会話
頭を抱える。頭痛と、それに隣で寝ている少女についてだ。
よく考えれば、看病をしてもらった身でありながらこの少女のことを何も知らないと思った。非常に変態的な話だが、少女の寝顔を見る。
少女というには随分と大人びた顔立ちをしている。西洋人の様に早熟なのか、ただ背丈が小さいだけなのか。そして、色の濃い赤髪をしている。赤毛の様な淡い色ではなく、どこか毒々しさを感じる髪色をしている。
そうやって眺めていると、少女……彼女の目がゆっくりと開いてくる。
ばッと視線を逸らす。別段やましいことはないはずだが、体が勝手に動いた。
「ん、んん? ……あ、起きたんだ」
「あ、あぁ、おかげでさまで。……あー、助けてもらった都合とやかく言えないんだが、これはどうなんだ?」
「ん? これって?」
彼女は何のことだかと言った様子で朝自宅を始める。着替え含めて。
ばッと視線を逸らす。今度は自分の意思で。
「そういうところ。少しは人目を憚ってくれ」
「そういえばそうだったね。こうやってちゃんと人に触れるなんて、すごい久しぶりだったから忘れてた」
彼女は「あはは」と笑いながら言うが、こっちは笑い事じゃないんだが。それに何やら闇の深そうな話が聞こえたが……。
「失礼だけど、おいくつ? すごく若く見えるけど」……主に背たけで。
「そう? そんな若く見える今年でもう28歳だったかな」
「若、すごい小柄だからもっと若いもんだと思ってた」
俺の言葉に彼女はさらに楽しそうに笑う。
「そりゃ君からしたら誰だって小柄だよ。私はこれだって女性の中では背の高いほうなんだよ。
そういえば君の名前は? 私はマイスマ」
「俺は、大学生の高原 幹。ミキって呼んでもらえれば」
「学生なんだ。それでミキくん。確認が遅れたけど体調の方はどう? もう起き上がって大丈夫?」
そういわれ、もう一度自分の体を確かめる。
何かによる異物感はほとんどなくなったが、肺の中をその何かが満たしているせいか息苦しさを感じる。感覚としては軽度の高山病の様な、酸素が不足している感じがする。
それに、物凄い体が重たい。疲れやダルさなんかじゃなく、飛行機が飛び立つときの様な、Gが掛かっている重さだ。
もしかしてこの小屋、UFOだったりしないか? 絶賛高高度飛行中だったり……いやそんなわけないのは分かってる。ただの病人の戯言だから気にしないでほしい。
兎に角、その旨を伝える。
「んー。その年で発病するのかは分からないけど、前半の話は心当たりはある。でも後半のほうは分かんないかな……それに飛行機って?」
飛行機云々は置いておいて、心当たりがあるのならぜひとも教えてほしい。今はせめてこの息苦しさだけでもなんとかしたい。
「んーとね心当たりってのは……いや、素人が適当に話すのはよくないよね。ちょっと待ってて、書物を借りてくるから」
マイスマはそう言うが早いか、小屋を飛び出していった。なんともまぁ、身軽なお姉さんだことだ。
一人取り残された俺は、どうしたものかと再度室内を見渡す。一人暮らしあるあるだが、結構物が散らかっている。
ちょっと親近感が湧いたが、散らばったものは何が何やらよく分からないものが多いが、基本的にスケールが小さい。そりゃあマイスマ用の物なんだから、俺にとって小さいのは当たり前だが。
ふと、箒に目が留まる。簡素な竹箒なのだが、付け根に緑色の宝石が埋め込まれている。もう少し凝るところあっただろうに。
マイスマは「待ってて」と言ったが、本当に待っているわけにもいかない。勝手に室内を触るのは憚られるが、掃き掃除くらいならいいだろう。
おもい体を箒で支えながら立ち上がる。
ゴンッ! っと頭上から音と痛みが襲い掛かる。そういえば、小屋のサイズ感もマイスマ基準だった。頭を打ち付けた勢いでそのまま倒れそうになる。……これは、しゃがみながらの作業になりそうだ。
#NULL!
単純な運動をしてると頭が回ると言うが、今の俺が得られたのは頭痛と息切れである。
だからと言って、何にも考えていないわけではない。結果が得られたかというと怪しいが。
今考えないといけないことは、
1,ここはどこで今はいったいいつなのか。
2,何故、知らない場所にいるのか。
3,この息苦しさと、体の重さは何なのか
4,マイスマの発言にあった、あの身長で女性では高身長だということ。
5,飛行機を知らないと言っていたこと。
6,マイの身なりや部屋にあるよくわからない物達。
いつもなら、こじつけなりで無理やりにでも答えを出していたのだろうが、いまいち頭が働かない。
否、こじつけ業界で一番のこじつけならばある。たった一言ですべてが説明できてしまうこじつけが。