体を強化したり、オドのもとになったりするの
ミキくんに学んでもらうのは、マナの肉体強化だね。それでもしかしたら自重で体を壊すこともなくなるかもしれないしね
じゃあさっそくお手本を見せたいんだけど、ここじゃ狭いから……外に出れる」
「ああ、大丈夫」
#NULL!
小屋の外は窓から見えていた通り、深い森だった。木は小屋の材質と同じくオレンジがかった樹皮をしている。
小屋の中とは違い、鳥や虫の声や様々なものが混ざったような匂いがする。まさにこれぞ森林浴という清らかな空気が漂っている。
まあ、その清らかな空気で吐いたんですが。案外治療なしでもすぐに慣れたのかもしれない。治療を受けて損はないだろうし、慣れるだけじゃその他の別問題を解決できないから受けるのだが。
マイスマは一本の木の前に立ち、マナ講義を始める。
「マナの肉体強化ってのは大きく二つあるの。一つは、マナを薄く纏って運動能力を全体的に上げたり、健康的になったりする方法。もう一つはマナを圧縮して蹴る殴るを強くしたりするの。」
マイスマは右手に拳を作り腕を引く。腰を下ろし、強い視線を木に向ける。
すると、マイスマの右手に赤黒い閃光が走る。閃光を纏った拳は木へと向かい、触れるかと思った瞬間閃光がぶれる。ノイズが走るように閃光が揺らぎ、木へとぶつかる。
木を打つ拳が、樹皮を爆散させる。そう、爆散である。ノイズが走る閃光が火薬が如く木を禿げさせる。
「これはね、武技と呼ばれるもので、さっきの閃光が見えたら気を付けね。
そして、武技ってのはね人によって多かれ少なかれオドの影響を受けるものなの。オドの説明は今は置いておくとして、私の場合はオドが瘴気ってちょっと特殊なオドなの。
さっきも武技がブレブレだったでしょ。ああいう感じで、瘴気はマナもオドも乱しちゃうの。だから、私は武技は苦手なんだよね。あははは」
マイスマはいつものように楽しそうな表情でそういうが……苦手であの威力なのか。あんなの食らったら皮膚がなくなってしまう。
「私が、一人で暮らしている理由なんだけど。ミキくんはそうでもないみたいだけど、村の人たちには瘴気は気持ち悪く感じるらしいの。曰く五感を掻き回されてるような気分になるんだって。
だから迷惑をかけないようにこうやって離れて過ごしているんだ」
サラッというが、なんともまあ重い過去を想像させる話である。瘴気というのは、病気を引き起こす悪い空気の物だったような。だが、マイスマのオドがそのような名勝で言われるからには、きっとそれ相応の理由があるのだろう。
俺には背たけの小さいお姉さんにしか見えぬが、その村の人たちとやらはどういう風に見えているのだろうか?
「じゃあ次は、実際に体でマナを感じることね。手を出して」
マイスマに言われるままに手を出す。マイスマは俺の手を取り、武技の閃光を宿らせる。閃光はすぐに歪み乱れ、電気マッサージを受けているそうな錯覚を受ける。
いや、錯覚ではなく電気がマナに変わっただけで同じようなものだろう。
これがマナか。今まで呆然と“ある”ということしかわからなかったが、武技の閃光を見て、手の平で感じる。
ふと気が付くことがあった。武技の閃光を見ても目がかすまなかった。わざわざ閃光と評するほどには強い光だと感じた。しかし、眩しいとは感じなかた。
それはひとえに、マナはマナであり光ではないのだろう。ただ第六感を表現できない俺の脳みそがそう置き換えた。そういったところか。
空へ、空気へ目を凝らす。別に目で見ているわけではないだろうから、この動作は意味はないのかもしれない。
次第に世界が少し明るく見える。 マナが疑似可視化されたのだろう。